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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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世界鑑定学会の招待状

新章開始です!

世界鑑定学会編。

夏の間に終わるようがんばります。。。

 WEG東京は、無事に全日程を終えた。

 表向きには、過去最大規模の国際探索者競技大会。

 開会式の光演出、競技部門の盛り上がり、閉会式での各国選手の集合写真。

 どれを取っても、ニュース番組がしばらく使い回せるだけの映像が残っている。

 大会後の公式発表でも、組織委員会は「大成功」という言葉を使った。


 ただし、表に出せない資料は、その何倍もあった。


 ダンジョン庁本庁の会議室には、関係者が集められていた。

 ダンジョン庁、内閣府特命チーム、警察庁、外務省の上層部。

 テーブルの上には、大会報告書とは別に、閲覧者が限られる資料が並んでいる。


 「表向きは大成功で終わりました。ですが、ここにいる皆さんは、裏で何が起きていたかを知っています」


 誰も軽く頷かなかった。

 開会式の裏でWB十二席第三席Hagalazが会長に成り代わっていたこと。

 中央演出塔に闇の加護と連動する仕込みがあったこと。

 真壁とシオがそれを見抜き、結果として世界規模の光聖祝福が発生したこと。

 競技用ダンジョン側でも、真壁の鑑定がなければHARDモード化への対応は遅れていたこと。


 大会を成功と呼べるのは、偶然ではなかった。

 いくつもの危険が、表に出る前に潰されていた。


 警察庁側の幹部が言った。


 「今回も、真壁さんに救われた形ですね」


 「認めざるを得ません」


 ダンジョン庁側の幹部が答えた。

 声に派手な感情はない。

 ただ、その一言に反論する者もいなかった。


 内閣府特命チームの一人が、次の議題へ移した。


 「問題は、WB側の発言です。Hagalazは日本から手を引くと口にしています」


 「本当に手を引くと思いますか」


 外務省の担当者がそう言うと、会議室の何人かが同じ資料へ視線を向けた。

 そこには、Hagalazの発言と、深層生物による撤退経路の推定がまとめられている。


 瀬尾副長官は、少し間を置いてから答えた。


 「少なくとも、あの場から離れるための言葉だった可能性は捨てられません。日本国内での大規模工作を一時的に控えるとしても、別の形で接触してくることは考えるべきです」


 「つまり、額面通りには受け取れない」


 「はい。撤退宣言ではなく、次の手までの空白と見ます」


 その答えで、会議の結論はほぼ固まった。

 WEG東京は成功。

 ただし、WBへの警戒は解除しない。

 真壁遼とシオに対する接触管理も継続。

 各国への説明は、表向きの大会成功と、安全保障上の非公開情報を切り分けて進める。


 議題は最後の確認へ移ろうとしていた。


 その時、会議室の扉が控えめにノックされた。

 壁際で待機していた事務方の若い職員が、扉の外へ出る。

 短いやり取りの後、職員は一通の封書を持って戻ってきた。


 厚手の白い封筒だった。

 表面には日本語の宛名と、英語の組織名が併記されている。

 裏側の封蝋には、一本の木とレンズを組み合わせた紋章が押されていた。


 職員は封書を確認し、ほんの少しだけ動きを止めた。


 「瀬尾副長官。至急扱いです」


 「こちらへ」


 封書を受け取った瀬尾副長官は、封蝋の紋章を見た瞬間に眉間を寄せた。


 「……そういえば、もうそんな時期でしたか」


 会議室の中で、数人が小さく反応した。

 その紋章に見覚えのある者がいたらしい。


 瀬尾副長官は封を切り、中の書面を確認する。

 読み進めるうちに、口元が固くなった。

 隣にいたダンジョン庁幹部が、小声で尋ねる。


 「何か」


 瀬尾副長官は、書面を一度テーブルへ置いた。


 「世界鑑定士連盟から、日本国宛てに世界鑑定学会の招待状が届きました」


 その言葉で、会議室の緊張が少しほどけた。

 厄介ごとがまた増えたのかと誤解していた者たちは、ああ、と短く声を漏らす。


 「今年もその時期でしたか」

 「御厨先生方の出席調整ですね」

 「WEG後で時期は悪いですが、国際学会なら外せません」


 鑑定士業界において、世界鑑定学会はただの研究発表会ではない。

 各国の特級鑑定士、鑑定機関、ダンジョン由来品の分類権限を持つ組織が集まる場だ。

 国内ではそこまで重要視されているわけではないが、世界的にみると、この学会に呼ばれるということは世界に認められた鑑定士、というお墨付きを得ることになる。

 日本からは、毎年のように御厨一族の名が招待者リストに入る。


 だから、そこまでは誰も驚かなかった。


 瀬尾副長官は、書面の二枚目を見たまま言った。


 「今年も御厨一族の名前が記載されています。御厨玄斎氏、御厨宗一郎氏、御厨澪氏。ここまでは例年通りです」


 そこで、瀬尾副長官の言葉が止まった。

 会議室の反応が、また変わる。


 「ただし、今年は新たに一名だけ、追加招待者の名前があります」


 外務省の担当者が、資料を見る前に口を開いた。


 「まさか」


 瀬尾副長官は頷いた。


 「真壁遼の名前が、ここにあります」


 会議室のあちこちで、椅子の脚が床を擦った。

 WEG東京を終えた直後、そしてWBへの警戒を解けないこの状況。

 今度は、世界中の鑑定士が集まる場から、真壁が名指しで呼ばれた。


 誰かが、資料を見たまま言った。


 「……休ませる暇がありませんね」


 瀬尾副長官は、書面を見たまま答えた。


 「そこも含めて、真壁さん本人への伝え方を考えましょう」


 会議室の全員が、その言葉に反応しなかった。

 真壁が素直に受ける光景を、誰も想像できなかったからだ。



 ◇



 WEG東京が終わった。

 本当に終わった。


 俺はその日、ソファーの上でほぼ溶けていた。

 スマホもテレビも予定表も、今日は開かないと決めていた。


 人間には、何もしない日が必要である。

 特に俺には必要だった。


 ローテーブルの横には、いつの間にかシオ専用の小さな台座が置かれていた。

 研究所と支援チームが相談して用意したらしい。

 台座はちょうど人間の膝上の高さに調整され、スマホ固定具と魔石ジュース用の小さなホルダーまで付いている。


 シオは、その台座の上で動画を見ていた。

 デコレーションされた自分用スマホを前に置き、触手で画面を操作している。

 横には紫色の魔石ジュース。

 小皿には、たぶん俺の昼食より高い魔石が数個。


 シオは動画を見ながら、魔石をひとつ体へ押し当てた。

 少し待ってから、ストローで魔石ジュースを飲む。

 そしてまた動画に戻る。


 「……シオ」


 『なに?』


 「こんなにも人間っぽい生活をシオが送ることになるとは思わなかった」


 シオは動画を止めずに、触手を一本だけ上げた。


 『ろうどうたいか とうぜんのけんり』


 「労働対価を覚えた高位生命体、それは嫌だな……」


 俺はソファーの背もたれに体を預けた。

 別にシオが悪いわけではない。

 開会式であれだけのことをして、閉会式では世界中の選手に囲まれ、最後はカメラマンまでこなした。

 むしろ、高価な魔石と魔石ジュースと動画くらいでは、安いのかもしれない。


 ただ、台座の上でだらだら過ごすシオを見ていると、何かを間違えた気がしてくる。

 俺より休日を使うのが断然うまい。


 ぼんやりしていると、WEG東京の記憶が少しずつ戻ってくる。

 開会式の光。

 運命視のサイコロ。

 そして、あの時に聞こえた声。


 『星に願いは届いた』


 あれは、どこから聞こえたのか。

 会場のスピーカーではない。

 シオでもない。

 久遠のスキルでもない。


 俺とシオだけに届いた、あの声。


 思い出すたびに、普通の魔物や人間とは違うものを見た時の感覚が残る。

 鑑定結果の表示欄に名前が出ない何かを、無理に覗いた時の感覚に近い。


 「高位生命体、か……」


 横浜でシオを見つけた時から、そういう記述は何度か見ている。

 神様という言葉で片付けていいのかは分からない。

 けれど、少なくとも俺たちが普段相手にしている探索者や魔物の範囲ではないのだろう。


 シオを見る。

 当のシオは、動画の中で自分が映るたびに、殻の光を小さく揺らしていた。


 「シオ、本当に何者なんだろうな」


 『しお』


 「それは知ってる」


 シオは魔石をもうひとつ手に取った。

 答える気はないらしい。


 俺は天井を見た。

 政府系の仕事は、ひとまず終わったはずだ。

 WEG東京も閉会した。

 公式配信も、競技調整も、アリーナリポートも終わった。


 つまり、支援チームもいったん解散。

 俺はしばらく普通の生活に戻る。


 品川第七ふ頭ダンジョンに戻って、いつもの仕事をする。

 配信も、やるなら自分のペースでやる。

 誰かの会議室に座らされることもない。


 そう思った時、部屋のチャイムが鳴った。


 俺は反射的に動かなかった。

 シオも動画を止めない。


 もう一度、チャイムが鳴る。


 「……いやな予感がする」


 『おしごと』


 「決めつけるな」


 インターホンを見ると、支援チームの女性が映っていた。

 俺は通話ボタンを押す。


 「何かありました?」


 『真壁さんにお知らせがあります。至急ではありますが、危険案件ではありません』


 「危険案件ではないなら、明日でもよくないですか」


 『明日に回すと、真壁さんが外出予定を入れる可能性があると判断されました』


 「……とても信用がない」


 『あります。ですので先に来ました』


 それは果たして信用なのか。

 俺は渋々、玄関を開けた。

 支援チームの女性は、いつもの業務用のタブレット端末と、薄い封筒を持っていた。


 「お休みのところすみません」


 「休みだと分かっているなら、明日でもよかったような…それよりもです。長期休暇が欲しいです」


 「……長期休暇ですか」


 「はい。あれだけ酷使されたので、休暇が欲しいです。具体的には一週間くらい」


 支援チームの女性は、少し考えた。


 「そうですね……」


 「いま本気で検討しました?」


 「検討はします。ただ、その話をする前に、至急お伝えしなければならない件があります」


 「その言い方で、今までいい知らせだったことあります?」


 「……真壁さんにとっていい知らせかどうかは、判断が分かれますね」


 もう嫌な感じしかしない。


 支援チームの女性は封筒から一枚の用紙を取り出し、俺へ差し出した。

 厚手の紙に、見慣れない紋章が印刷されている。

 一本の木とレンズを組み合わせたようなマーク。

 下には、日本語訳付きで差出人が書かれていた。


 世界鑑定士連盟。

 世界鑑定学会。


 「……学会?」


 俺は受け取った封がされた用紙を中身を見もせず鑑定をかけた。


 ――――――――――――――――――――

 対象:世界鑑定学会 個別招待状《複製》

 分類:国際鑑定士団体発行文書

 効力:有効

 宛先:日本国政府経由 真壁遼

 備考:世界鑑定士連盟による本人指定招待。御厨一族への例年招待とは別枠。

 代理出席不可。観測記録、未分類鑑定ログ、光聖祝福現象に関する説明要請を含む。

 なお、本文書は複製である。

 ――――――――――――――――――――


 俺は鑑定結果を見て、用紙から支援チームの女性へ顔を向けた。

 彼女は、この件について説明しようとしている。


 その前に、俺は言った。


 「いや、俺、三流大学しか出てないのでパスします」


 支援チームの女性が、固まった。


 「……え?」

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