千尋と平野と高槻先輩
俺と高槻先輩が風紀室に着いた時、平野は青い顔でうずくまるようにしてソファに座っていた。
西宮副委員長と中津先輩が心配げに宥めていた。
「あっ!有栖川くん!!」
俺を見て平野がソファから飛び上がるように立ち上がって俺の側に駆け寄った。
「大丈夫!?何もされてない!?」
泣きそうな平野に「おう。返り討ちにしてやったぜ。」と、ニカッと笑って言った。平野の目から、ボロッと大粒の涙が溢れた。
「・・・ごっ、ごめんね。僕・・逃げちゃって・・」
「いやいや。平野は逃げてないだろ。委員長達を呼んでくれたじゃん。」
平野の涙は止まらなかった。
「・・ごめっ・・ごめ・・なさい・・ひっく。」
ああ、もう。
俺は平野のほっぺたをつまんでビローンと横に伸ばした。
「・・・あ、ありゅしゅがわふん?」
「平野も無事。俺も無事。変態は委員長が放り投げた。問題ない!いいな?」
「・・・ふぁい。」
平野、ほっぺた柔らかいな。意外とよく伸びるよ。ほっぺた。ハムスターみたいだ。
俺はちょっと面白くなって、平野のほっぺをみょんみょん伸ばしてたら「有栖川、そろそろ離そうか?」と、西宮副委員長にそっと止められた。
いかんいかん。俺は平野のほっぺたから手を離した。
ガチャリとドアが開いて、変態を反省部屋に放り込んできた委員長が戻ってきた。
大股に歩いて、どかりと委員長の椅子に座った。
「で、何があったんだ?」
「あ・・あの、僕・・・。」
「委員長。昼飯の後じゃ駄目?」
お腹空いたし、平野の顔はまだ青いし。何か食べて落ち着いた方がいい。
「お前なぁ・・・。」
呆れ声の委員長に
「今日、委員長のリクエストの肉じゃが作ってきたし。」
「よし!飯にしよう。」
高槻先輩がジト目で委員長を見ていたが、構わず昼飯タイムになった。
平野はお弁当買いそびれてたんだけど、委員長のコロッケと俺の肉じゃがと風紀の面々からのおすそ分けで中々の量になった。
「あ、ありがとうございます。」
「食え食え。ここのコロッケ上手いんだよ。」
定番コロッケの他にカレーコロッケとかぼちゃコロッケとコーンクリームコロッケだ。コロッケサンドまで買ってる。
委員長、コロッケ買いすぎだろ。肉じゃがとコロッケでジャガイモ被ってるし。しかし、美味そうだ。
「委員長、俺も貰っていい?コーンクリーム。」
「おう。食え食え。」
「いただきまーす。」
美味っ!なにこれ。濃厚でとろとろだ。すんげー美味い。
「委員長!なにこのコロッケ、めっちゃ美味しい!」
「だろ?」
委員長が得意げにニヤッと笑って言った。余ったら持って帰って晩御飯にするつもりでたくさん買ったらしい。
「あっ・・・。」
「どうした?平野。」
「あの。他のクラスの一年の子が、有栖川くんがこのコロッケ買いに行ったから、裏庭の天使像の所で待ち合わせようって伝えに来たんです。」
「俺は伝言なんて頼んでない。このコロッケがこんなに美味しいことも今日知ったし。」
「どんな生徒だった?」委員長が平野に聞いた。
「・・・えっと、背は僕と変わらないくらいで、髪も黒くて、普通な感じ。知らない子だったけど、ネクタイの色で一年だって分かったんです。」
「・・・目立たないモブキャラ使ったって訳か。」
「一年生じゃないでしょうね。」西宮副委員長が言った。
「えっ?」
「あの天使像の辺りって、手入れされてないし。ちょっと薄暗いから、あそこで飯食う生徒も少ないしね~。ちなみにヤブ蚊もいるしね。」と、中津先輩。
「・・・計画的だな。」と、高槻先輩。
ーーー計画的って・・・あ!
「俺、ホスト教師に呼び出されて・・・」
「ホスト教師?」
「あ、要先生ね。理科準備室に連れてかれて、俺が高槻先輩の事を好きで死ぬ程悩んでるって聞いたから相談にのってやるって・・・」
ここまで話したところで、高槻先輩が盛大にお茶を噴いた。
高槻先輩がめちゃくちゃむせてる。驚きすぎだ。ああ、でも同室の後輩がホモかもって、びっくりするか。
「・・・ゲホッゲホッ!・・ち・す・って・・ゲホッ!」
「高槻先輩!大丈夫ですか!?デマですよ。デマ!」
「デマ?」と、委員長。
「はい。要先生の学校のパソコンに、俺が高槻先輩のこと好きで悩んでるから相談にのってあげてほしいって匿名メールもらったって。」
「・・・平野君から遠ざける為か。」と、西宮副委員長。
「高槻先輩。俺ホモじゃないから大丈夫ですよ。」と言って、ニカッと笑った。
高槻先輩は、なんか複雑な表情をしていた。委員長はジト目でこっちを見てる。
「計画的だし、手慣れてるな。どっかの親衛隊が絡んでるだろ。」
委員長の言葉に平野の顔色が青くなった。
「生徒会の誰かの親衛隊ってこと?」と、俺が聞くと
「多分な。ちょっとした嫌がらせのつもりだろうし、計画した奴に繋がるような証拠も出てこねぇだろうな。」
「はぁ!?ちょっとした嫌がらせって・・・」
「有栖川を足止めしたとしても昼休みだし、平野が来ない事に風紀の誰かが怪しむ。未遂に終わるよう計算してるはず。本気なら誰も邪魔が入らないように計画しているでしょう。」と、西宮副委員長がこぼれたお茶を布巾で拭きながら言った。
「脅しっしょ。風紀味方につけて、いい気になってんじゃねーぞって。」と、中津先輩が不機嫌そうに言った。
「その気になれば風紀を無視できるという事だろう。」と、高槻先輩が低く言った。
なにそれ!そんなに陰湿なのかよ。最近の高校生は!?
「・・・とりあえず、飯食ったらもう一度詳しく聞かせろ。で、今日は早退しろ。」
「・・・。」
平野は食欲が無くなったみたいで、委員長がコロッケを持って帰るように包んでくれた。
俺と平野から聞いた内容を書面にして、あとは風紀に任せろって言われた。
高槻先輩に送ってもらって寮へ帰る。
「あ。平野、今日は俺の部屋に泊まったら?」
「えっ?」
「いいですよね?高槻先輩。」
「まぁ、構わないが。」
なんか、このまま帰すのも心配だしなぁ。
「迷惑じゃ・・・。」
「別に?じゃあ、今日はすき焼きにしよう!高槻先輩、コンビニ寄ってきましょ。」
「ああ。いいよ。」
俺の言葉に高槻先輩が笑って答えた。
平野がお泊まりセットを取ってくる間、俺と高槻先輩は一階のエントランスで待っていた。
「千尋。今回は未遂で済んだが、今度からは無茶はするな。」
おっと、1仏陀のお説教再開だ。
「大丈夫ですって。」
「千尋。」
高槻先輩に両肩を掴まれた。
「・・・心配なんだ。必ず俺か風紀の誰かを呼ぶと約束してくれ。お前に何かあったら・・・俺は耐えられない。」
静かな声で言われ、真摯な眼差しで見つめられた。
「高槻先輩・・・。」
高槻先輩が両手で俺の頬をそっと包んだ。
「無茶はしないと約束してくれ。」
・・・ああ、本気で心配かけちゃったんだ。シャイニングウィザードが綺麗に決まって、ちょっと調子にのっていた俺は反省した。
「・・・はい。ごめんなさい。高槻先輩。」
「千尋・・・。」
「・・・あの。」
お泊まりセットを取ってきた平野が気まずそうに声をかけてきた。
高槻先輩が俺の頬から、そっと手を離した。
「行こうか。」
「はい。」
平野を連れて、俺の部屋のある寮まで歩いた。
高槻先輩は学校へ戻っていった。俺と平野は部屋着に着替えて、リビングで映画でも見てウダウダする事にした。
「あの、さっき・・・邪魔しちゃってごめんね。」
平野が申し訳なさそうに言った。
「なにが?」
「えっと・・・有栖川くんと高槻先輩って・・・付き合ってるの?」
「はぁあ!?」
なんでそうなる!?平野よ。お前も園田なのか!?
「付き合ってなんかないって!俺、ホモじゃねぇし!」
「そうなの?」
「俺はギャルが好きだし。」
ホスト教師といい、平野といい、俺と高槻先輩はおホモだちに見えるのか?
「平野はどんな女の子がタイプ?」
「えっと、やっぱり優しい子かなぁ。」
「あ~、分かる。好きそう。」
「そう?有栖川くんがギャル好きって意外だよ。」
「そうか?ちょっとワガママなギャルって可愛いじゃん。ヒョウ柄の下着とか、めっちゃ可愛い。」
「・・・。」
平野は苦笑いだ。いいんだ。この反応には山田時代から慣れてる。
平野もリラックスしてきたみたいで良かった。
そんなこんなで俺と平野は、ウダウダやって午後を過ごした。




