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星粒のリテラエⅡ からっぽの魔女は想いを注がれる  作者: はなちゃん
第三章 野良王子ソラリスと、てんやわんやな旅
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第47話 エンジュを待ちながら

「よし、お掃除終わり!」


 私たちは山小屋を発つことにした。今日は神殿でナナリエと待ち合わせる日だ。ソラリスが見せてくれると言った、夜間に飛ぶキノコの胞子を観察できなかったのは少し残念。でも、ナナリエに会えると思うと、私の足取りは軽かった。


「どこ行くんだよ。こっち」

 ソラリスが道じゃない方を指差した。


「参拝道はこっちでしょ」

「エンジュには少し遅れるって言っといた。ほら行くぞ」

「予定を変えるなら事前に相談してよ」


 勝手なやつだ。ヨルカの保護者みたいな立場を引き受けておいて、ヨルカに甘えてるし。引受人の自覚がないんじゃないの?

 呆れる私を放置して、ソラリスは待ちきれないみたいに走り出した。樹々の間を抜けて、河原の方へ走っていく。また釣りでもするつもりだろうか。


「もう来てる!」

 ソラリスの歓声が聞こえた。森の中の日陰から明るい場所に出ると、眩しさで視界が白くなった。


 眩しい。


 黄金色の硬そうな髪のソラリスと、白金の柔らかい髪を一つに結んだハルジオンが笑い合っていた。

 なんでハルジオン?


「もう完成じゃねえか。いつからやってたんだよ! 呼べよ!」

「無心で石を積むのも悪くない。結果が可視化される作業は気分転換には最適だ」


 最適解王子ハルジオンの足元には、かまどが組み立てられていた。河原から大きめの石を集めて作ったらしい。隙間には小石も挟んで頑丈そうだ。ハルジオン、こういうのこだわりそうだもんなあ。


 いや、でもさ。


「ソラリス、予定を変えるなら教えてよ。いつハルジオンに声かけたの?」

「なんだ、ソラリス。アンリに伝えてなかったのか」

 ハルジオンが肩をすくめた。


「別にいいだろ。ちょっと遊んでくだけなんだから」

 悪びれる様子もないソラリスに、私のこれまでの不満が刺激された。


「ハルジオン!」

「……何なんだ君は。唐突に大声を出すのは相変わらずだな」

 ハルジオンは肩をびくっと縮ませたあとに、私を睨みつけた。


「ソラリスは引受人としての自覚がないと思うよ。相談もなく予定を決めるし、異性との距離感をわかっていないし、ヨルカに膝枕してもらってた!」


「ハルジオンに告げ口すんなよ!」

「目の前で言ってるんだから告げ口じゃないでしょ。報告、連絡、相談、だよ!」


 黙って聞いていたハルジオンが、澄ました顔で私を見た。


「想定通りだ。言っただろう。ソラリスを頼んだぞ、と」

「えっ」


「君が出歩くためには実績のある監督者が必要だった。だが、それは司法と社会を納得させる条件であって、君自身は保護されるだけの人間ではないだろう?」


 なにそれ、保護に値しないってこと!?


「……また極端な解釈をしてるだろう」

 ハルジオンの呆れ顔。まるで心の中を見抜かれているようだ。


「君の判断でソラリスを指導しろと言っている」

「いやいや。『ソラリスを頼んだぞ』だけじゃわからないよ」


「わかっていなかったか。これは取引だ。好条件を整えてやったのだから、君もそれなりの働きを見せてもらおう。ただで自由が手に入ると思うな」

 相変わらず、短い指示で相手が理解できたと決めつける人だな。


「待てよ! 何勝手に俺のこと決めてんだよ! 指導なんて必要ないんだよ!」

 ソラリスが地団駄を踏んでいる。


「……ハルジオン、ずいぶん私のこと買ってるじゃん」

 以前はナナリエのことも任されたし。いったい私の何を評価してるんだ、この人は。


 ハルジオンは端正な顔で怪しく微笑んだ。


「当然だ。使えるものは使う。配置は常に最適だ」


 はあー。こういうとこ、本当にハルジオンだなあ。


「もういいだろ。火を起こそうぜ」

 ソラリスがリュックを下ろした。ずいぶんご機嫌ナナメだ。仕方あるまい。


「エンジュは待たないのか」

「来れないだろ」


 ソラリスの青い目に見上げられて、ハルジオンは眉をひそめた。


「いや、あいつは来るぞ」

「なんでわかるんだよ」


 ハルジオンは口元を手で覆って目を伏せた。その隙間から、少し上がった口角が垣間見えた。


「エンジュに聞いたの?」


 喧嘩終わったのかな。あんなに仲良しだったのに、かれこれ一ヶ月は膠着状態だ。

 ハルジオンは、不機嫌そうに薄っすら目を開いた。


「いや……」

「じゃあナナリエ?」


 琥珀色の目が今度こそ見開かれた。いつも他人に表情を読ませないハルジオンにしては、ずいぶん素直だ。


「ナナリエと連絡取ってるんだねー」

「……私を観察するな」


「エンジュとは、まだ喧嘩してるの?」


 ハルジオンは口元を隠していた手を下ろし、拳を軽く握りしめた。


「あいつが何も話さないからだ。呑気な顔して一人で抱え込む」


 しゃがんでいたソラリスが、火起こしの手を止めて顔を上げた。火吹き棒で空気を送っていたらしい。大変そう。


「エンジュは言わねえって決めたら絶対言わねえぞ。頑固だからな」


 ハルジオンはドライヤーみたいなものを手に腰を落とした。それを見て、ソラリスが呆れた声を出した。


「何だよ。送風機使うなんて味気ないな」

「君はそれでいいのか」


「これで火が点くんだからいいんだよ」

「そっちじゃない。エンジュだ」


 ソラリスは地面に腰を下ろして背後に手をついた。身体からも表情からも適度に力が抜けている。


「俺だって腹は立った。でも話す気がないのに、無理に抉《こ》じ開けるのは違うだろ」


 火吹き棒を杖のように構えて、ソラリスはハルジオンを見据えた。


「何を抱えてんのかは知らねえけど、エンジュはエンジュだ。見えたまま信じればいい」


 ハルジオンは火吹き棒を持つソラリスの手をそっと払い、うなずく。


「理解した。だが、私は自力でエンジュが見ているものに辿り着くつもりだ」

「がんばるなあ」


 ソラリスは再び火に向き直る。息が届くたびに炭に赤みが増していた。その明かりを睨みつけ、ハルジオンは噛み締めるように言った。


「おそらく国家の在り方に関わることだろうからな」


 ずいぶん重い推測だ。ハルジオンなりの根拠と、二人の間の信頼の積み重ねがあるんだろうけど。ソラリスは火起こしに夢中になっている。私は一人、ハルジオンへ目を向けた。


 ハルジオンの視線が上空を捉えた。


「……来たぞ」


 何が?

 私は視線の先を追った。


 良く晴れた空。


 青々と茂る夏の森を越えて、二つの人影が飛んできた。


 え、人影……?


 目を凝らしてよーく見た。


 風を切る、緑色の三つ編みと、虹色のポニーテール。


 二人が波に乗っていた。


「お待たせ〜」

 若葉色の衣をはためかせながら呑気に笑うエンジュ。

 普段の装いと異なり、タイトなパンツスタイルのナナリエ。


 二人がサーフボードのようなものを乗りこなして、空を飛んでいた。


 こんな危険な乗り物、あり得るわけ!?

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