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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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ラスベガスを越えて

 「何を言っているんですか」


 支援チームの女性が、即座にそう返してきた。


 「そもそもですけど、開催地には厳重な警備が敷かれているはずです。そんなこと、できるわけないでしょう」


 「そうですよね……」


 言われてみれば、その通りだった。


 世界鑑定学会。

 各国の鑑定士や関係者が集まる場所。

 しかも開催地は、アメリカ国内のダンジョン内。


 どう考えても、俺が気軽に配信していい場所ではない。


 『りょう おとなに なれ』


 「シオにまで言われた……」


 『しお おとな』


 「いや、それはどうかな」


 『しお ものしり』


 「まぁ最近は物知りになってきたけど」


 魔物が出ない場所での配信。

 少しだけ、ほんの少しだけ面白そうだと思っただけだ。

 魔物が出ないダンジョンなら、安全に現地の雰囲気を伝えられるかもしれない。


 そう思っただけなのに、支援チームの女性も、内閣府特命チームの担当者も、完全に危険物を見る時の反応になっていた。


 「真壁さん」


 「はい」


 「そういう悪い癖は、直してください」


 年下の支援チームの女性に、かなり真面目に注意された。


 「……はい」


 反論できない。

 シオも、なぜか得意そうにしている。


 『りょう はんせい』


 「しています」


 『よろしい』


 「なんでシオが上の立場なんだ」


 その日は、そこから大きな予定はなかった。

 明日の移動時間や同行者、現地での通信制限、会場に入る前の注意事項まで、一通り説明を受けた。

 それで、俺はようやく休むことになった。


 初めての海外。

 初めてのアメリカ。

 そして、初めての世界鑑定学会。


 考えることは多い。

 だが、慣れない飛行機移動、それも長距離移動の疲れの方が強かった。


 一方、シオは用意された台座の上で、いつも通り動画を見始めた。


 『あめりか よしゅう』


 「その調子で俺にも教えてくれ」


 『りょう がんばれ』


 「教える気はないんだな」


 結局、俺はそのまま眠ることになった。



 ◇



 翌日。


 予定通り、俺たちは在ロサンゼルス日本国総領事館を出発した。

 車でロサンゼルス国際空港へ向かい、そこから飛行機でラスベガスへ移動する。

 昨日日本からアメリカへ来たばかりなのに、もう次の飛行機だ。


 「また飛行機か……」


 「ロサンゼルスからラスベガスまでは、およそ一時間です」


 支援チームの女性が説明してくれる。


 「一時間なら、まあ……」


 「真壁さんの場合、移動そのものより前後の確認の方が長く感じるかもしれません」


 「それはもう感じています」


 一般客として海外旅行をしているわけではない。

 だが、シオだけは平常運転だった。


 『ひこうき にかいめ』


 「もう慣れてきたのか?」


 『しお ばつぐんの たいおうりょく』


 「すごいな」


 俺よりも、シオの方がずっと海外移動に順応している気がする。


 飛行機は予定通りラスベガスに到着した。

 空港を出ると、現地で用意されていた車に乗り込む。


 「ここからは陸路になります」


 内閣府特命チームの担当者が言った。


 「このままモニュメントバレー方面へ?」


 「はい。ただし本日は途中の街で宿泊します。会場入りは、さらに調整を挟んでからです」


 「なるほど……」


 車が走り出した。


 最初に見えてきたのは、ラスベガスの中心部だった。

 道路沿いに、巨大なホテルや派手な建物が並んでいる。

 日本の都市にあるホテルとは、派手さの方向が明らかに違う。

 まるで目立ってナンボ、である。


 「ここ、映画で見たことあるぞ」


 『おーしゃんずいれぶん ここでとった』


 「お、おおぅ」


 シオが妙に詳しい。

 だが、俺はその映画自体見たことがない。

 CMとかなんかの動画でちらっと見た程度だった。

 ここで知らないと言うと、またシオに不勉強扱いされそうだった。


 「あー、あれね」


 『りょう みてない』


 「なぜ分かる」


 『りょう うすい』


 「何が?」


 『はんのう』


 「そこまで読まれるのか……」


 車はそのままラスベガスの大通りを抜けていく。

 途中、遠くに見覚えのある形の塔があった。


 「なあ、あれってパリにある有名な塔じゃないか?」


 『えっふぇるとう』


 「そう、それ」


 『あれは にせもの』


 「言い切ったな」


 『らすべがす べんきょうした』


 「なるほど。勉強の成果か…」


 『べんきょうの たまもの』


 「そうだな。えらいぞシオ」


 『りょう ふべんきょう』


 「ぐぬぬ……」


 何も言い返せない。


 動画を見ているだけだと思っていたが、シオはかなり吸収している。

 少なくとも、今のラスベガス知識では俺より上だった。


 やがて派手な建物が減っていき、街の密度も変わっていく。

 そして、景色は一気に荒野へ変わった。


 「なんか、東京とはまるで逆ですね」


 建物が視界に見渡す限り存在しない。

 地平線まで続く道だけがあり、そして広い土地がずっと続いている。


 「何もないスケール感が、半端ない…」


 「アメリカでも東部は緑が豊かな地域が多いのですが、西部は雨が少ない場所もありますからね」


 支援チームの女性が、窓の外を示しながら説明した。


 「こうした荒野が、日本の国土と比べられるような規模で続くこともあります」


 「へぇ……」


 俺は、ただ外を見た。


 圧倒的に広い。


 その一言しか出てこない。


 日本のダンジョン都市や、東京の密度とはまったく違う。

 同じ世界なのに、土地の使われ方も、距離の感覚も違う。


 「いかに自分が不勉強だったのか、これを見るとよく分かります」


 『りょう ふべんきょう』


 「二回言わなくていい」


 『だいじ』


 「大事なのか……」


 俺は苦笑しながら、遠くへ続く荒野を見続けた。


 世界は広い。

 ありきたりな言葉なのに、車の中でその意味が少しだけ分かった気がした。

読んでいただきありがとうございます。

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