第二話 いつもお話を聞いてくださるお礼です
翌日から、毎日半刻の面談が始まった。
ヴィオレットの話題は一定していた。
女官長が冷たいこと、自分の能力が評価されていないこと、王太子殿下が最近よそよそしいこと。。
半刻で切り上げると、傷ついた顔をして部屋を出ていく。
その夜から、手紙が届くようになった。
便箋十二枚。十五枚。多い日は二十四枚。すべてに「受領しました」とだけ返した
一週間後、贈り物が届いた。
「いつもお話を聞いてくださるお礼です」
差し出されたのは、両手で抱えるほど大きな木箱。
蓋を開けると、中には金色に輝く盾があった。中央には、私の名と家紋が彫られている。
「なぜ、盾……?」
「殿下は実用的な贈り物がお好きだと伺いましたので」
「この盾は、どのように使うのでしょう」
「執務室に飾っていただけます」
「それは装飾品では?」
きょとんとした顔をされた。
「ですが、盾です」
その夜の手紙には、こう書かれていた。
『これで、わたくしたちはただの正妃と側室ではなく、互いを理解し合う特別な関係になれたのですね』
侍女を呼んだ。
「この盾と手紙を、証拠品庫へ。ヴィオレット嬢から届くものはすべて、日付と共に記録してください」
夫がその夜、「ヴィオレットが泣いていた。少し優しくしてやってくれないか」と執務室へ来た。
「泣かせたのはわたくしではございません。ヴィオレット嬢に手を出したのは殿下です。側室として迎えると決めたのも。教育をわたくしに任せたのも。彼女が泣けば、わたくしの対応を疑う。わたくしは、殿下が作った問題の後始末をしているのです」
返す言葉はなかった。
「面談の延長をお望みなら、殿下が同席なさってください。彼女のお話は、主に殿下のことですから」
ある夜、夫から夕食の誘いがあった。
使いに来た侍従が「陛下は妃殿下の予定をご確認の上、空き時間に限ってお誘いするよう申し付かっておりました」と言った。以前の夫は、自分の都合に私の時間を合わせていた。
食堂は、婚約して間もない頃によく使った小部屋だった。
白身魚の香草焼きと、根菜のスープ。華美な演出も、過剰な花もない。
「料理長に、君がよく食べているものを聞いた。何が食べたいと本人に尋ねれば、相手に合わせるだろうと思ったから」
その気遣いの不器用さに、少し笑いそうになった。
食事の途中で、薄い銀の文鎮が差し出された。
装飾は紋章だけ。散らばりやすい書類を押さえるのにちょうどいい重さだ。
「費用は?」
「私費だ。請求書もある」
本当に革袋から請求書が出てきたので、笑ってしまった。
「久しぶりに、君が私の前で笑った」
「請求書を携えて贈り物をする殿下が、少々おかしくて」
「次も笑ってもらえるなら、何枚でも持ってくる」
愚かしいことを言う人だと思った。それでも。
「なぜ、ヴィオレット嬢と一夜を共にしたのですか」
問いが口をついた。説明は聞いていた。それでも、夫婦として聞きたかった。
「自分だけが私を理解していると言われ、気分がよくなった。だが、それは言い訳だ。君が何をしても支えてくれると、甘えていた。君の愛情を使い切っても、なくならないと思い込んでいた」
「なくなりましたよ」
「ああ」
顔を上げた目から、逃げはなかった。
「だから、許してほしいとは言わない。もう一度、君に選ばれるに足る夫になる。そのためにできることを続ける」
「いつまで?」
「君が離縁を望むまでか、私が死ぬまで」
「ずいぶん長い可能性がございますね」
「長い方がいい」
部屋を出る前に、手が差し出された。
「触れても?」
「今日は、まだ」
「わかった」
すぐに手が下ろされた。傷ついたとも、不満だとも言わなかった。
その夜、銀の文鎮は返さず、執務机の端へ置いた。
ブックマーク、★★★★★、リアクション
よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ




