第一章11 「拠点」
写真の前を離れたあとも、胸の奥に残る違和感は消えなかった。
けれど、それを言葉にするには曖昧すぎて、結局誰も何も言わないまま、四人は再び外へと出た。
朝の光は、すでに島全体に広がっている。
さっきまでの不気味な静けさとは違って、どこか現実に引き戻されるような感覚があった。
「……とりあえずさ」
夕真が大きく伸びをする。
「ずっと外にいるのもキツくねぇ?」
「それはそうね」
凪沙が周囲を見渡しながら答える。
「拠点になりそうな場所を決めるべきだと思うわ。安全性も含めて」
「拠点……」
美海が小さく呟く。
その言葉を反芻するように、少し考えてから顔を上げた。
「じゃあ、さっきの家……使えないかな」
「あそこか?」
夕真が振り返る。
「中、そんなに荒れてなかったし……なんか、落ち着く感じしたし」
少し遠慮がちな言い方だったが、その表情はどこか前向きだった。
凪沙も頷く。
「候補としては悪くないわね。他と比較して決めてもいいけど、まずは一つ確保する方が効率的だと思う」
三人の視線が、自然と朝陽に向く。
「……いいと思う」
短く答える。
それだけで、決まった。
再びその家に戻ると、さっきよりも少しだけ“居場所”のように感じられた。
「……まずは、掃除だな」
夕真が靴先で床を軽くこすりながら言う。
「え、やるの……?」
美海が少しだけ嫌そうな顔をする。
「当たり前だろ。このまま寝るのは無理だって」
「うぅ……まあ、そうだけど……」
ため息をつきながらも、しゃがみ込む。
その様子に、夕真が少しだけ笑った。
「意外とちゃんとしてんだな」
「なにそれ、どういう意味?」
「いや、もっと嫌がるかと思っただけ」
「嫌がってるけど?」
少しだけ頬を膨らませる。
そのやり取りに、空気が少し緩む。
凪沙はすでに室内を見て回っていた。
「窓があるのは助かるわね。換気もできるし、光も入る」
「ちゃんと住む気満々だな」
夕真が苦笑する。
「当然よ。状況が分からない以上、ここで過ごす可能性も考えるべきでしょ」
淡々とした口調だったが、その判断は現実的だった。
朝陽は、その様子を少し離れた場所から見ていた。
気づけば、さっきまでの重たい空気が、少しだけ軽くなっている。
理由は分からない。
けれど。
「……まあ」
小さく呟く。
悪くない、と思った。
窓の外では、波が静かに揺れている。
朝の光が、部屋の中に差し込んでいた。
まだ何も分からないまま。
それでも四人は、ここで過ごすことを選んだ。




