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第一章18 「美海の過去」


焚き火の音が、静かに続いている。


夕真の話が終わったあと、しばらく誰も口を開かなかった。


重たいわけじゃない。


ただ、それぞれの中に、何かが残っていた。


火の揺れを見つめながら、美海は小さく息を吐く。


「……この前も言ったけど」


少しだけ間を置く。


「私のメールの差出人も……茜」


その名前を口にする声は、どこか慎重だった。


火が、ぱち、と鳴る。


「中学のときの友達でさ」


視線は、火に落としたまま。


「すごく優しくて……でも、なんていうか」


言葉を探すように、少し黙る。


「放っておけない感じの子だった」


小さく笑う。


「いつも誰かの隣にいるんだけど、前に出るタイプじゃなくて」


「気づいたら、そばにいるみたいな」


そのまま、少しだけ表情が曇る。


「私がさ」


言いかけて、少し迷う。


それでも続ける。


「中学のとき、一回ちょっとしんどい時期があって」


「仲良かった子と、うまくいかなくなって」


「クラスにいるのも、なんか居心地悪くてさ」


視線が、少しだけ揺れる。


「別に、いじめとかじゃないんだけど」


「でも、誰ともちゃんと話したくなくて」


「なのに、一人でいるのも嫌で」


苦笑する。


「めんどくさいよね」


誰も否定しない。


美海は、そのまま続ける。


「そのとき、あの子が隣に座ってきて」


「何も言わないの」


夕真が、少しだけ目を細める。


「話しかけてくるわけでもなくて、ただ普通にそこにいるだけ」


火の揺れが、静かに映る。


「最初はちょっと気まずかったんだけど」


「そのまま一緒にいて」


「気づいたら、普通に話してた」


小さく笑う。


「“無理に元気にならなくていいよ”って言われて」


「それが、なんかすごく楽で」


少しだけ間。


「助けられたっていうか……」


言葉を選ぶ。


「……救われた、のかも」


その声は、静かだった。


でも、はっきりと残る。


しばらく、誰も何も言わなかった。


波の音だけが続く。


やがて、美海は少しだけ眉を寄せる。


「でもさ」


火を見たまま、呟く。


「顔、ちゃんと思い出せないんだよね」


少しだけ戸惑ったように笑う。


「雰囲気は分かるのに」


「どんな顔してたかって言われると、曖昧で」


凪沙が、静かに口を開く。


「記憶としては保持されているのに、細部が欠落している状態ね」


「……うん」


美海は頷く。


「変だよね」


夕真が、小さく息を吐く。


「俺も似たようなもんだな」


軽く言う。


凪沙は何も言わず、火を見つめていた。


朝陽は、静かにその場に座っている。


言葉は出てこない。


ただ、美海の話を聞いていたときと同じように、胸の奥がわずかに揺れる。


理由は分からない。


それでも――


その名前だけが、静かに残る。


「……」


火は、変わらず燃え続けていた。


四人の間にあるものは、まだはっきりしないまま。


けれど確実に、同じ方向へと集まりはじめていた。


イメージイラストです。

https://52962.mitemin.net/i1268090/

挿絵(By みてみん)

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