#08 反撃
そのうち三人の動きからも少しずつ警戒が消えていった
大柄な男も、今では迷わず踏み込んでくる
こいつなら殴れば当たる。
そう覚え始めてる。
スマホを見る
残り十分。
「はぁ、もういいだろ」
依頼人が口を開いた
「そのスマホを寄越せ。調査結果は入ってるんだろ?」
「……嫌だ」
「まだやるのか?」
「報酬、まだ貰ってねぇからな」
「別にお前を殺したいわけじゃない。夜坂一人殺したところで何の得にもならない」
依頼人が手を差し出してくる
「情報を渡せ。それで帰っていい」
「…………」
「十分だろ?」
スマホを握る
「これ、親父の形見なんだよ」
「親父? ああ、あの『大罪人』か」
「…………」
指が止まる。
バグの元凶。
大罪人。
夜坂。
どいつもこいつも、好きに言いやがって。
「情報だけ渡せ。スマホは返してやる」
まるで、俺の物を返すことまで自分の善意みたいに。
「……嫌だ。渡さねぇよ」
「せっかく優しくしてあげたのに」
「…………」
「やっぱり夜坂は、話が通じないな」
胸の奥が、少しだけざらつく。
勝手に決めやがって。
「……そうかよ」
スマホをポケットへ戻す
「もういい。潰せ」
三人がまた動き出し、俺を囲んで逃げ道を塞ぐ
――分かってる。
このまま耐えてればいい。殴られて、馬鹿にされて、時間が来るまで逃げ回る。
それが一番確実だ。
そんなことは分かってる……のに。
『夜坂相手の取引を、まともな取引だと思ってたのか?』
『優しくしてあげたのに』
「…………あー」
やっぱ無理だ。
それからもしばらく攻撃を凌ぎ、ようやく距離を取ってスマホを見る
残り六分。
このまま逃げ回ってれば、それで勝てる。
でも――
それじゃ俺が納得しねぇ。
「……やめだ」
「……あ?」
大柄な男が眉をひそめる
アレが来るまで、あと六分。
だったら、その六分をただ耐えるためだけに使う気はねぇ。
一歩。
今度は、俺から前へ出る
「……こっちから行く」
「はっ、散々逃げ回っといて今さら何言ってんだ……お前ら、やれ」
「了解」
三人とも、もう俺を警戒してない。
だから次に何をしてくるかも読める。
オモテが床を蹴り、その少し後からウラも動いた
「ほら、もう終わりだ!!」
鉄パイプが振り下ろされる
何度も見た。
「お前のはいつも――遅ぇ!!」
待たずにこっちから踏み込み、勢いが乗り切る前に柄を掴む
ガシッ!!
「なっ……!?」
いっっっってぇぇぇぇぇ!!
クソ痛ぇじゃねぇか!!
でも、
「まだ終わってねぇだろ!!」
身体を捻って振り返る
やっぱりだ。
すぐ後ろまでウラが来ている。
「――っ!?」
空いている手を真正面から向ける
「遅延実行!!」
照準の先で、ウラの身体がぴたりと止まった
「……ウラ?」
オモテの顔から笑みが消える
片手では鉄パイプを止め、目の前ではウラが止まっている。
何回、同じの食らったと思ってんだ。
「下がれ」
大柄な男の低い声が割って入る
「でも!」
「連携ごと読まれてんだろ。これ以上入っても邪魔だ」
「…………」
今度はオモテも何も言わなかった
鉄パイプから手を離し、ラグも解除する
動きを取り戻したウラが数歩よろめき、二人とも大柄な男の後ろへ下がった
「あんま調子乗んなよ」
「…………」
「ちょっと動き読めたくらいで、俺に勝てると思ってんのか?」
……全然思ってない。
右手だってまだジンジンしてるし、身体中痛くて仕方ない。
でも、一人なら見られる。
一人なら考えられる。
「二人は手ぇ出すな」
男が腰を落とす
「こいつは俺が潰す」




