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第一章19 「共通点」



火は、変わらず静かに揺れている。


夕真と美海の話が終わっても、誰もすぐには次の言葉を出さなかった。


波の音と、火の弾ける音だけが、一定のリズムで続いている。


やがて――


「……共通点が多すぎるわね」


凪沙が、静かに口を開いた。


視線は火に向けたまま。


「同じ名前」


「過去に関わりがある人物」


「そして、その記憶の一部が曖昧になっている」


淡々と並べる。


「偶然で片付けるには、少し無理がある」


夕真が軽く肩をすくめる。


「まあな」


美海も、小さく頷く。


凪沙は一度、息を整えるように間を置いた。


「ただし」


少しだけ声のトーンが変わる。


「現時点で“異常”と断定するには、情報が不足している」


理路整然とした言い方だった。


「記憶の曖昧さ自体は、珍しい現象ではないわ」


「時間の経過や、印象の強弱で歪むこともある」


一拍。


「同名の人物が、それぞれの過去に存在していた可能性も否定できない」


夕真が、少しだけ笑う。


「ずいぶん現実的だな」


「当然よ」


凪沙は即答する。


「現実的に考えられる範囲で、まずは整理するべきだから」


火が、ぱち、と鳴る。


その音のあと、ほんの少しだけ沈黙が落ちた。


凪沙は、そのまま続ける。


「私の場合も」


わずかに視線を落とす。


「大学のときの知り合いに、“茜”という名前の人物がいた」


淡々とした口調。


けれど、ほんのわずかに間があった。


「同じゼミで、発表の準備を一緒にすることが多かった」


「成績も優秀で、論理的に物事を考えるタイプ」


「……無駄がない人だったわ」


夕真が少しだけ苦笑する。


「おまえと気が合いそうだな」


「実際、議論はしやすかった」


短く答える。


「結論を急がずに、必要な情報だけを積み上げていくタイプで」


「感情論に流されない」


言葉は整っている。


いつも通りだった。


けれど――


「ただ」


ほんのわずかに、言葉が途切れる。


火の揺れが、目に映る。


「……」


一瞬、沈黙。


それは、ほんの短いものだった。


だが、確かに“止まった”。


凪沙は、すぐに続きを口にする。


「特筆すべき点は、それくらいね」


何事もなかったように言う。


夕真が、少しだけ目を細める。


「……それだけか?」


軽く投げる。


凪沙は、視線を動かさない。


「ええ」


迷いなく答える。


「それ以上でも、それ以下でもないわ」


火が、小さく弾ける。


そのあと。


わずかな沈黙。


美海が、少しだけ不思議そうに凪沙を見る。


けれど、何も言わない。


朝陽は、静かにそのやり取りを見ていた。


違和感があった。


言葉の内容じゃない。


その“間”に、引っかかるものがある。


凪沙は、何もなかったかのように続ける。


「現状では、三人の証言に共通項があるだけ」


「そこから何かを断定するのは早計よ」


理屈は通っている。


否定する隙はない。


けれど――


夕真が、小さく息を吐く。


「……まあ、そういうことにしとくか」


軽く言う。


深くは踏み込まない。


凪沙は何も答えない。


ただ、火を見ている。


朝陽は、その様子を見つめたまま動かなかった。


さっきと同じように、何かが引っかかる。


けれど、それを言葉にしようとすると、やはり形にならない。


波の音が、静かに続く。


火の揺れが、四人の影を揺らしていた。


それぞれの中にあるものは、まだ揃わない。


けれど――


確実に、どこかで繋がり始めていた。

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