第一章22 「既視感」
朝、目を覚ましたときには、すでに部屋の中にやわらかな光が差し込んでいた。
窓から入る日差しが床を静かに照らし、昨夜と同じはずの空間をどこか少しだけ違うものに見せている。朝陽はその光をしばらく眺めてから、ゆっくりと体を起こした。
外からは、変わらず波の音が聞こえてくる。その一定のリズムが、現実に引き戻すように静かに響いていた。
「……朝か」
小さく呟くと、その声に反応するように、美海がもぞりと動く。
「ん……もう朝?」
まだ眠たそうに目をこすりながら体を起こし、ぼんやりと周囲を見渡す。
「結構寝てたぞ」
夕真はすでに起きていたらしく、窓の近くで外の様子を眺めていた。振り返りながら軽く言う。
「体感だけどな」
凪沙も、少し遅れて上体を起こすと、周囲を一度確認するように視線を巡らせた。
「全員起きているわね。それなら、今日の行動を整理しましょう」
朝一番でも変わらないその調子に、夕真が苦笑する。
「相変わらずだな」
「無駄を省いているだけよ」
淡々と返す凪沙に、美海がまだ半分眠ったような声で問いかける。
「……今日って、何するの?」
「まずは食料の確保だな」
夕真が間を置かずに答える。
「昨日ほとんど食ってねぇし、このままじゃ持たねぇだろ」
「それは……そうだね」
美海がようやく目を覚ましながら頷く。
凪沙も続ける。
「水は確保できているし、火も問題ない。となると、次は食料の安定ね」
「昨日の感じだと、魚はいけそうだったしな」
夕真が言うと、美海は少しだけ不安そうに笑った。
「そんな簡単に言うけど……」
「まあ、やるしかないだろ」
その一言で、流れは自然と決まった。
軽く準備を整え、四人は外へ出る。
朝の空気はひんやりとしているが、夜とは違ってどこか軽く、視界もはっきりとしていた。海は穏やかで、波も静かに寄せては返している。
「昨日より、普通に見えるな」
夕真が周囲を見渡しながら呟く。
「慣れてきただけかもしれないけど」
凪沙が現実的に補足する。
美海は海を見つめながら、小さく息を吐いた。
「……でも、ちょっと安心する」
その言葉に、誰も否定しなかった。
しばらく歩き、昨日と同じ浜辺に出る。
砂を踏む感触が、足の裏からじわりと伝わってくる。その感覚に、朝陽はふと足を止めた。
「……」
視線を落とす。
何かが引っかかる。
昨日も来た場所のはずなのに、それだけでは説明がつかない既視感が、静かに浮かび上がる。
同じようにこの砂の上に立ち、同じように海を見ていた記憶が、どこかにある気がした。
「どうした?」
夕真の声で、現実に引き戻される。
「……いや」
朝陽は首を軽く振る。
言葉にするほどのものではない。
けれど、視線は自然と海へ向かっていた。
――誰かと、ここにいた気がする。
風の匂いと、波の音、そのすべてが微かに重なってくる。だが、その先に続くはずの記憶は、手を伸ばした瞬間にほどけて消えてしまう。
「朝陽?」
美海の声が、少しだけ近くで響く。
「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
「大丈夫?」
「……ああ」
短く答え、それ以上は何も言わない。
夕真が軽く肩をすくめる。
「じゃあ、さっさとやるか」
空気を切り替えるように言うと、凪沙も頷いた。
「効率よく動きましょう」
四人は自然と役割を分けるように動き出す。
言葉にしなくても、どこか噛み合っている感覚があった。
朝陽はその中で、ふと感じる。
――初めてじゃない。
このやり取りも、この距離も、まるで一度経験しているかのように馴染んでいる。
理由は分からない。
それでも、その感覚だけは確かだった。
海は、静かに揺れ続けている。




