千尋と1仏陀と1ベッドの夜
夜は3人でコロッケとすき焼きを食べた。遠慮してたけど一番風呂は平野に入らせて、俺と高槻先輩は皿洗いをした。
「お先にすみません。」
風呂上がりのほかほかした平野がリビングに戻ってきた。
「じゃあ次、高槻先輩入ってください。」
「千尋が先に入れよ。」
あ、こりゃキリないな。主婦の譲り合いに発展しそうだったので、俺は先に風呂に入る事にした。
「じゃあ、お先に。平野は先に寝てていいよ。」
「あ、じゃあ僕ソファで寝させてもらうね。」
「ソファじゃしんどいだろ。俺の部屋で寝ていいよ。ベッド一個しかないから、一緒に寝ることになるけど。」
俺も平野も細いから大丈夫だろ。
「駄目だ。」
「えっ?」
高槻先輩が急に厳しい顔で言った。
「あっ、僕ソファで大丈夫ですから。」
「いやいや。平野はお客さんポジションなんだから。俺がソファで寝るわ。」
「そんなのダメだよ!」
「・・・分かった。平野は俺の部屋で寝ろ。俺がソファで寝る。」
「そっ、そんなことできません!」
高槻先輩の言葉に平野が青くなった。なんだなんだ。男が集まって寝る場所で揉めるとか。
「よし。俺と高槻先輩が一緒に寝て、平野が俺の部屋で寝ればいいじゃん。」
高槻先輩とは同室生活で慣れてるし、その方が平野も気楽だろ。
「「・・・。」」
ーーーん?
平野と高槻先輩がフリーズしてる。
「もしかして、高槻先輩イヤでした?やっぱり俺ソファで・・・」
「いやっ!嫌じゃない。嫌じゃないが・・・。」
「じゃあ、これでベッド問題は解決ね。」
俺は平野を自室に案内して、寝巻き替わりのTシャツとスウェットを持って風呂場に行った。
なんか高槻先輩も平野も、ちょっと赤くなってる気がしたけど・・・。気のせいか。
俺は風呂から上がってリビングに戻った。高槻先輩が1人でソファに座ってテレビを見てた。平野はもう寝たかな。今日はいろいろあったしなぁ。
「ち、千尋・・・。」
「お風呂お先でした。高槻先輩も入ってください。」
冷蔵庫からミネラルウォーターを出しながら言った。ちょうどテレビでアメコミ映画が始まったところだった。
あ。ちょっと見たかった映画だ。俺は水を手にソファに座った。水を飲みながらテレビを見てると視線を感じた。
「高槻先輩?」
隣に座る高槻先輩が俺をじっと見ていた。
「お風呂入らないの?」
ハッとしたように立ち上がって「風呂入ってくる」と、風呂場に歩いてった。
高槻先輩、今日はちょっと変だな。調子悪いのかなぁ。
俺は少し心配に思いつつ、アメコミヒーローが暴れ出した画面を見たのだった。
【高槻視点】
「俺と高槻先輩が一緒に寝て、平野が俺の部屋で寝ればいいじゃん。」
千尋の言葉にフリーズしてしまった。
「もしかして、嫌でした?」
そんな俺に千尋が少し傷付いたような顔で聞いてきた。
「嫌じゃない。嫌じゃないが・・・。」
なんて言えばいいんだろう。千尋こそ嫌じゃないんだろうか。
「これで解決ね。」と笑って、千尋は平野を自室に連れてって、風呂に入った。
俺は自分の頬が熱くなっているのを感じた。
ーーー何でもない。千尋をソファに寝かせる訳にはいかないし。合宿の時の雑魚寝と同じだ。ただ後輩と並んで寝るだけじゃないか。
寝る・・・って表現もどうだろう。
ああ。何を考えてるんだ。俺は複雑な気持ちで、ソファに座って見るともなしにテレビを見た。
風呂から上がった千尋がミネラルウォーターを持って、俺の隣に座ってきた。
・・・少し、甘い匂いがした。
コクコクとミネラルウォーターを飲む横顔をじっと見ていたら、
「お風呂入らないの?」と、千尋が小首をかしげて聞いてきた。
「・・・ッ!」
その顔がめちゃくちゃ可愛かった。
俺は慌てて風呂場に向かった。落ち着け。どうしたというんだ。自分でも、分からない。見慣れた千尋の顔のはずなのに・・・。
俺はシャワールームで頭から水を浴びた。
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シャワーを浴びてさっぱりして、落ち着いた気持ちでリビングに戻った。冷蔵庫から出した水を飲んで一息ついた。
「千尋?」
千尋は映画を見ながらソファで寝てしまったようだ。子供みたいな顔で、すやすやと寝息をたてて。
ーーー起こすのも可哀想だな。
俺は千尋をそっと抱き上げた。華奢な体の心地よい重みに何故だか少し切ない気持ちになる。
自室へ運んで、そっとベッドに横たえた。セミダブルだから2人でも寝れるだろう。
千尋を壁際に寝かせて、電気を消して俺もベッドに入った。千尋は熟睡しているようだ。
カーテン越しにベランダの外灯のほのかな光が千尋の寝顔を薄っすら照らしていた。
なんとなく、その寝顔を見ながら初めて千尋と会った日の事を思い出した。
『有栖川千尋です。父が無理をお願いして、申し訳ありません。ご迷惑かもしれませんが、今日からよろしくお願いします。』
かしこまって深々と頭を下げた。もっと世間知らずな箱入り息子だと思っていたので、意外だなと少し驚いた。
千尋は見た目に反して、気取らず無邪気で、正義感が強くて優しい。この学園でも、他にいないくらいに美形なのに無自覚だ。
時々、無鉄砲で心配になるが・・・。
ーーーもっと頼ってくれるといいのに。
だが、千尋が周りを頼り、この学園の美形連中のように信奉者を従えるような子だったら、こんなにも惹かれなかったかもしれない。
「ん・・・。」
千尋が寝返りをうって、こっちを向いた。また、すやすやと心地よい寝息をたてている。
見慣れた顔だが、やっぱり千尋は綺麗だった。
綺麗なだけじゃない。目覚めて笑えば、その場が明るくなる。
委員長も風紀のみんなも千尋を気に入ってる。生徒会の・・・南方もだろう。
俺は少し眉根を寄せた。南方を庇う千尋を思い出したんだ。まるで、俺は悪役だったな。
「ん~・・・。」
むにゃむにゃ言いながら、千尋がふと目を開いた。やましい事など無いが不覚にもどきりとしてしまう。
「・・・っ。」
寝ぼけた顔で俺を見て、人差し指を俺の眉間に当てた。
「シワ、とれなくなっちゃいますよぉ・・・」
そう言って、グリグリと指で押した。
「ち・・千尋?」
千尋の手がぽふりとシーツの上に落ちた。また穏やかな寝息が聞こえる。
ーーー寝ぼけたのか?
俺は声を出さないようにして笑った。
千尋といると楽しい。いつだって予測不可能だ。
守りたいと思うのに、腕の中に納まってはくれない。心配したり、笑ったり、ふいにドキリとさせられたり・・・。
千尋と一緒に過ごせて良かった。
「おやすみ・・・千尋。」
眠る千尋の頬をそっと撫でて、俺も目を閉じた。




