四十八作目・映画「死のロングウオーク」
観てきました。キングのごく初期の長編が原作です。原題は「死のロングウオーク」 作者名、リチャードバックマン。つまりキングの別名義で出版されていたものです。
面白いことにキングが本名。リチャードバックマン名義が元々のペンネームだったらしい。キャリー一発で逆転、結局どちらも有名になりました。わたしはキングの原作、というだけで最初から観るつもりでした。
この映画は難産だったらしい。細かい理由は不明だが映画権保持者交替、監督降板、制作会社交替……2018年に実写化発表があって、2025年にやっと映画完成。日本での公開は2026年の6月下旬。しかもR15なのでごく一部の映画館しか扱ってない。R15指定をしたのはキング自身なので、実際に原作も読み、映画を観た者としては、良識があると思う。
スティーヴン・キング - Wikipedia
ja.wikipedia.org
さてキング名義の作品と、リチャードバックマン名義で作品発表を続けた理由が2つある。(多作作家なので一人で同時進行して書いていた作品多数)
① 当時の出版業界では1人の作家は1年に1冊だけ出版するという決まりがあった。そのためキング以外の作家も別名義のペンネームを使って年に複数冊の作品を出版した。
② 売れっ子作家としてキングが別ペンネームで書いた本がどれだけ売れるか試すため。
多分どちらも本当だが②の方がキングらしいといえばそう。でも売れっ子当時のキングは飲酒や薬物に耽溺した時期も重なっているので相当に屈折したつらい時期を通っている。現在78歳。老いてなお創作意欲が潰えず、人気も衰えないのは最高の作家人生だと思う。
わたしは、キャリーを読んだのが初キングだった。その出来栄えにすごく驚いて、他の作品も読み漁った。そのうちの一つが「死のロングウォーク」。キングが初めて書いた長編小説だと当時から宣伝?していたが、わたし個人の感想として、かなり読みにくく、途中で何度も放り出しそうになった。
ロングウオークのルールもアドバイスも細かい上に、登場人物が多岐にわたりしかも覚えにくい名前と受付番号の羅列……。それを映画の初めのほうで全部思い出して、アレを映画にするのってどんな感じになるのかと思った。
脚本でややこしい枝葉末節を取り除き、撮影で単調になりやすい歩きのアングルも頻繁に変えて何より人物の会話がテンポよく顔のアップが続いても見るに堪える。500キロ歩いても変事が起きると、叫んだり走り出したりできるのは超人的すぎるし、すごい肺活量でありえないと思うけど、まあ、それは映画だから許せる。だって肺に水が溜まってる、といいながら普通に歩き続けて普通にしゃべっていくんだもの。でも、それも気にならないぐらい次はどうなるかを見せるのがうまい。絢爛豪華なシーンも綺麗なシーンもひとつもないのに、しみじみとはしないが、本作は良い映画じゃないかと思う。
原作を書いたキングは当時19歳。大学に入って初めて書いた長編らしい。彼の自伝では小さいころから短いお話を書いて親に読ませてお小遣いをもらっていたとあったので売れるかどうかはわからぬが自分は書けるという意思はあったろう。しかし本作は当時はまったく売れてない。
本当に売れたのは大学卒業後に書いた「キャリー」だ。いうなればキャリーのおかげで本作が発刊された。
キャリーの初版、1974年
爆売れしてそのあと、デッドゾーンやシャイニングでヒットを飛ばしまくる。本作の初版は1989年とあるので、キングの名声が確定した後に、処女作だという触れ込みで発刊したと思われる。
」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
本作が苦手だったのは、まず名前、番号、ルールやヒントがややこしい。登場人物の背景を細かく書いていくのはキング流だが、勢いと創造にまかせて書いたのではないかと思われる。すくなくともわたしは読者として置いてきぼりにされたと思った。映画はその辺の扱いがうまくて、かなり省略可されている。映画でも名前が変わってないので、本来の登場人物の名前がややこしくて覚えにくいのは一緒だった。黒人の人物や顔が似ていて混乱した。申し訳ないけど黒人限定の相貌失認症です。わたしだけだと思うけど日本人でも体型と顔が似ているとごっちゃになる。
物語の設定自体がアバウトで一人ずつ順番に落伍の様子と友情の成立を細かく書いていくのは読む方は(たとえキング様でも)根気がいる。だが、映画を観て気づいた。キングが書いた当時は、世間では発達障害という言葉はなかったが、キングがそれに触れている。「やっぱりキングはすごい。当時の19歳という年齢で発達障害の特徴をよくつかんで長編に入れ込んでがっつり書いているではないか」 と改めて驚いた。このシーンはクライマックスの1つになっている。作中の当事者が皆に憎まれて、それでも強がりを言いながらも歩きながらの自傷や、レイという子に「オヤジから友達を作れと言われてたけど」 という告白には泣いた。この役者さんは本当に上手だったな。
もう題名からアンハッピーエンドというのは、わかっていたけど、後味は悪くないのは、脚本と役者と監督がよかったから。もちろん原作者のキングも。
19歳のキングもやっぱり凄いと改めて思った。
登場人物の名前は「レイ」 という子しか覚えてない。そしてやっぱり原作をイチから読みなおそうとしないけど、読んでいてよかったし、観に行ってよかったと思います。
終わります。




