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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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桐野からの電話

本日カクヨムにて、サポーター専用SS『久遠ことねは、スキルを貸しただけ…なのに』を公開しました。

カクヨムの近況ノートに掲載しておりますので、どうぞお楽しみください!

 画面に表示された名前を見て、俺は思わず声を漏らした。


 「桐野さん?」


 このタイミングで?

 いや、本当にこのタイミングで?


 室内にいる支援チームの女性と、内閣府特命チームの担当者を確かめる。

 二人とも、一瞬だけ反応に困ったようだった。

 俺は仕込みを疑ったが、どうも様子からして違うようである。


 支援チームの女性が、通話に出てください、と言うように軽く促してくる。

 俺は少しだけ迷ってから、通話ボタンを押した。


 「もしもし」


 『あぁ、真壁さん? 今大丈夫?』


 聞こえてきたのは、あの時と変わらない桐野の声だった。


 ほんの一瞬、胸の奥が詰まった。

 病室で聞いた声。

 あの時、まだ体を動かすのもつらそうだった桐野の声。


 それが今、普通に電話の向こうから聞こえている。


 俺は慌てて返事をした。


 「もちろん大丈夫ですよ! 今ちょうど打ち合わせ終わったところなので!」


 支援チームの女性が、じっとこちらを見た。

 内閣府特命チームの担当者も黙っている。


 終わっていないですよ、という声が聞こえたような気がしたが、いったん無視することにした。


 『相変わらず忙しそうね。あ、WEG東京見てたよ! さすが事故配信者!』


 「ちょ、ちょっと……やめてください」


 『華麗なまでに事故配信を連発してたね。入院中なのに腹抱えて笑ってさ。そのたびに外の護衛が来るのよ。何かありましたか、って』


 「それは……すみません」


 『ちょっと鬱陶しかったけど、まあ楽しかったから許す』


 「あはは……楽しんでくれてたなら、よかったです」


 電話の向こうで、桐野が笑った。

 元気そうで、少しだけ安心する。


 「そういえば桐野さん、体はどうです? 回復は順調なんですか?」


 『実はね、少し前に退院してたの』


 「えぇ!? なんで知らせてくれなかったんですか?」


 『だって真壁さん、めっちゃ忙しそうだったじゃん。知らせたら絶対に見舞いに来るでしょ? それはさすがに悪いかなって』


 「そんな……確かに、聞いてたら行ってましたけど。でもよかったです。無事に退院できて」


 『ありがとう。身体の方はもう元通り。あとは実戦から離れてた期間が長いから、それを取り戻さないとねぇ』


 「もうトレーニング始めるんですか? 病み上がりじゃないですか」


 『あはは。それは一般の人の話でしょ? 私たち探索者はレベルの恩恵があるからね。あんだけ寝てたら、さすがに体を動かしたいのよ』


 「それはまあ……そうですね」


 俺は話だけ合わせた。

 なお、当方はレベル1のままだ。

 そのあたりは一般人とまったく大差ない。


 レベルの恩恵という言葉を聞くたびに、探索者という存在の感覚は自分と少し違うのだと思い知らされる。


 『それで、電話したのは別の用事があってなんだけど』


 桐野は、そこで本題に入った。


 『真壁さん、WEG東京終わって、何か予定あるの?』


 「予定ですか?」


 俺は支援チームの女性を見た。

 内閣府特命チームの担当者もこちらを見ている。

 なぜか凄まじい圧を感じる…。


 「いや、決まった予定はありません!」


 二人の担当者が、同時にこちらへ反応した。

 ものすごく何か言いたそうだった。


 だが、決まっていないものは決まっていない。


 『あー、じゃあさ。一緒にイギリスのロンドン行かない?』


 「へぇ……桐野さん、ロンドンに戻るんですか」


 『うん。ちょっと実家に戻らないといけなくてさ。それで暇なら、一緒に旅行でもどうかなって』


 「……ん?」


 今、何と言った?


 「今、一緒に行こうって言いました?」


 『言いました。話ちゃんと聞いてた?』


 支援チームの女性と、内閣府特命チームの担当者が、同時に反応した。


 まさか。

 その言葉が、二人の間で通じ合ったように見える。


 担当者が、こちらへスピーカーフォンに切り替えるように示してきた。

 俺はそれに気づかないふりをしたが、二人の圧が依然強い。

 仕方なく、通話をスピーカーに切り替えた。


 「いやでも、俺、イギリスっていうか海外に行ったことないんですよ。英語も話せないですし」


 『あはは! 真壁さん、絶対に引きこもってそうだもんね』


 「ひどくないですか?」


 『それなら任せて。こっちで全部手配するから』


 その言葉を聞いた瞬間、内閣府特命チームの担当者と支援チームの女性が、今度ははっきりとうなずいた。


 やめろ。

 その反応はやめろ。

 何か悪い方向に噛み合った音がする。


 「あー、桐野さん? こちら内閣府特命チームの真壁担当です」


 『わっ! いきなり知らない人が入ってきた!』


 「突然すみません。それについて、少し相談したいことがありまして」


 『相談……ふーん。何かあったの?』


 俺は担当者を見た。


 「いや、大したことな――」


 「実は、世界鑑定学会に真壁さんが招待されまして」


 こやつ、言いやがった。

 俺は支援チームと内閣府特命チームの二人をにらんだ。

 なんでそれを今言うんだ、というメッセージを込めて。


 『えーーー! うそ!?』


 桐野は、素で驚いた。


 『……いや、真壁さんなら全然あり得るか。むしろ、そこまで手が回ってる……? うーん』


 何か不穏なことを言っている。


 「桐野さん? 今のどういう意味ですか?」


 『気にしないで』


 「気になる言い方をしておいて!?」


 『じゃあさ、最初に学会に出て、そのあとイギリス行きましょ』


 桐野は、あっさりと話を進めた。

 支援チームの女性と内閣府特命チームの担当者が、互いを見て、控えめに拳を握った。


 やめろ。

 勝ったみたいな反応をするな。

 俺はまだ負けていない。


 「え、いや、俺、学会には行き――」


 『真壁さんのことだから、めんどくせーなーとか思ってるんでしょ』


 「否定は……」


 『できないでしょ』


 「……できません」


 『でもね、後のことを考えたら行っておいた方が絶対にいいよ』


 「え? いや……まあ、そうなんですかね?」


 『どうせ今後も厄介ごとは増えていくんだから、世界的に自分の側についてくれる組織なり、人なり、縁はつないだ方がいいと思う。それに真壁さん、もうそういう立場の人よ? 諦めて参加しなさい』


 「ぐぬぬ……何も言い返せない……」


 桐野の言い方は雑に聞こえる。

 でも、たぶん間違っていない。


 俺はすでに、いろいろなものに巻き込まれている。

 こちらが逃げようとしても、向こうから来る。

 なら、こちら側の味方を増やしておくべきだ。


 そう言われると、反論が難しい。


 『それに学会って言っても、参加するだけで何か発表するわけじゃないんでしょ?』


 内閣府特命チームの担当者が答える。


 「はい。現時点では、真壁さんが研究発表を行う予定はありません。鑑定位の審査や、関係者との面会が中心になる見込みです」


 『だったら、それってもう海外旅行じゃない。長期休暇みたいなもんでしょ』


 「……確かに」


 俺は思わずつぶやいた。

 支援チームの女性が、同時に頷いた。

 いや、その反応はやめてほしい。

 だが桐野の言葉に俺も今、かなり揺れている。


 『面倒なことは全部、国がスケジュールから手配までしてくれるんでしょ?』


 内閣府特命チームの担当者が、すぐに答えた。


 「もちろんです。出入国の手配、滞在先、移動、護衛、現地での調整は、すべてこちらで引き受けます」


 『真壁さん、やったじゃん。苦もなく長期休暇取れるよ? これはもう行くしかないっしょ』


 俺の心が、かなり揺れた。


 初めての海外旅行。

 海外経験ゼロの俺でも、現地に着いてから困らないよう全部国が手配してくれる。

 しかも、学会のあとは桐野とロンドン。


 条件だけ見れば、かなりいい。

 だが一方で、また丸め込まれている気もする。


 毎回こんな感じだ。

 気づいたら厄介ごとの中心にいる。

 俺の人生、最近ずっとこの流れでは?


 そう考えていると、部屋の端からシオが話しかけてきた。


 『しお りょうと りょこうしたい』


 「え?」


 シオだった。

 専用の台座に乗ったまま、こちらを見ている。


 『もっと そとのせかい みたい』


 「シオ……」


 その言葉で、考える方向が変わった。


 これは、俺だけの都合ではない。

 シオは生まれてからまだ日が浅い。

 この部屋と、ダンジョンと、限られた場所しか知らない。


 外の世界を見たい。

 そう言われたら、無視できない。


 親として、いろいろなものを見せるのも役目なのかもしれない。


 俺は少し考えてから、内閣府特命チームの担当者を見た。


 「……わかりました。学会、行きます」


 その瞬間、室内が沸いた。


 支援チームの女性と内閣府特命チームの担当者が、同時に立ち上がりかける。

 後ろにいた支援チームの職員たちも、声を押さえながら喜んでいる。


 なんだこの勝利ムード。

 俺は何に負けたんだ。


 電話の向こうで、桐野が呆れたように言った。


 『また真壁さん、駄々こねてたのね』


 「またとは何ですか」


 『そのままの意味』


 「俺は自分の人生を守ろうとしているだけです」


 『はいはい。じゃあ、学会終わったらロンドンね。楽しみにしてる』


 「……はい。よろしくお願いします」


 こうして、俺の初めての海外行きが決まった。


 世界鑑定学会。

 ロンドン旅行。

 そして、シオとの初めての遠出。


 どう考えても、ただの休暇では終わらない気がする。

 でも、シオが少しだけうれしそうにしているのを見たら、まあいいかと思ってしまった。


 最近、俺は自分でも思う。

 かなり甘い。

 

 そしてシオは盛大に光の屑をまき散らしていた。

 手元にある複数の、それもさらに追加された高級魔石を覆い隠すかのように、それはまた、盛大に。

読んでいただきありがとうございます。

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