第3話 転生……?
いつの間にか寝ていたのか目を開けると外は暗くなっていた。
「………ふあぁぁ。ん〜よく寝たぁ」
背伸びをするとひらひらしていた袖が落ちてくる。
あれ……?私、もこもこしたパジャマを着てなかったけ……。
焦って周りを見渡すがアニメでしか見覚えの無い広く厳かな作りの部屋に困惑する。
「……ん?ここどこ……?」
マンションの部屋に居たはずなのに私はいつの間にか西洋風の豪華なお屋敷のベットの上にいた。
しかもいつの間にかワンピースのような白い服を着ている。
視界の端に見えるのは『約束の丘で』に出てきた悪役令嬢のアイリスと同じ長く美しい黒髪が見える。
ハッとして近くにあった化粧台に走って行き、自分の顔を確認する。
鏡に映ったのは前の自分の顔……ではなく、私のお気に入りのゲームの登場人物アイリスの顔が映っていた。
「………えっ…ど、どういうことぉ〜!?」
おおよそ令嬢が出してはいけないような大声が屋敷に響き渡った。
思いっ切り叫んだ後、そのまま数秒たっぷり固まり、夢かもしれないと思い思いっ切り頬をつねってみる。
「いひゃい!」
強くつねりすぎた。
思ったより痛い。
赤くヒリヒリしている頬を優しくさする。
「私、転生したってこと……?」
じゃあ前の私は……?死んだのかな……。
現実が理解できず困惑しているといきなり部屋のドアがバンと大きな音を立ててあきメイド服をきた女性が入室してきた。
「アイリス様!大丈夫ですか!」
さっきの叫び声を聞きつけて急いで来たのか肩で息をしている。
赤紫色の髪を三つ編みにして肩にそのまま流した女性で10代に見えなくもない。
誰もが可愛らしいと思う顔立ちをしている。
この女性はまさか――リリス?
ゲームの中ではアイリスの唯一の仲間で、アイリスが国から追放されてもずっとアイリスの側にいたが何故、悪役令嬢でリリスにも酷い態度を取っていたアイリスを守るのかあまりよく分かっていないキャラだ。
「アイリス様…良かった、元気になられたんですね!ルクス様との婚約が解消された後かなり落ち込んでいたので心配だったんです。」
私がずっと黙っていることを不思議に思ったのかきょとんと首を傾げてアイリスと同じアクアマリンの瞳が心配そうにこちらの顔をのぞき込んできた。
「アイリス様?……やっぱりまだどこか具合が悪いんですか?」
だが私はそれどころではなく内心焦っていた。
__まずい。何か話さないと…でも一体何を話せば…。
何より変な奴って思われたくない…。
だが根っからの引きこもり陰キャの私になにが言えよう?
まずはあたりざわりのないように……。そう考えてとりあえず言葉を発した。
「私は……大丈夫よ」
一体何が大丈夫だというのか。
よく状況がわかってもいないのにとりあえず出てきた言葉がそれだった。
__何してんのぉ〜私!とりあえずお嬢様ぽく言ってみたけど…。
という心配をよそにリリスはすんなりと私の言葉を信じてくれた。
「なら良かったぁ〜。」
と本当に心の底から良かったと思っている声でリリスがにっこりと笑ってそう言った。
「そう言えばアイリス様、今日司教様がいらっしゃる予定ですが大丈夫ですか?」
ぽかんとしている私にもうすぐいらっしゃいますよと教えてくれた。
そして鼻歌を歌いながらリリスは化粧の準備をし始める。
__聞いてないんですけどぉ〜……。
正直に私の中身は別人です。と言ったらきっとこの内心のドキドキは収まるかもしれない。
だが…。
「ねぇねぇ、最近鈴木さん調子に乗ってるよね。」
その日はたまたま学校に朝早く着いた。
殆ど誰もいない学校は新鮮だった。
みんなが居るときはしていないスキップをしてみたり、すれ違った先生に大きな声で挨拶したり
いつもとは違う景色を楽しみながら教室へと入ろうとした時のことだった。
自分の名前が出てきてドキッとする。
「めっちゃ分かる〜」
「まじそれな」
教室に誰もいないことを良いことに堂々と私の悪口を言っていたのだ。
私はその場で立ち止まって盗み聞きをすることにした。
自分の他人の評価が気になったのもあったかもしれない。
向こうには私のことはバレていないはずなのに心臓が早鐘をうつ。
心臓の鼓動が周りに聞こえていないか心配で冬服のセーラーの上からそっと心臓を押さえた。
「昨日の体育の授業の時なんかいつも静かなのにあんなに騒いでさぁ〜うるさいし、まじ迷惑なんだけど」
ちょうど昨日の体育の授業はサッカーだった。
人に蹴られたボールがこちらに向かってくると怖いし叫びたくもなる。
何なら他の人だって叫んでいた。
だから大丈夫だと自分に言い聞かせる。
「しかもさぁ、誠也が鈴木さんのこと好きとか言ってるし最近調子に乗ってるのって絶対それが理由だよね。」
「ねぇ!本当に誠也も誠也でありえないんだけどぉ〜あんな地味で陰キャで地味な女を好きになるなんてさぁ」
「夏鈴がかわいそうだよ」
「ねぇ〜。ホントにそうだよね」
誠也とはきっと斎藤さんのことだろう。
私と同じクラスで他のクラスの人ともよく話しているのを見かけているし、何より私とは大違い。
スポーツ万能で行動力もある。
まぁ勉強はできないっぽくよく友達にからかわれている。
それに比べて私は運動は平均より少し下ぐらい。勉強は嫌いではなく、それなりにはいい点数を取っているが恥ずかしがり屋で人見知り、というのもあって人に話しかけづらいというのが欠点だ。
「夏鈴ちゃん、誠也のこと好きなのにね。」
――そう、それが問題だった。
だからこの人達は私の悪口を言っているのだろう。
私は斎藤さんに特別な感情があるわけでもない。だから斎藤さんに対して特に何も思っていなかった。
何も知らないフリをしておけば何も言われずに済むかもしれない、他人からの私の評価が変わることはない――。
そんなふうに考えていたのに…。
どんどんと速くなっていっている心臓の鼓動を感じる。
自分の身体から血の気が引いていっているのがわかった。
結局その日は1日中気分が悪かった。
もともとあまり喋る方ではなかったが、それからというもの前よりも自分の意見が話せなくなった。
もう自分が傷つかないように――。
殻の中に閉じこもるように――。
ハッとしてメイドさんの方を見ると暗い表情をした私には気づいておらず、ルンルンで化粧品の準備をしていた。
ホッと胸を撫で下ろし化粧の準備ができたのかアイリス様〜と呼んでいるメイドさんの方へと歩いていく。
「髪型と化粧はいつもと同じようにしますね!」
そう言うとメイドさんはあっという間に髪型と化粧を済ませる。
そっと目を開けると鏡に映るアイリスはさらに美しさを増していた。
「うわぁ、すごい!すごく綺麗!」
と称賛の言葉を言ってから失敗したと思った。
アイリスはこんな褒め方はしていなかったからだ。
だが、メイドさんは気にした様子はなくむしろえへんと胸を張りドンと胸をたたく。
「私はリリス・フォートナーですよ?」
アイリス様の専属メイドなので当然です!と誇らしげに言っていた。
とはいえ私がいつもと違い急にオーバーな反応をしてしまったからか
「急にどうしたんですか?」
と首を傾げながら聞いてきた。
その動きが可愛いなと思いながら
「いつもながら凄いなぁって……」
あはは……と笑って何とか誤魔化そうとする。
だが、優秀なリリスにはバレてしまったようだ。
「あなたは……誰ですか?」




