第一章14 「探索2」
井戸を見つけて戻る頃には、日差しはすっかり強くなっていた。
さっきまでよりも空気が重く感じられるのは、歩き続けていたせいだけではない。ひとつ安心材料は増えたが、それだけで全てが解決するわけではなかった。
家に戻ると、四人は自然と腰を下ろした。しばらくのあいだ、誰も口を開かない。
「……水はどうにかなるとして」
夕真が天井を見上げたまま言う。
「次は、飯だな」
その一言で、現実がまた一段重くなる。
「……だよね」
美海が小さく頷く。
「さすがに何も食べないのは無理だし」
凪沙が静かに続ける。
「エネルギーの補給ができなければ、判断力も落ちるわ」
「それは分かるけどさ……」
夕真が軽く息を吐く。
「問題は“どうやって”だよな」
静かに視線が合う。答えは、誰も持っていなかった。
外に出ると、潮の匂いがさっきよりも強く感じられた。自然と足は海の方へ向かう。
「……魚、とか?」
美海が少し自信なさげに言う。
「まあ、現実的にはそれだよな」
夕真が頷く。
「他に食えそうなもん、ぱっと見ねぇし」
凪沙も海を見つめる。
「捕獲手段が問題ね。素手では難しいと思う」
「だよなあ……」
夕真が苦笑する。
「釣り道具もなければ、網もないし」
朝陽は、波打ち際に目を向けていた。水の中を、小さな影が素早く動いている。
「……いるな」
ぽつりと呟く。
三人もそちらを見る。確かに、魚の群れが浅瀬を行き来していた。
「……いけるか?」
夕真が少しだけ身を乗り出す。
「やってみるしかねぇだろ」
そう言って靴を脱ぎ、浅瀬に足を入れる。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
美海が慌てて後を追う。
「無理じゃない!?それ!」
「やる前から決めつけんなって」
夕真は軽く笑いながら、水の中をじっと見つめる。魚の動きを読むように、ゆっくりと手を伸ばす。
――が、ぱしゃ、と水しぶきだけが上がる。
魚は一瞬で逃げていった。
「……速ぇな」
夕真が苦笑混じりに呟く。
「だから言ったじゃん……」
美海も肩を落とす。
もう一度試す。しかし結果は同じだった。近づいた瞬間に、すぐに逃げられる。
凪沙が腕を組む。
「反応速度が人間より遥かに速いわね。この方法では非効率よ」
「分かってるけどさ……」
夕真が水から上がる。
「他に方法もねぇだろ」
砂浜に戻ると、四人の間に少しだけ重い空気が流れた。できると思っていたわけではない。それでも、やってみて無理だと分かると、現実がはっきりと突きつけられる。
「……どうする?」
美海が不安そうに言う。
誰もすぐには答えなかった。
朝陽は、海を見つめたまま考える。波の動き、魚の動き。何か引っかかるものがある気がするのに、うまく形にならない。
「……もう少し、やり方考える必要あるな」
ようやく言葉にする。
夕真が頷く。
「だな。このままじゃ埒があかねぇ」
凪沙も続ける。
「道具の作成か、あるいは環境を利用する方法を考えるべきね」
「環境?」
美海が聞き返す。
「例えば、魚の動きを制限できる場所……浅瀬や岩場など」
「……なるほどな」
夕真が、もう一度海を見た。
さっきと同じ景色。それでも、見え方が少しだけ変わっている。
「……一回戻るか」
ぽつりと言う。
「無駄に体力使うのもよくねぇし」
その判断に、誰も反対しなかった。
家へ戻る道のりは、来たときよりも少しだけ静かだった。成果はあった。けれど、同時に足りないものもはっきりした。
それでも完全な行き止まりではない。
「……次は、もう少し考えてやろう」
夕真が軽く言う。その声には、さっきよりも少しだけ意地のようなものが混じっていた。
美海も小さく頷く。
「うん……このままじゃ終われないし」
凪沙は変わらず前を見ている。
「試行錯誤は必要ね」
朝陽は、そのやり取りを聞きながら歩く。うまくいかないこともある。それでも、少しずつ前に進んでいる実感はあった。
それだけで、足を止める理由にはならなかった。




