↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
55/60

残金1,842円|第55話「止めないための停止」

 午前六時五十八分。


 大沢からの電話は、配管班の空きを知らせるものだった。


「八日後から、一組入れられる可能性があります」


 榊原は、照明の半分しか点いていない会議室で立ち止まった。


「戻せるのか」


「前の班ではありません。別の現場を終える協力会社です。六人、車両と小型機械を含みます」


「押さえろ」


「午前十一時までに返事が必要です」


 大沢の声が止まった。


「何がある」


「次の注文範囲を、八日後から切れ目なく渡せるか確認できていません」


「昨日、通路の測量は終わった」


「旋回確認は今日です。通れることと、施工できることは別です」


 榊原は壁の工程表を見た。


 当初進入路側には、開始日の入っていない線が残っている。


 現在の配管班は、注文済みの範囲を終えれば引き揚げる。


 八日後に別の班を入れられるなら、空白を短くできる。


「何が決まっていない」


「通路の整地範囲。大型車両の旋回条件。次区間の数量。それから、設備側の接続条件です」


「配管位置は図面にあるだろう」


「基本位置はあります。ただ、中核設備の仕様で接続口と保守空間が変われば、取り回しを確認し直します」


「変わらない範囲だけ渡せ」


「何日分を連続して渡せるか出します。正式に押さえてから仕事が切れれば、また待機費か手配解除費用が出ます」


 仕事を作って人を残さない。


 数日前、自分で決めたことだった。


「午前十時までに、渡せる範囲と渡せない範囲を分けろ。押さえた後に断った場合の費用も確認しろ」


「分かりました」


 電話を切ると、真鍋が会議室へ入ってきた。


 手には、設備メーカーから届いた修正版がある。


「今度は三十一頁です」


「増えたな」


「別紙が三つ増えました」


 製造枠の特定表。


 予約金の使用範囲。


 仕様確定工程表。


 製造枠は、翌年二月第一週から始まる組立区画一枠。


 基本合意成立後から主要仕様確定まで、メーカーは必要な設計対応能力を確保する。


 正式な部材発注は、事業会社の個別承認後。


 予約金から支出できる費用は、設計着手費、長納期部材の事前調査費、製造枠確保に伴う人員調整費に限られていた。


 メーカー側の責任で枠を維持できない場合、予約金は全額返還する。


 発注者側の仕様変更や承認遅延が原因なら、発生済み費用と取り消せない手配費用を控除する。


 未使用分の精算期限も入った。


 ただし、前渡金の返還を担保する方法の欄には、別途協議とある。


「残っているな」


「メーカーの取引銀行から、今日中に回答が来ます」


「回答が来なければ」


「七つの承認条件を満たしません」


 三浦が支払予定表を開いた。


 十五億円の行は橙色のままだった。


 口座残高には含まれている。


 確定支払いには入っていない。


 条件付きで確保する金として、自由に使える残高からは外されていた。


「銀行団との確認は」


「午前九時からです」


「予約金を払ってよいか聞くのか」


「設備を選ぶのは事業会社です。銀行団へ確認するのは、融資契約上の資金使途に含まれるか、次回実行条件へ影響するかです」


「含まれなければ自己資金から払う」


「その場合は、造成工事、用地取得、利息、給与に残す自己資金との配分を組み直します」


 支払うだけの残高はある。


 だが、どの資金から支払うかによって、次に使える金が変わる。


 午前七時二十六分。


 調達部から、仕様確定工程表の社内版が届いた。


 四十五日以内に決める主要仕様は二十七項目。


 事業会社だけで決められるものは九つ。


 設計会社の回答が必要なものは七つ。


 施工会社の測量結果が必要なものは四つ。


 電力会社との協議結果が必要なものは五つ。


 残る二つは、複数の回答がそろわなければ決められない。


 担当者名と回答期限が入っている。


 ただし、電力会社に関係する五項目には、回答予定と書かれていた。


「期限ではないのか」


 榊原が聞いた。


「協議日程が確定していません」


 調達部長が答えた。


「四十五日を過ぎる可能性は」


「あります」


「それで枠を取るのか」


「仮の条件で設計を進められる項目を、メーカーへ確認しています」


「仮で進めて、全部やり直すなら意味がない」


「影響が小さい項目と、大きい項目を分けます」


 真鍋が一覧を見た。


「影響が大きいのは」


「受電条件と非常時の切替方式です。主要機器の構成に触れます」


 榊原は資料を机へ置いた。


「待ちを一つの言葉にするな。誰の回答を、いつまで待てるのかを分けろ。回答が遅れた時、何を先に決められるかも出せ」


 調達部長が会議室を出ると、真鍋は一覧の右端へ欄を増やした。


 回答期限。


 枠を維持できる最終日。


 期限を越えた場合の影響。


 代替条件。


 十五億円を払えば時間を買える。


 だが、その時間を社内で使えなければ、予約金は別の費用へ変わる。


 午前八時十四分。


 施工会社から、配管班の手配条件が届いた。


 六人。


 八日後から開始可能。


 最低確保期間は十五稼働日。


 正式発注後に取り消す場合、協力会社の手配費用、車両費、機械の取消費用を実費で協議する。


 午前十一時までに返事がなければ、別の現場へ提案する。


「十五日分の仕事はあるのか」


 三浦が、大沢から届いた施工範囲表を画面へ出した。


 現在の図面だけで確実に渡せるのは、六稼働日分。


 測量結果を反映できれば、さらに四日分を追加できる可能性がある。


 設備側の接続条件が固まれば、その先へ進める。


「六日しかないのか」


「六日は確実です」


「四日を足せば十日だ」


「測量結果の照査が終わっていません」


「残り五日は」


「設備仕様に影響されます」


「押さえなければ、次はいつだ」


「現時点では確約できないそうです。早くても三週間後ですが、別案件の進み方で変わります」


 三週間。


 確実な仕事は六日。


 最低確保は十五日。


「現場の意見は」


「大沢さんは、今の段階での正式発注に反対です」


「理由は」


「十五日分を渡せないことと、設備仕様の確定後に手直しが出る可能性です」


「人が取れなくなるぞ」


「その代償を承知した意見です」


 以前なら、六日分があるなら入れろと言った。


 六日の間に残りを決める。


 期限を先に置けば、人は動く。


 図面も出る。


 その圧で間に合わせた現場は多かった。


 だが、この現場では一度、渡せない仕事のために班を手放している。


 同じことを、別の六人で繰り返すことになる。


 午前九時。


 銀行団との電話会議が始まった。


 真鍋は、設備製造枠予約金の目的から説明した。


 対象設備。


 製造枠。


 未確定の仕様。


 予約金の使途。


 返還条件。


 支払った場合と、支払わなかった場合の工程影響。


 説明が終わると、倉田が口を開いた。


「確認したいのは三点です。予約金が当初の設備取得費の内数なのか。事業費の増額要因なのか。正式発注後、総額のどこへ充当されるのか」


「当初の設備取得予算の内数です」


 三浦が答えた。


「正式発注後は設備代金の一部へ充当します。予約金によって総事業費が十五億円増えるものではありません」


「正式発注へ進まない場合は」


「発生済み費用等を控除し、残額を返還します。控除対象と精算期限は修正案で特定しました」


「返還保証は」


「取引銀行の回答待ちです。対応できなければ、分割払いを含む代替条件を再協議します」


 参加行の担当者が聞いた。


「実行済みの百五十億円から支払う予定ですか」


「それを確認するための説明です」


 真鍋が答えた。


「設備取得に関連する支出ですが、正式発注前の予約金です。融資契約上の資金使途へ含まれるか、書面での確認を求めます」


「含まれない場合は」


「自己資金からの支払いを再検討します。融資資金から当然に払えるとは扱いません」


 倉田が資料をめくった。


「設備は融資対象事業に必要です。ただ、予約金の性質と返還条件を確認しなければ、資金使途へ適合するとは回答できません」


「いつ回答できる」


 榊原が聞いた。


「正式文案と、予約金の支出管理方法を受領した後です。今日中に資料がそろえば、当行の見解は翌営業日までに出します。銀行団全体の確認には、その後の時間が必要です」


「次回実行への影響は」


「今回の予約金だけで、直ちに次回実行を止めるとは申し上げません。ただし、工程見直し、事業費、自己資金の使用状況は確認します」


「枠を失えば、収入開始が遅れる」


「その点も見ます。払わない方が常に安全だとは考えていません」


「なら、急ぐ理由は分かるな」


「分かります。急ぐ理由と、契約条件を省略する理由は同じではありません」


 倉田は拒絶しなかった。


 承認もしなかった。


 確認する資料と、回答までの順番を置いた。


 午前十時六分。


 大沢から、旋回確認の映像が届いた。


 通行合意書で想定した大型車両が、地権者側の動線へ入らない位置で停止する。


 誘導員が左右を確認する。


 車両は低速で前進し、一度切り返した。


 後輪は現地表示の内側を通った。


 路肩の一部には補強が必要だった。


「通れるのか」


「補強と現地表示を終えれば、合意した車両は通せます」


「いつからだ」


「三日後を見込みます。雨天後は地権者側と共同確認です」


「今日、班を押さえれば八日後に入る」


「通路は間に合う可能性があります」


「なら入れられる」


「通路へは入れます。仕事を十五日分渡せるとは言っていません」


 大沢は言葉を区切った。


「次の班を入れるなら、図面と数量と施工条件が必要です。現場に六人いることと、六人が続けて施工できることは別です」


「六日分はある」


「六日後に止まる可能性があります」


「その間に決める」


「決められなかった時、また人を返すことになります」


 午前十一時まで、あと四十分だった。


「お前ならどうする」


「次の班は押さえません」


「三週間以上空くかもしれないぞ」


「はい」


「工程が遅れる」


「人を入れて止めれば、費用と遅れが両方残ります」


「全体を止めるのか」


「通路の補強は進めます。測量結果の照査も進めます。現在の注文範囲は終わらせます。設備仕様に影響されない図面も固めます。ただ、仕事がそろう前に次の班は入れません」


 午前十時三十二分。


 設備メーカーから、返還保証に関する回答が届いた。


 取引銀行による予約金全額の返還保証は、基本合意の締結期限までには用意できない。


 代替案として、予約金を二回に分ける。


 基本合意成立後、五億円を支払う。


 その入金時点で、翌年二月の製造枠を確保する。


 残る十億円は、返還を担保する書面を確認した後に支払う。


 返還保証を用意できない場合は、主要仕様のうち着手に必要な項目を確定し、正式発注契約へ進む段階で、設備代金の一部として支払う。


 メーカーが基本合意段階で使える金額は、最初に支払われた五億円の範囲に限る。


「十五億円を一度に払わなくていいのか」


「メーカー側も、保証を出せないまま全額を求める条件を変えました」


 法務部長が答えた。


「五億円の返還は」


「昨日合意した精算条件を適用します。メーカー側の責任で枠を外した場合は全額返還です。ただし、返還請求権があることと、確実に回収できることは別です」


「その信用リスクを、五億円までに抑えるのか」


「はい」


 三浦は、十五億円の行を二つへ分けた。


 第一回予約金五億円。


 第二回支払十億円。


 どちらも、まだ未契約だった。


 午前十一時。


 会議室に、榊原、真鍋、三浦、大沢、調達部長、法務部長がそろった。


 画面には、現場工程表、仕様確定工程表、支払予定表が並んでいる。


 大沢が、次の配管班について説明した。


 確実に渡せる作業は六稼働日。


 測量結果を反映できれば、さらに四日分。


 設備仕様の影響を受ける区間は、現時点で発注できない。


 最低確保期間は十五稼働日。


 作業を渡せなければ、待機費が生じる。


 後から配管位置を変えれば、撤去と再施工が必要になる。


「六日分だけ発注できないのか」


「施工会社は十五日を条件にしています」


「別の班は」


「探します。ただ、八日後に入れる班はこれだけです」


「十日分まで出せる可能性がある」


「可能性で十五日分を契約すれば、昨日直した支払予定表を元へ戻すことになります」


 三浦が言った。


「契約済みの十五日分と、渡せるかもしれない十日分を同じものとして扱うことになります」


「現場を空ければ、遅れは確実だ」


「入れて止めれば、費用と手直しも残ります」


 真鍋が答えた。


 榊原は三つの表を見た。


 電力会社の回答が必要な仕様。


 メーカーが仮条件で進められる範囲。


 施工会社が配管位置を固定できる期限。


 三つの日付は、まだ一本につながっていない。


「次の班は押さえない」


 榊原が言った。


「現在の注文範囲は完了させる。出来高を確認し、契約どおり支払う。通路の補強と表示は進める。設備仕様に影響されない図面は固める」


「次区間は」


「仕様、数量、施工条件が確定するまで発注しない」


「施工会社へ回答します」


「再手配可能日は毎週確認しろ。待つだけにはするな」


「分かりました」


「北側仮設道路案は、三日後の通行確認まで残す。使えると確認した時点で不採用にする。一億四千万円は、その時に見込みから外せ」


 三浦が記録した。


「設備の基本合意は進める。五億円と十億円を分ける。五億円で確保するものを正式文案で確認する。残る十億円は、返還担保がなければ基本合意段階では払わない」


「融資資金の使途適合性も確認条件です」


 真鍋が言った。


「ああ」


「現場を止めて、設備は進めるのですか」


 調達部長が聞いた。


「現場全部は止めない。決まっていない次区間だけを止める。設備全部を進めるわけでもない。決められる仕様と、製造枠の確保を進める」


 榊原は三つの表を指した。


「止める単位を大きくするな。進める単位も大きくするな」


 午後零時四分。


 施工会社へ、次の配管班を発注しないと回答した。


 十二分後、返信が届いた。


 六人の班は、別の現場へ提案する。


 一度決まれば、こちらへ切り替えることはできない。


 次回候補日は未定。


 まだ契約していない。


 取消費用も発生していない。


 それでも、八日後に再開できる可能性は消えた。


 午後一時二十二分。


 現在の配管班が、注文済みの最後の区間を施工し終えた。


 大沢と施工会社の担当者が出来高を確認する。


 施工した延長。


 使用材料。


 埋設深さ。


 継手の位置。


 写真記録。


 追加部分施工は行っていない。


 確認済みの範囲だけが請求対象になる。


 班の責任者が、翌日の搬出時刻を確認した。


「次は、いつ戻ればいいですか」


「再開できる範囲が固まったら、施工会社を通じて相談します」


「来月は別の現場です。その後も分かりません」


「分かっています」


 責任者は、それ以上聞かなかった。


 午後二時五十八分。


 調達部から、仕様確定工程表の修正版が届いた。


 電力会社の回答が必要な五項目のうち、三項目は仮条件で設計を進められる。


 二項目は、回答がなければ主要機器の構成を確定できない。


 その二項目の判断日を、基本合意成立から三十日目に置いた。


 期限までに確定しなければ、メーカー、設計会社、施工会社、事業会社で製造枠への影響を判定する。


 四十五日目まで黙って待つ工程ではない。


 進められるかを判断する日を、その前へ置いた。


 午後四時十一分。


 メーカーから、分割払いを反映した正式文案が届いた。


 基本合意成立後、十営業日以内に五億円を支払う。


 その入金により、翌年二月第一週からの組立区画一枠と、仕様確定に必要な設計対応能力を確保する。


 残る十億円は、返還を担保する書面を確認した後に、第二回予約金として支払う。


 返還保証を用意できない場合は、主要仕様を確定し、正式発注契約の成立後に設備代金の一部として支払う。


 法務部長が修正履歴を確認した。


 控除対象。


 根拠資料。


 精算期限。


 月次報告。


 個別承認前の部材発注禁止。


 メーカー側の責任による全額返還。


「文案上の問題は解消しました」


 法務部長が言った。


「融資資金の使途適合性に関する回答が残っています」


 真鍋が続けた。


「今日は承認しない」


 榊原が答えた。


「メーカーへは法務確認を終えたと伝えろ。契約承認は、銀行団から資金使途に関する回答を受けた後だ」


 午後五時二十三分。


 支払予定表が更新された。


 第一回予約金五億円。


 未契約。


 法務確認済み。


 融資資金の使途適合性確認中。


 契約承認前。


 基本合意成立後、十営業日以内に支払う。


 第二回支払十億円。


 支払条件未達。


 返還担保確認後の予約金、または正式発注後の設備代金。


 支払日未定。


 条件付き確保。


 北側仮設道路案一億四千万円は、まだ見込み欄に残っている。


 判断期限は三日後。


 次区間の配管工事は、金額欄が空白になった。


 未発注。


 仕様、数量、施工条件の確定待ち。


 再手配可能日未定。


 空欄は、費用が発生しないという意味ではない。


 再開が遅れれば、収益開始も遅れる。


 再手配時の単価が上がる可能性もある。


 今は金額にできないだけだった。


 午後六時四十分。


 大沢から、片付け前の現場写真が届いた。


 配管班が使っていた機械は、搬出できる位置へまとめられている。


 その奥では、通路の補強作業が続いていた。


 止まる場所と、動く場所が同じ写真に写っている。


 三浦は工程表を更新した。


 現在の注文範囲。


 完了。


 出来高確認済み。


 請求書待ち。


 次区間。


 未発注。


 再開条件確認中。


 通路補強。


 施工中。


 使用開始確認。


 三日後。


 設備基本合意。


 法務確認済み。


 資金使途確認中。


 工程表から、無理に置いていた開始日が消えた。


 代わりに、再開条件と判断日が入った。


「完成日は」


 榊原が聞いた。


「まだ置けません」


 真鍋が答えた。


「止めた期間が決まれば、再算定できます」


「班が取れなければ、その期間も決まらない」


「はい」


「止めた方が、工程が見えなくなったな」


「見えていなかったものを、日付で隠さなくなっただけです」


 午後七時九分。


 施工会社から最後の連絡が届いた。


 六人の班は、別現場との調整へ入った。


 翌朝までに受入先が決まる見込み。


 こちらが再発注する時は、新たに人員と機械を手配する。


 今回示された条件は引き継がれない。


 費用を払えば、同じ日から戻ってくるとは書かれていない。


 いくらになるかも、いつになるかも決まっていない。


 止めたことで、仕事のない十五日分の発注は避けた。


 待機費も手直しも避けた。


 その代わり、再開日を失った。


 五億円は、まだ払っていない。


 残る十億円も口座にある。


 一億四千万円の仮設道路案も判断前だった。


 配管班の再手配費用は、金額さえない。


 口座残高だけを見れば、何も減っていない。


 だが、工程からは八日後という日付が消えていた。


「止めたのは、ここだけだ」


 榊原が言った。


「はい」


「ほかは進める」


「進められる条件があるものは進めます」


「条件がないものは」


「日付を作るためには動かしません」


 現場では、配管班が最後の機械をまとめている。


 通路では、翌日の補強作業に使う資材が運び込まれている。


 同じ事業の中で、止まる音と進む音が重なっていた。


 工事を続けるために、工事の一部を止めた。


 その停止は、何もしない時間ではない。


 次に動かす時、同じ間違いを繰り返さないために払う時間だった。


 ただし、時間には、請求書より先に代金が付く。


 八日後に来るはずだった六人は、もう来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。