第一章13 「探索1」
家を出てからしばらくは、同じような景色が続いていた。
砂混じりの道と、低い草木、それから遠くに見える海。
どこを見ても変わり映えはないのに、不思議と“どこか知っているような感覚”だけが、ぼんやりと残っている。
「……ほんとにあんのかね、水」
夕真が、軽く辺りを見回しながら言う。
「なかったら困るでしょ」
美海がすぐに返す。
「困るのは分かってるけどさ、こう広いと当てがなさすぎるだろ」
「だから探してるんでしょ」
「正論すぎて何も言えねぇな」
小さく笑う。
その軽いやり取りが、歩くペースを少しだけ楽にしていた。
凪沙は少し先を歩きながら、周囲を観察している。
「……地形的には、水が溜まりやすい場所があるはずよ」
「地形?」
美海が首を傾げる。
「低い場所や、植物が密集しているところ。あとは人工物が残っていれば、井戸の可能性もある」
淡々とした説明だったが、内容は具体的だった。
「なるほどな」
夕真が頷く。
「じゃあ、とりあえず低そうなとこ探すか」
四人は、少しだけ進む方向を変える。
なだらかに下っていく道の先へ、自然と足が向いていった。
歩き続けていると、次第に空気が少しだけ変わってくる。
湿り気を帯びたような、ひんやりとした感触。
朝陽は、ふと足を止めた。
「……この先、なんか違う」
その一言に、三人も立ち止まる。
「どう違う?」
凪沙がすぐに問い返す。
朝陽は言葉を探すように少しだけ視線を動かしてから、ゆっくりと答える。
「……空気が、湿ってる気がする」
夕真が鼻で軽く息を吸う。
「あー……言われてみれば、確かに」
「ほんとだ」
美海も周囲を見渡す。
「ちょっと涼しいかも」
凪沙が小さく頷く。
「可能性は高いわね。この先に水源があるかもしれない」
その言葉に、四人の足取りがわずかに早くなる。
少し進んだ先、草が途切れた場所に出た。
そこにあったのは、円形に石で囲まれた場所だった。
「……井戸?」
美海が、思わず声を漏らす。
覗き込むと、底の方に水が見える。
光を反射して、わずかに揺れていた。
夕真がしゃがみ込み、縁に手をかける。
「マジであるじゃん」
「深さもそこまでじゃなさそうね」
凪沙が冷静に確認する。
「ただ、そのまま飲むのは危険よ。煮沸は必要」
「でも、水があるだけでもだいぶ違うよな」
夕真が振り返る。
その表情には、はっきりとした安堵が浮かんでいた。
美海も、ほっとしたように息をつく。
「よかった……ほんとに」
朝陽は、井戸の中の水を見つめたまま、静かに息を吐く。
「……助かったな」
その言葉は、小さいけれど確かだった。
少しの沈黙のあと、夕真が立ち上がる。
「とりあえず、どうやって汲むか考えねぇとな」
「バケツとか……ないよね」
美海が周囲を見回す。
「代用できるものを探すしかないわね」
凪沙が言う。
「容器と、紐になるもの」
夕真が軽く笑う。
「一気にサバイバル感出てきたな」
「今さらでしょ」
美海が呆れたように返す。
けれど、その声はどこか明るかった。
不安は消えていない。
それでも――ひとつ、確実に前に進んだという実感があった。
朝陽は、もう一度だけ井戸を見下ろす。
水面が、わずかに揺れている。
それを見ていると、なぜか胸の奥が静かに落ち着いていく気がした。
理由は分からない。
けれど。
「……行こう」
そう言って、顔を上げる。
夕真が頷く。
「だな。準備しねぇと飲めねぇし」
四人は、来た道を戻り始める。
さっきよりも足取りは軽い。
何もない場所ではない。
ちゃんと、生きていけるかもしれない場所だと――
少しだけ、思えたからだった。




