第一章12 「探索開始」
家の中に、少しずつ生活の気配が生まれていく。
最初に感じていた埃っぽさも、掃き出してしまえば気にならなくなり、差し込む光の中で舞っていた細かな粒も、やがて落ち着いて見えなくなった。
床に腰を下ろすと、さっきまでよりもずっと現実に近い感覚があった。
「……思ったより、どうにかなりそうだな」
夕真が壁にもたれながら、天井を見上げる。
「“思ったより”ってなによ」
美海が、ほうきを持ったまま軽く睨む。
「いや、もっとボロいかと思ってたって話」
「十分ボロいけどね?」
「それは否定しねぇ」
軽く笑い合う。
そのやり取りが、ほんの少しだけ空気を柔らかくする。
凪沙は窓際に立ち、外の様子を確かめるように視線を巡らせていた。
「少なくとも、雨風は凌げるわね。構造的にも大きな問題はなさそう」
「さすが、そういうの詳しそうだな」
夕真が感心したように言うと、凪沙はわずかに視線だけを向ける。
「普通に見れば分かる範囲よ」
あくまで淡々としているが、その判断は的確だった。
一通り掃除が終わると、四人は自然とその場に座り込んだ。
動き回っていたせいか、思っていた以上に体が重い。
「……疲れた」
美海が、そのまま床に寝転がる。
「まだ何もしてねぇだろ」
夕真が呆れたように言う。
「してたじゃん、掃除!」
「それくらいでダウンすんなよ」
「うるさい」
言い返しながらも、起き上がる気配はない。
けれど、その表情にはさっきまでの不安はあまり残っていなかった。
少しの静寂。
窓の外からは、波の音が一定のリズムで聞こえてくる。
朝陽は、その音をぼんやりと聞きながら、視線を床に落としていた。
不思議と、この空間が“初めてではない”ような気がする。
理由は分からない。
けれど、違和感だけが残る。
「……なあ」
夕真が、少しだけ体を起こしながら言う。
「水とか、どうすんだ?」
その一言で、空気が現実に引き戻される。
「確かに……」
美海が起き上がる。
「飲み物ないのは普通に困るよね」
凪沙も頷く。
「優先順位としては高いわね。人間は水がなければ数日もたない」
「さらっと怖いこと言うなよ」
夕真が苦笑する。
「事実よ」
淡々と返される。
朝陽は、ゆっくりと顔を上げた。
「……探すしかないな」
それしかない。
夕真も頷く。
「だな。島なんだし、どっかに水源くらいあるだろ」
「川とか……井戸とか?」
美海が周囲を思い浮かべるように言う。
「可能性はあるわね。さっきの道の先も、まだ全部は見ていないし」
凪沙の言葉に、全員の意識が揃う。
立ち上がる。
さっきまでの“とりあえず”ではなく、少しだけ目的を持った動きだった。
「行くか」
夕真が軽く言う。
美海も頷く。
「うん、じっとしてても仕方ないし」
凪沙はすでに外へ向かって歩き出していた。
朝陽も、そのあとに続く。
外に出ると、陽の光がさっきよりも強くなっていた。
海の色も、少しだけ明るく見える。
さっきと同じ景色のはずなのに、どこか違って見えた。
それはきっと、状況が変わったからではなく――
自分たちの中が、少しだけ変わったからだ。
「……なんかさ」
歩きながら、美海がぽつりと呟く。
「こういうの、ちょっとだけ冒険っぽくない?」
夕真がすぐに反応する。
「状況的にはだいぶ笑えねぇけどな」
「それはそうだけど……」
少しだけ考える。
「でも、四人で動いてるとさ、ちょっと安心する」
その言葉に、誰もすぐには返さなかった。
けれど。
否定する空気ではなかった。
夕真が、軽く笑う。
「……まあ、分かるけどな」
それだけ言って、前を見る。
凪沙も何も言わないが、歩く速度がわずかに揃う。
朝陽は、その背中を見ながら思う。
言葉にしなくても、少しずつ何かが変わっている。
まだ、何も分からない。
けれど。
一人ではない、というだけで――
それだけで、少しだけ前に進める気がした。




