第5話 静かなる絶望の家
山に響き渡った凄まじい悲鳴を聞きつけ、
狂ったように斜面を駆け下りてきた喜助たち先発隊が目にしたのは、
まさに地獄そのものの光景だった。
血の海の中で倒れ伏す青年たち。
大人たちは息を飲み、パニックに陥りそうになるのを必死に堪えながら、
まだ息のある者を急いで回収した。
武器の代わりに持ってきたあの古びた戸板は、
皮肉にも、重傷を負った彼らを運ぶための担架となった。
青年たちは、集落へと運び込まれた。
下海一郎は、即死だった。
ついさっきまで、道中ずっと嬉しそうに結婚ののろけ話をしていた、
二十四歳の若者。
その遺体が集落に戻されたとき、
近々、祝言を挙げるはずだった婚約者の娘が、
ふらふらと足元を狂わせながら歩み寄ってきた。
彼女は、涙を流すことさえ忘れたかのように、ただ声を失い、
呆然と一郎の遺体の横に座り込んだ。
そのあまりに静かな絶望の姿は、見る者の胸をかきむしった。
最年少の十七歳、月渡清一の傷は、あまりにも残酷だった。
顔の右半分は無残に引き裂かれ、美しかった顔立ちは見る影もない。
右目も、右耳も完全に潰れていた。
木の上で帯を結び、気を失ったまま集落へ担ぎ込まれた清一は、
その後も一度も意識が戻ることはなかった。
刻一刻と陽が傾くなか、その日の夕方六時半。
清一は短い生涯を閉じた。
変わり果てた我が子の姿に、
親たちは狂ったように泣き叫び、床を叩いて慟哭した。
そして、清一が密かに想いを寄せていた娘は、
あまりの凄惨な変わりように、泣き叫ぶことすらできず、
その場で激しく嘔吐した。
温かかったはずの恋の終わりは、
あまりにも容泄のない現実となって彼女を打ちのめした。
二十六歳の八沼頼三は、まだ息があった。
しかし、引き裂かれた腹部の傷は深く、
すでに手の施しようのない状態だった。
集落の寝床に横たえられた頼三は、薄れゆく意識のなかで、
うわごとのように何度も、何度も同じ言葉を繰り返していた。
「清一……頑張れ……。木を登れ……。死ぬな、清一……」
自分が瀕死の重傷を負っていることなど忘れ、
ただただ、命をかけて守ろうとした最年少の後輩の身を案じ、
応援し続けていたのだ。
家族が涙を流しながら見守る中、
頼三は次の日の朝、静かに息を引き取った。
最期まで仲間を気遣い続けた、良き兄貴分の死だった。
兼遠大作は、激痛と失血のなかで、ようやく意識を取り戻した。
顔面を殴られ、包帯で固く巻かれた顔は、
わずかに動かすだけで激痛が走る。
だが、目を開けた大作が真っ先に口にしたのは、仲間の安否だった。
「一郎は……頼三は、清一は……無事か……?」
岩穴から何度も這い出し、命懸けで石を投げ続けたのは、
みんなを助けるためだった。
しかし、看病していた大人たちから告げられたのは、
自分以外、全員が息を引き取ったという残酷すぎる現実だった。
「俺が……俺が石なんかじゃなく、武器を持っていれば……!」
大作は、血の滲む包帯の下で激しく顔を歪め、己の無力さを痛烈に悔いた。
涙が傷口に染みて激痛が走るのも構わず、
ただただ、親代わりだった五平の後を追うように逝ってしまった、
仲間たちの名前を呼び、絶望の底で拳を握りしめた。
だが、大作の目はまだ死んでいなかった。
仲間を失った翌朝。
身体中がまだボロボロの状態で、大作は這うようにして喜助の前に進み出た。
驚く喜助の衣服を、大作は強く、強く掴み取った。
「喜助さん……頼む。俺に、銃の使い方を教えてくれ。
俺に、銃をくれ……!」
もう二度と、武器を持たずに大切な人を失いたくない。
今度は自分が銃を持ち、あの化け物を地獄へ送る。
顔の包帯から赤黒い血を滲ませながら、
復讐と誓いの炎を瞳に宿し、大作は力の限りに懇願した。




