閉会式もお仕事です
作者よりお知らせです。
カクヨムの方でサポーター専用のSS第12話目『真壁遼は普通に昼食を食べたい』を近況ノート更新しました!
カクヨムの方ではストーリー進行が遅いですが、専用エピソードを近況ノートの方に掲載していますので、興味ありましたら是非のぞいてみてください(サポーターズパスポート加入などが必要になります)
ホテルへ戻った時には、日付が変わりかけていた。
ダンジョンコアへ繋がる黒い接続端末。
競技用ダンジョンのHARDモード解除。
そして、なぜか俺の鑑定で侵入できてしまった、ダンジョンコア簡易管理画面。
言葉にするとかなり創作に富んだ、駄目な報告書の見出しみたいだった。
俺はホテルの部屋に入る前、同行してくれた支援チームへ頭を下げた。
「今日はお疲れ様でした」
「本当にお疲れ様でした、真壁さん」
支援チームの担当者は苦笑した。
目の下が少しだけ疲れている。
「本日の件は、既に内閣府特命チームへ速報で上げています」
「やっぱり報告しますよね……」
「早く上げないと、現場で何が起きたのかを別ルートから聞かれますので」
「向こうは大丈夫なんですか?」
「ははは。大丈夫ではないと思います。また徹夜になる、とぼやいていました」
「………」
俺は何も言えなかった。
そしてシオがもそっと動く。
さも当然かのように、とある言葉を投げてきた。
『こんど あやまっとけ』
「……はい」
俺は素直に頷いた。
ダンジョンの管理画面を勝手に開いた人間が、上の人たちに徹夜を発生させた。
事実だけ並べると、謝る以外の選択肢があまりなかった。
「シオに正論を言われる日が来るとは」
『しおは つねに ただしい』
「そこまでではない」
シオは不満そうにぷるっと殻を小さく揺らした。
その日は、それ以上何かをする気力もなく終わった。
風呂に入り、資料だけ支援チームの共有フォルダへ上げ、ベッドに倒れる。
閉じかけた意識の端で、スマホの通知が震えた。
内閣府特命チームからの確認事項だった。
俺は画面を見なかったことにした。
◇
そこから先の日々は、かなり早かった。
競技は勿論続き、日々世界の熱狂を煽る白熱の戦いが繰り広げられていた。
それに応じて公式配信も熱狂の渦を巻き起こすためにもちろん続く。
観客は毎日増え、会場の熱気も、人々の関心も、初日より落ち着くどころか大きくなっていった。
そして俺たちは、ほぼ毎日どこかの配信に引っ張り出された。
踏破部門に駆り出されたと思えば、今度は救助部門での実況配信。
素材鑑定の特別解説が大会中日に挟んで、また大きな反響をまき散らす。
それ以外にも海外チームの装備紹介では選手全員から嫌な顔をされつつ、生配信を行い、これもまた世間から事故配信扱いされる始末だった。
そして最終日が近くなってくると、今度は閉会式前の振り返り番組への出演。
俺はそのたびに、台本を渡され、注意事項を読まされ、非公開情報を口走らないように念押しされ、その都度、「大丈夫です」「今度は上手くやります」「あれ? とか変な言葉は決して言いません」と繰り返し、そして繰り返し破られる。
とある配信スタッフから「ここは賽の河原か? 石を積んでは鬼に壊されて、また泣きながら石を積んでいる気分だ……また壊されるのにね」と真顔で呟かれた。
さすがの我が相棒も『さすが じこはいしんしゃ すごい』と言った後に『でも やりすぎ ちゅうい』と心配されるまでに至ってしまう。
違うんだ、シオ。
俺はやろうと思ってやってないんだ。
そう何回心で呟いたことか……。
俺はこの状況を見て思わず、「俺を呼んだ政府が悪いんだ…」と珍しく他責していた。
そして今日も賽の河原で泣く子が必死になって積んだ石を壊しまわる鬼が、配信現場にやって来ていた。
「真壁さん、今日は…いや、今日こそ鑑定結果をそのまま言わないでください」
「はい」
「特に、選手の保有スキル、装備の隠し機能、運営側の安全装置には触れないでください」
「はい」
「あと、何か見えても『おっ』は禁止です」
「……はい」
「ちなみにこのやり取り何回目か数えてますか」
「………はい。今日で10回目です…」
だいたい毎回これだった。
ひどい日には、俺が一言も喋っていないのに、コメント欄が勝手に盛り上がった。
『真壁さんが黙ってる』
『何か見えてるな』
『相馬、止めろ』
『あいつまたやるぞ』
『シオちゃん、真壁さんを見張って』
『公式が警戒態勢に入ってて草』
『世間ではこれも競技だって言う話らしいが』
『斬新だな。事故配信競技とか』
俺は普通に黙っていただけである。
それでも相馬は、イヤホン越しに必ず言った。
『真壁さん、その沈黙、意味あります?』
「ありません」
『本当に?』
「……本当にありません」
『シオちゃん、真壁さんは本当に何も見えていませんか?』
『りょう いまは だいじょぶ』
「今はって何だ、今はって」
『なるほど。今は問題なしと。真壁さん、ちゃんとシオちゃんの通訳はお願いしますね』
最近は相馬がシオにイヤホンを渡し、見張りをお願するレベルにまで発展していた。
こんな感じで、毎日が事故配信になりかけた。
ならなかった、とは言い切れない。
なりかけた、という表現にしておきたい。
俺の心の平穏のために。
◇
そして、あっという間に閉会式の日になった。
朝からホテルの周囲は、どこか浮ついた空気に包まれていた。
大会関係者の移動も多く、ロビーには各国スタッフの姿がある。
民放各局の盛り上がりもすさまじく、街にはこれまでで一番大きな広告を出していた。
俺はてっきり、今日も配信ブースへ連れて行かれるものだと思っていた。
ところが、支援チームから渡された当日予定表には、配信ブースという文字がなかった。
「今日は配信ブースじゃないんですね」
「はい。真壁さんとシオちゃんには、閉会式中はアリーナの関係者エリアにいていただければ大丈夫です」
「今日の俺の役目は、座って邪魔をしないことですか」
「いつもそうでしたよ?」
「………」
俺は黙って予定表を見直した。
そこには集合から移動、関係者エリア待機、閉会式、終了後までが淡々と並んでいる。
思っていた以上に普通だった。
「ふっ…休息日だな」
思わず呟いた瞬間、支援チームの担当者が即座に首を横へ振った。
「しっかりと仕事です」
『りょう はたらけ』
横からシオにも刺された。
「ぐぬぬ」
それしか返せなかった。
シオはテーブルの上にちょこんと座り、小さなグラスに入った紫色の液体を、器用にストローで吸っていた。
液体は淡く光っている。
見た目だけなら、洒落たカフェのドリンクみたいだった。
ただし、中身は魔石ジュースである。
研究所と支援チームが、シオ用に濃度を調整した魔力栄養液のWEG仕様だ。
俺は思わず鑑定をかけた。
――――――――――――――――――――
名称:シオ用魔石ジュース
分類:潮晶殻獣向け魔力栄養液・高濃度調整版
状態:飲用可能 ※人間には不向き
主成分:低濃度魔力水、微量鉱物成分、紫晶系魔石抽出液
摂取方法:接触吸収、吸引摂取、体表吸収に対応
備考:ストロー使用による摂取効率の上昇はほぼ無し。飲用作法としての意味は不明。
――――――――――――――――――――
「シオ、ストローで飲めたのか」
シオはストローから口を離さず、触手を一本だけ上げた。
「でも、体のどこからでも摂取できるんだから意味ないだろ、それ」
支援チームの担当者が、少し困った顔で答える。
「なんか、この飲み方が通の飲み方だと言い出しまして……」
「ふーん」
俺はその返答を流しかけた。
流しかけて、途中で止まった。
そして椅子から立ち上がる。
「え、いまの『通の飲み方』って……シオとみんなは会話できるんですか?!!」
支援チームの担当者は、逆に驚いた顔をした。
「会話というか、スマホを介したメッセージでなら。真壁さん、ご存じなかったんですか?」
「スマホを持っているのは当然、与えた側でしたから把握してますけど、そこまで使いこなしているとは聞いていません!」
シオが、すっと殻の中へ触手を入れた。
そして中から、やたらデコレーションされたスマホを取り出す。
ラインストーンのような飾り。
そして小さなシール。
光を受けるときらきら反射するケース。
まるで渋谷にいる女子高生が持っているような、派手なスマホに変わっていた。
俺が渡した時は、至って普通のものだった。
「……名取かっ!」
シオは答えず、触手の先で器用に画面を叩き始めた。
小さい触手が、予想以上に素早く動く。
数秒後。
俺のスマホが震えた。
差出人は、シオ。
俺は黙って画面を開いた。
『しおは つねに さきへとすすむのだよ まかべくん』
「………」
何も言えなかった。
読んでいただきありがとうございます。
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