第2話
私の今の人生を二文字で表すなら平凡だと思う。
代わり映えしない日常。
終わることのない仕事の日々。
皆が着ているような服を着て、仕事が無い休みの日に友達と出掛けるのが楽しみ。
つまらないと思った。
物語の主人公のじゃなくてもいい。
一度ぐらいは異世界に行って、魔法を使ってみたい。
スマホのゲーム画面を眺めながらそう思った。
「こんな世界にいけたらなぁ……」
私が今遊んでいるゲーム《約束の丘で》はまさに私が行きたいと思っていた異世界の理想そのものだ。
誰でも魔法が使えるし、悪役令嬢だっている。
本当になんでもありだし、話の作り込みだって凄い。
アイリスだって悪役令嬢でいるだけのちゃんとした理由がある。
私が救いに行きたいと思ったぐらいだ。
スマホの画面から目を離し、ふと時計を見ると、針はもう12時を指していた。
毎朝、満員電車に揺られて会社に出勤し、残業を終わらせる日々。
帰ってきたのは2時間前。
こんな生活をいつまで続けるつもりなのだろう。
お気に入りの抱き枕に顔を埋める。
「……私にも分からないよっ、と。……寝よ」
勢いをつけて起き上がると布団のなかに入って電気を消す。
そしてもう一度異世界にいけますようにと願って眠りについた。
――――その日、久しぶりに夢を見た。
不思議な夢だった。
まるで私が体験したことのあったかのようなリアルな夢―――。
午後の穏やかな風に吹かれながら婚約者である2人は薔薇が咲き誇っている庭園を歩いていた。
ちょうど今が時期らしくどこを見渡しても薔薇が綺麗に咲いている。
この場所は私とルクス様が初めて会った思い出の場所だ。
私達とも親同士が決めた婚約だったし始めはお互いに特に興味もなかった。
だけど、今までそんな子がいなかったからかたとえそれが政略結婚であったとしてもいつの間にか2人はお互いを好きになっていた。
そして今隣りにいるルクス様は忙しいにも関わらず私のために予定を開けてくれたのだ。
そのことを思うと嬉しくて顔が火照ってしまう。
いつものようにからかわれたくなくて火照った顔を隠すようにハーフアップにした黒髪の一部を指に巻き付けたりほどいたりして気持ちを落ち着かせる。
少し下を向きながら歩いていていると隣を歩いていたルクス様が急に立ち止まった。
驚いて火照っていた顔のことも忘れてルクス様の方を見る。
いつの間にかこちらを向いていた顔は少し赤くなっているような気がした。
するとルクスは近くにいた侍女から綺麗に包装された包みを受け取るとおずおずと差し出してきた。
「その、遅くなったが……アイリス、誕生日おめでとう。」
ぶっきらぼうに言ったのは照れ隠しだろうか。
それが少しおかしくて私はクスリと笑いありがとうございますと言って包みを受け取る。
その包みはずっしりと重かった。
中身が気になった私はその場でゆっくりと包みを開ける。
「わぁ……」
その中に入っていたのは私の目の色と同じ色のアクアマリンのペンダントだった。
こういう物に疎い私でもこのペンダントが相当高価なものであるということがわかる。
もらったペンダントを太陽にかざしてい笑っていると
「気に入ってくれたようで何よりだ。」
とルクス様が朗らかに笑った。
これは学園に通っている令嬢達が黄色い歓声を上げるわけだと一人納得する。
すると突然
バリィンと音を立てて景色が砕けた。
砕けた先の景色は王宮だった。
雨の日なのか重く苦しい空気が流れている。
「アイリス、……すまない。婚約が解消されることになった。」
そういうルクス様の顔が苦しそうで…でも今思えば私も酷い顔をしていたに違いない。
映像は屋敷の部屋を映し出した。
「アイリス姉様。ごめんなさい……わたしのことはもういいから……。」
青白い顔をしながらか細い声でそういった妹のセナはすべてを諦めたような光が灯っていない目でそう言った。
「そんなこと言わないで……。セナは私が守る。きっと大丈夫よ」
だから後少しだけ頑張ってと泣きそうになりながらも無理やり笑みを作った。
景色が音を立てて砕けたと思えば自室が映った。
「……分かってたでしょう?どう頑張ってもこうなるんだって」
目に涙をにじませながら唇を血がにじむまで強く噛み締めた。
遅れて針に刺されたような痛みがやってくる。
「お姉様やお兄様がそれを証明していたじゃない……っ」
でも、どうしても希望が捨てきれなかった。ヴォルテール公爵――父を救えると、心どこかで自分はうまくやれると思っていたのだ。
それなのに……この有様。姉様達と何も変わらない、変えられない。
「大事なのはあきらめないこと」
いつか姉様が言った言葉だ。
そうやっていつも姉様は私を励ましてくれた。
だから今まで心が折れずにやって来れたのだ。
私は黙ってただ過去の自分が苦しんでいるところを見ていた。
___こんなにも苦しんで、ほんっとバカみたい。滑稽ね。
今なら過去の自分の苦しんでいる自分を見ても同情はできない。
もう自分は戻れない所まで来てしまったのだから。
――――私は前に進むだけよ。もう何もかも手遅れだとしても。




