残金1,842円|第63話「変更契約」
午前六時五十一分。
施工会社の契約担当から届いたメールには、三つのファイルが添付されていた。
変更契約書案。
作業範囲図。
見積条件対照表。
大沢は一つ目のファイルを開いた。
三人班は八日後から五日間。
請負額は七百八十万円。
確定区間の墨出し、共通支持部の施工、出来形確認と修正。
主要配管の据付け、機器接続部、回答待ちの一系統、特殊金物の取付けは含まれない。
事業会社から施工会社へ出した変更発注条件と一致している。
大沢の指が、契約書の中ほどで止まった。
発注者から支給される資材の不足により作業できない場合は、受注者の待機費用を発注者が負担する。
文章は短かった。
だが、この工事で誰を発注者と呼ぶかによって意味が変わる。
三人班の会社にとっての発注者は施工会社である。
施工会社にとっての発注者は事業会社だった。
標準支持材を準備するのは施工会社だ。図面を交付し、高所作業車を配置するのも施工会社である。事業会社が三人班へ直接、材料を渡す契約ではない。
大沢は契約担当へ電話をかけた。
「支給材不足の条文を直してください」
「待機費の条文を削りますか」
「削りません。誰が何を準備するのかを分けます。施工会社が渡す材料、事業会社が確定させる作業区画、設計会社が確認する図面。それぞれが欠けた時の記録を残せるようにしてください」
「午前八時までに修正します」
通話を終え、大沢は壁の工程表を見た。
三人班の帯には、開始予定日がある。
契約は、まだ成立していなかった。
午前七時十六分。
真鍋と三浦が会議室へ入り、その五分後に榊原が来た。
「三人班の契約は戻ったか」
「案は届いています。支給条件を修正中です」
「金額は」
「七百八十万円のままです」
「なら、先に締結して、細部は後で直せないか」
大沢は契約書案を画面へ出した。
「細部ではありません。開始日に材料がなかった時、誰の条件で仕事が止まったのかを判断する部分です」
「標準支持材はあると言っていたな」
「在庫はあります。ただし、八日後までに別区画でも使います。三人班へ渡す数量を今日、現物で切り分けます」
「不足したら買えばいい」
「納期を確認します。買うと決めたことと、開始日に現物があることは違います」
三浦が見積条件対照表を開いた。
「七百八十万円は、三人を五日間置くための金ですか。それとも、作業範囲を完成させる請負額ですか」
榊原が答えた。
「三人を五日間確保する金だろう」
「確定区間の仕事を請け負わせる条件です」
大沢は作業範囲図を示した。
「開始予定日から五日間の施工体制を組んでもらいます。ただし、人の時間だけを買う契約ではありません。決めた範囲を、必要な品質で完成させる契約です」
「三日で終わっても七百八十万円か」
「施工効率によって早く完成したなら、日割りでは減らしません。契約数量そのものが減った場合や、こちらが範囲を取りやめた場合は別です」
「仕事を渡せず、五日を超えたら」
「自動延長にはしません。原因、必要な追加作業、人数、期間を確認し、作業を広げる前に見積と合意を取ります」
榊原は画面の金額を見た。
三人。
五日間。
七百八十万円。
割り算をすれば、一人一日当たりの数字は出る。
だが、その数字には交通費、宿泊費、現場管理費、準備、出来形確認、修正、会社の経費までが混ざっている。
人の時間だけを買う金ではなかった。
午前七時五十二分。
三浦は、事業会社から施工会社へ出した変更発注書を開いた。
「支払いも分けて確認します」
「基本契約どおりではないのか」
榊原が聞いた。
「基本契約には、変更工事の出来高を月次請求へ含める定めがあります。ただし、今回の七百八十万円を、いつ出来高として認めるかは確認が必要です」
施工会社の契約担当がオンライン会議へ加わった。
「当社から事業会社への請求は、作業完了と出来形確認後、当月末締めです」
「三人班の会社への支払いは」
「当社と相手方の基本契約に従います。五日間の作業完了後に検収し、当月の出来高へ計上します」
「事業会社から入金されるまで、三人班へ払わない条件ではありませんね」
「違います。事業会社からの個別入金に、下請代金の支払いを連動させません」
真鍋が尋ねた。
「事業会社側で七百八十万円の一部を既存施工費へ振り替えることになった場合は」
「三人班との請負額は変わりません。相手方が契約どおり施工した後、事業会社側の予算整理を理由に減額することはありません」
榊原が顔を上げた。
「こちらが純増と認めなくても、施工会社は七百八十万円を払うのか」
「はい。今回の七百八十万円は、三人班会社との請負額です。事業会社から当社への変更発注は、七百八十万円を上限としています。既存施工費から振り替えるか、追加事業費へ置くかは、事業会社側の総額管理です」
三浦が金額表へ書き込んだ。
事業会社から施工会社へ。
変更発注上限、七百八十万円。
施工会社から三人班会社へ。
請負額、七百八十万円。
金額は同じだった。
だが、契約当事者も、支払義務を負う者も違う。
午前八時二十八分。
施工会社から修正版が届いた。
支給材一覧には、品目、数量、準備者、引渡し場所、確認日が追加されていた。
標準支持材は施工会社が準備する。
開始前日までに、確定区画脇の保管場所へ配置する。
確定区間平面図、支持位置図、標準支持詳細は、設計会社の確認後、施工会社が交付する。
既設排水管との離隔箇所は、現地で施工会社の現場管理者と三人班の責任者が確認する。
高所作業車は施工会社が手配する。
主要配管、特殊金物、機器接続部材は今回の支給対象外とする。
「高所作業車の配置は」
大沢が聞いた。
「開始日から五日間です。別班との共用にはしません」
施工会社の工務部長が答えた。
「故障した場合は」
「当社が代替手配します。復旧まで作業できなければ、当社側の原因として記録します」
「天候で高所作業を止めた場合は」
「安全判断を記録し、地上でできる代替作業があるか確認します。その場で費用負担まで決めません」
契約書へ、雨天一日分の金額までは書かなかった。
代わりに、停止理由、配置人数、代替作業、拘束時間を日報へ残す。費用や期間への影響が出た場合は、その記録を基に協議する。
午前九時四分。
三人班の会社との契約確認が始まった。
画面の向こうには、工事責任者と契約担当者がいた。
「出来形確認と修正は、今回施工した支持部だけでよろしいですか」
「はい」
大沢が答えた。
「既設部分や、ほかの班が施工した箇所の修正は含めません」
「現場で、隣の支持部も直してほしいと言われた場合は」
「職人へ直接依頼しません。施工会社の現場管理者へ上げてください」
工務部長が続けた。
「今回の範囲に含まれる軽微な調整か、契約外の追加作業かを当社が確認します。契約外なら、作業前に内容、金額、期間を協議します」
「五日目の確認が午前中で終わった場合、午後も拘束されますか」
「完成確認を終え、手直しがないと施工会社が判断した時点で、現場作業は完了です」
「予定より早く完成しても、請負額は減らさない」
「契約数量と品質を満たした場合は減額しません。実際の施工数量が発注時より減った場合は別途協議します」
「待機費は、一日十二万六千円でよろしいですか」
「自動加算ではありません。施工会社側の条件で作業不能になった場合、当日の配置、原因、代替作業、拘束時間を確認して協議します」
「当社の都合で三人をそろえられなかった日は、請求しません」
「その場合は、工程への影響も記録してください」
榊原は会話へ入らず、作業範囲図を見ていた。
三人班の会社は、七百八十万円で何でも引き受けるわけではない。
施工会社も、金を払えば三人を五日間自由に動かせるとは考えていない。
どこまで作るか。
何を完成とするか。
誰が材料を渡すか。
誰が指示するか。
仕事が止まった時、何を記録するか。
契約は仕事を始める許可であると同時に、仕事を勝手に広げない境界だった。
午前九時五十六分。
三人班の会社から、電子署名済みの変更契約書が返送された。
施工会社側も署名し、締結済みデータを双方の契約台帳へ保存した。
契約番号。
締結日。
開始予定日。
完成予定日。
請負額。
作業範囲。
支払条件。
変更時の協議方法。
「これで三人は来るんだな」
榊原が聞いた。
「変更契約は成立しました。次は開始前確認です」
大沢が答えた。
「まだ条件があるのか」
「契約があるから、確認する条件が決まりました」
施工会社の工務部長が一覧を読み上げた。
三人の配置予定者。
保有資格。
作業責任者。
持込工具。
高所作業車。
支給材数量。
確定図面。
立入禁止区画。
朝礼場所。
緊急連絡先。
「開始前日までに確認します。配置予定者が変わる場合は、資格と入場手続きを改めて確認します」
契約書へ署名しただけで、現場の門が開くわけではない。
誰が来るかを確かめ、仕事を渡せる区画を作り、材料と安全設備をそろえる。
そこまで終わって、三人は現場へ入れる。
午前十時二十三分。
調達部から、配管材の発注条件確認表が届いた。
既存ヤードを受入れ場所の第一案とする。
納入日の五営業日前に、第一受入れ区画か予備受入れ区画を確定する。
大型車両は、地権者側と確認した通行条件を守る。
荷下ろし機械は事業会社側で手配する。
供給会社の引渡しは、指定場所での車上渡し。
標準便一回の輸送費は見積に含む。
分納、一時保管、追加輸送は別途協議。
製作図の技術確認は設計会社。
機器条件の確認は調達部。
最終承認は事業会社の設備責任者。
一次確認は、製作図受領後一営業日以内。
機器メーカーの回答が必要な箇所は、未回答のまま承認しない。
「これで発注できるか」
榊原が聞いた。
「先行範囲は発注できる状態です」
「今日出せ」
「数量表と材質表を、見積対象と最後に照合します」
「また照合か」
「参考額三億六千八百万円の仮数量が混ざっていないことを確認します。一億五千八百万円は、確定した一系統の直管部分と共通継手だけです」
三浦が金額表を開いた。
「発注額一億五千八百万円を、そのまま追加事業費へは入れません。当初設備予算に含まれる部分と、分割製作などによる増分を分けます」
「発注すれば、相手へ払う金になる」
「注文が承諾されれば、契約条件に従う支払いが必要になります。ただし、契約上の発注額と、八百億円の事業費から純増する金額は同じとは限りません」
午前十一時七分。
数量表と見積書の照合が終わった。
直管部分。
共通継手。
材質。
呼び径。
数量。
検査条件。
対象外となる機器接続部。
回答待ちの一系統。
差異はなかった。
調達部は、供給会社へ一億五千八百万円の発注書を送った。
発注書には、供給会社が技術条件を確認し、注文請書を交付した時点で注文承諾となることが記載されていた。
「これで製作枠を取ったな」
榊原が言った。
「発注書を送りました。供給会社の承諾はまだです」
「断られる可能性があるのか」
「技術条件が見積と一致していれば承諾される見込みです。ただし、確認が終わる前に製作枠確定とは扱いません」
真鍋は工程表を更新した。
配管材。
発注済み。
注文承諾待ち。
製作図未受領。
納入日未確定。
発注前だった朝より、一段進んだ。
だが、発注済みという一語だけで、納入日まで決まったことにはしなかった。
午後零時三分。
榊原は会議室で弁当を開けた。
真鍋は、銀行団へ出す更新資料を確認している。
「三人班は、契約締結済みでいいな」
「はい。開始前確認中、と付けます」
「未了まで書く必要があるか」
「契約を締結したことと、現場へ入れる状態になったことを分けます」
「配管材は」
「発注済み、注文承諾待ち、納入日未確定です」
「全部、最後に未確定が付くな」
「決まったことも増えています」
真鍋は資料を榊原へ向けた。
三人班。
変更契約手続中から、契約締結済みへ変わった。
配管材。
発注条件整理中から、発注済みへ変わった。
受入れ場所。
現地確認が必要な状態から、既存ヤードを第一案とし、確定期限と予備区画を置いた。
主要配管据付け班。
再照会中。
開始日未定。
「最後だけ変わっていない」
「はい」
「二十六営業日後の班は」
「施工会社が条件を送っています。回答待ちです」
「また四人を失うかもしれない」
「その可能性はあります」
「それでも待つのか」
「今回は、何を待っているかが分かっています」
前の四人班には、開始日も、配管材の納入日も、三週間分の仕事も示せなかった。
今照会している班には、作業範囲、作業高さ、必要資格、支給材、揚重条件、宿泊条件を送っている。
足りないのは、配管材の納入日と施工数量だった。
同じ回答待ちでも、昨日とは違った。
午後一時二十七分。
標準支持材の在庫確認が終わった。
三人班へ渡す数量。
別区画で使う数量。
予備数量。
帳簿上の在庫と、保管場所にある現物を照合する。
二種類の金具で差が出た。
「不足か」
榊原が聞いた。
「不足ではありません。別区画へ仮置きした分が、元の棚の在庫から移されていませんでした」
「現物はあるんだな」
「あります。記録と保管場所を直します」
「なら、開始には間に合う」
「今直せば間に合います。開始前日に同じことが起きれば、ある材料を探して作業が止まります」
作業員二人が、仮置きした金具を所定の棚へ戻した。
三人班へ支給する分には、別の札を付けた。
使用予定日。
対象区画。
数量。
持出承認者。
金額も工程も変わらなかった。
それでも、八日後に渡せる材料は、帳簿の数字から棚にある現物へ変わった。
午後二時十四分。
施工会社から、二十六営業日後に対応可能と回答した会社の追加条件が届いた。
最大六人を配置できる。
ただし、確約できるのは四人。
期間は八日間。
配管材の納入日が、開始日の三営業日前までに確定していること。
高所作業車と荷上げ設備を施工会社が用意すること。
主要配管の施工数量を、契約前に確定すること。
宿泊先は施工会社が手配すること。
見積提出には、確定図面が必要。
「四人は確保できるんだな」
榊原が聞いた。
大沢は条件書の最後を示した。
「契約締結までは、ほかの照会を止めないとあります」
「今すぐ契約へ進めろ」
「施工数量が確定していません」
「先行範囲は決まった」
「材料の対象範囲は決まりました。ただ、機器接続部を除いた主要配管の据付数量を、施工図へ落とす必要があります」
「四人を八日間押さえる金額だけでも出させろ」
「見積条件は送ります。ただ、人だけを押さえる待機契約にはしません」
榊原は壁の白い帯を見た。
前の四人班が消えた時、仕事を決められなかった。
今回の四人も、まだ契約できる仕事になっていない。
ただ、確定までに必要な条件は減っている。
配管材の注文承諾。
製作図。
施工数量。
納入日。
見積。
変更契約。
白い帯は空白ではなく、残っている手順の長さだった。
午後三時二分。
三人班の開始前確認表へ、配置予定者の情報が入力された。
三人の氏名。
作業責任者。
高所作業に必要な資格。
健康診断の確認日。
新規入場者教育の予定。
持込工具。
施工会社の安全担当は、一人の資格証の有効期限を確認した。
「開始予定日には有効です。ただし、保存されている写しが古いので、最新データを再提出してもらいます」
「本人が資格を持っているなら、問題ないだろう」
榊原が言った。
「現場側で確認できなければ、その作業へ配置できません」
「それで開始を止めるのか」
「六日後の正午を提出期限にします。届かなければ、代替者か作業配置の変更を協議します」
再提出依頼が送られた。
開始予定日は動かさなかった。
工程表にも遅れは入れなかった。
代わりに、開始前確認表へ期限が残った。
午後三時四十九分。
供給会社から、発注書受領の連絡が届いた。
注文内容の技術確認を開始する。
確認結果は翌営業日正午までに回答する。
見積条件との一致を確認後、注文請書を交付する。
製作図提出の起点は、注文承諾日とする。
「承諾ではないんだな」
榊原が聞いた。
「受領です」
調達部長が答えた。
「明日の正午までに回答が来ます」
「承諾が来れば、工程表の斜線は実線になるのか」
「製作開始条件は進みます。ただ、納入帯すべては実線にできません。製作図の提出と承認が残ります」
「一つ決まるたびに、次が出てくる」
「昨日からあった条件です。順番に見えるようになっています」
午後四時二十六分。
三浦は変更契約台帳を更新した。
三人班の変更契約。
契約締結済み。
三人班会社との請負額、七百八十万円。
開始予定日、八日後。
完成予定日、十二日後。
請求可能額と支払期日は、契約どおりの施工と検収によって確定する。
事業会社から施工会社への変更発注上限、七百八十万円。
既存施工費からの振替額は照合中。
配管材。
発注額、一億五千八百万円。
発注書送付済み。
注文承諾待ち。
当初設備予算との重複額は照合中。
主要配管据付け班。
見積条件整理中。
契約額未定。
開始日未定。
金額表には、変更発注上限、請負契約額、資材発注額、純増見込みが別の列で置かれた。
「支払予定表はどうなる」
榊原が聞いた。
「三人班分は、施工会社への支払予定へ置きます。検収予定日と請求締め日を付けます」
「配管材は」
「注文承諾後に支払条件と請求時期を確定します。資金繰り表には見込みとして置きますが、確定支払いと同じ色にはしません」
契約した金。
発注した金。
事業費として増える金。
同じ工事を進めるための金でも、発生する時点と意味は違った。
午後五時十三分。
銀行団へ更新資料が送られた。
三人班。
変更契約締結済み。
八日後から五日間。
開始前確認中。
配管材。
発注書送付済み。
注文承諾待ち。
製作図未受領。
納入日未確定。
主要配管据付け班。
四人を確約可能とする候補会社あり。
施工数量、納入日、見積未確定。
契約未締結。
全体工期への影響日数は未確定。
追加事業費は重複照合中。
倉田から電話が入った。
「三人班の変更契約書と、事業会社から施工会社への変更発注書は、別の資料として提出してください」
「同じ七百八十万円だ」
榊原が言った。
「当事者が違います」
「施工会社が三人班へ払う金だ」
「だからこそ分けます。事業会社が誰へ発注し、施工会社が誰へ請け負わせ、誰が支払義務を負うかを確認します」
真鍋が答えた。
「明日の午前中に提出します」
「配管材は、発注書だけで契約済みにしないでください」
「注文承諾待ちと記載しています」
「そのままでお願いします」
電話が切れた。
「銀行は、仕事より紙を見ている」
榊原が言った。
「紙だけを見ているわけではありません」
「三人が来れば、工事は進む」
「三人が誰の指示で、何を作り、誰が払うかも事業です」
榊原は反論しなかった。
午後六時八分。
会議室の工程表が更新された。
三人班の帯は、斜線から実線へ変わった。
開始予定日の下には、開始前確認完了を要すると記された。
配管材の帯には、発注済み、注文承諾待ちと書かれた。
主要配管据付け班の帯は、まだ白い。
大沢は、締結済みの変更契約書を工程記録へ保存した。
七百八十万円は、もう見積ではなかった。
五日間も、空いている人の予定ではなかった。
何を作るか。
何を作らないか。
誰が材料を渡すか。
誰が指示するか。
いつ完成とするか。
どの条件で請求できるか。
それらを互いに守る義務へ変わっていた。
午後六時三十六分。
三人班の会社から、資格証の最新データが届いた。
施工会社の安全担当が受領し、開始前確認表へ記録した。
大沢は工程表の三人班の帯を、指で一度押さえた。
昨日まで、その五日間は、来るかもしれない三人の予定だった。
今日からは、来てもらう側にも、渡す仕事を守る義務があった。
契約は、人を動かすための紙ではなかった。
約束した仕事から、互いを勝手に動かせなくする紙だった。




