第一章23 「食料確保」
朝の光が海と砂浜をやわらかく照らし、昨夜の焚き火の跡には、まだわずかに残る温もりと灰の匂いが漂っていた。四人は自然とその場所に集まり、特別に言葉を交わさなくても、次に何をするべきかを考えている空気が共有されていた。
夕真が足先で砂をなぞりながら、少しだけ視線を上げる。
「……昨日と同じやり方じゃ、効率悪くねぇか」
ただの思いつきのようでいて、その声には状況を冷静に見ている響きがあった。
「手で捕まえるのもできるけどさ、毎回それはキツいだろ」
美海もその言葉に頷きながら、海の方へ視線を向ける。
「確かに……もうちょっとちゃんとした方法、あったほうがいいかも」
凪沙は少しだけ考えるように間を置き、周囲の枝や石へと視線を巡らせたあと、静かに口を開く。
「簡易的でもいいから道具を作るべきね。成功率も上がるし、無駄な体力消耗も減らせる」
夕真が軽く眉を上げる。
「例えば?」
「長めの枝を削って、先端を尖らせる。槍みたいな形にすれば、刺突で捕獲できる可能性が高いわ」
「削るって、どうやって?」
美海が少し不安そうに聞く。
夕真は足元に落ちていた石を拾い上げ、軽く手の中で転がした。
「鋭いやつ探せばいけるだろ。完璧じゃなくても、形になりゃ使える」
そのやり取りを聞きながら、朝陽も静かに頷く。
「……やってみるか」
その一言で、自然と役割が決まった。
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しばらくして、四人はそれぞれ枝と石を手に取り、思い思いに作業を進めていた。最初は思うように削れず、力加減も分からずに手こずっていたが、少しずつ形になっていくにつれて、無言の中にも集中した空気が生まれていく。
やがて、簡素ながらも先端の尖った枝がいくつか並んだ。
夕真が一本を持ち上げ、軽く振ってみる。
「……それっぽくなったな」
その言葉には、少しだけ手応えが混じっていた。
凪沙がその形状を確認しながら言う。
「十分よ。あとは実際に使ってみて、調整すればいい」
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再び海へ向かうと、昨日と同じ場所のはずなのに、準備があるだけで景色の見え方が少し変わっていた。水に足を入れたときの冷たさも、昨日ほどの戸惑いはない。
朝陽は槍を握りながら、ゆっくりと浅瀬へ踏み込む。
水の中に揺れる影が見えた。
「……いた」
小さく呟くと、夕真がすぐに反応する。
「いけそうか?」
問いかけに答えるよりも先に、朝陽は視線を固定する。
その瞬間、ふとした感覚がよぎった。
この距離。
この水の揺れ方。
このタイミング。
考えるよりも先に、体が自然と動く。
水面を切るように、無駄のない動きで槍を突き出した。
「――っ」
確かな手応えが伝わる。
引き上げた先には、しっかりと突き刺さった魚が暴れていた。
「……マジか」
夕真が驚いたように笑う。
「一発で決めたぞ」
美海も思わず駆け寄る。
「すご……ちゃんと捕れてる」
凪沙はその動きを観察するように見つめ、静かに言う。
「無駄がなかったわね。狙いも正確だった」
朝陽は何も言わず、ただ手の中の魚を見つめる。
今の動きは、考えたものじゃない。
――分かっていた。
そうするのが正しいと、最初から知っていたように。
けれど、その理由だけが思い出せない。
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「よし、この調子でいくか」
夕真が空気を切り替えるように言う。
「魚はなんとかなりそうだし……他も探すか」
「他?」
美海が首を傾げる。
「実とか、貝とか。魚だけじゃ偏るだろ」
軽く言いながらも、その視線は周囲をしっかり見ていた。
凪沙も頷く。
「リスク分散としては妥当ね。複数の食料源を確保しておくべきよ」
「ほんと、言い方固ぇな」
夕真が苦笑する。
「でも間違ってないでしょ?」
「まあな」
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自然と、二手に分かれる流れになった。
夕真と朝陽はそのまま魚を狙い、
美海と凪沙は浜辺と林の方へ向かう。
「なんかあったら呼んでね!」
美海が振り返りながら言う。
「無理すんなよー」
夕真が軽く手を上げる。
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それぞれの足音が、違う方向へと広がっていく。
朝陽は槍を握ったまま、もう一度海へ視線を向けた。
昨日と同じ場所。
それでも、少しだけ違う。
ほんのわずかに、“やっていける”という感覚が生まれている。
理由は分からない。
けれど――
この場所に、自分がまったく無関係だとは思えなかった。




