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星粒のリテラエⅡ からっぽの魔女は想いを注がれる  作者: はなちゃん
第二章 守り方はひとつじゃない
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第26話 俺の両親に会ってくれ

 ソラリスとナナリエはまだ睨み合っていた。

 私はどちらの味方にもつけずに困惑していた。


「はいはい。ナナリエもアンリも甘いものでも食べなさい」


 ヒヤシンス様が私たちの前に三角形のパイを置いた。

 ひと口かじると、蜂蜜のような甘さが広がった。甘いものを食べたナナリエは少しだけ頬を緩ませた。


 だけどテーブルの反対側では、ソラリスが納得いかない顔をしたままだった。

 その肩をハルジオンが叩いた。


「……ソラリス」

「なに?」


 ハルジオンは一度深く頷いた。妙に意を決したような表情をしている。


「今度、俺の両親にも会ってくれ」


 俺の両親に会ってくれ……!?


 ハルジオンの表情は、冗談を言っているようには見えない。ソラリスは青い瞳でじっとハルジオンを見つめた。


「ハルジオンの?いいけどなんで?」

 ハルジオンは少しだけ考えて、爽やかに笑った。

「友達だからだ」


 ソラリスは一瞬目を丸くしたけど、くしゃっとした笑顔に戻った。


「そっか。いいぜ!」

「友達同士の約束だからな。違えるなよ」

「おう!」


 ソラリスは眩しい笑顔で返事をした。ハルジオンの表情にも、満足そうな笑みが浮かんでいる。


 ……ハルジオンの両親。

 それって、現在の双王陛下では……?そこ、意図的に伏せたな?


 ちらりとハルジオンをうかがうと、目が合った。


 ——わかるな?


 琥珀の瞳が有無を言わさぬ圧を放っていた。またこの、他人に忖度させる、やけに主張する目だよ。

 この前は、裏で画策していたことがソラリスにばれて、「お前の思い通りにはならねえ」って突っぱねられた。それで「今度は正面から行く」って宣言していたのに。


「正面からって、そこなんだ……」

「そうなっちゃうんだねえ」

 私は困惑しているっていうのに、エンジュは肩を震わせて笑っていた。


 

 お皿はすっかり空になり、お腹はしっかり満たされた。

 みんな、ひと息ついたとき。


「エンジュ、お茶」

 ナナリエが慣れた口調で斜め向かいのエンジュに言った。


「はいはい」

 エンジュも当たり前のように答える。

「お前、エンジュを使いすぎだろ」

 ソラリスが不満そうにナナリエを睨む。


 あ、また言い合いになりそう?


「いいんだ」

 きっぱり答えたのはエンジュじゃなくてロタラだった。


「エンジュは普段、神職たちを顎で使ってわがままな振る舞いをしている。ナナリエにかしずいて尽くしても、まだお釣りが来るだろう」

「顎では使ってないと思うんだけどなあ」

 エンジュが首を傾げた。


「だが、ナナリエ」


 ロタラは一度咳払いをして、頭の中で文章を組み立てるように間を置いた。

 それから立ち上がり、オレンジ色の前髪を掻き上げた。長身に、彫刻のような顔立ち。ナナリエだけを真っ直ぐに見つめる姿は、この国で会ったどの王子よりも王子様らしい。


 ……王女だけど。


「目の前に、もう一人いるじゃないか。君のために地を這ってでも、泥水を啜ってでも、お茶を用意できる者が」


 白い歯がきらりと光った。

 ナナリエは宝石のように輝く瞳でロタラを見つめ、そして静かに答えた。


「……泥水で淹れたお茶は飲みたくないわ」


「何か間違えたか?」

 ロタラは一点の曇りもない目でエンジュに尋ねた。

「うーん。敗因は——」

「敗因は!?」

「いつものロタラで勝負しなかったからじゃない?ちなみに、お茶ならここにあるよ」

 エンジュがカップを置き、ポットからお茶を注いだ。


「ありがとう、エンジュ」

「どういたしまして」

 ナナリエが微笑むと、エンジュは口元を綻ばせた。


 ロタラは取り返しのつかない失敗をしたような顔で、力なく椅子へ座り直した。そこまで本気だったんだ。

 

 ……さっきのハルジオンといい、正面から行こうとすると、どうしてみんな少しずつ方向を間違えるんだろう。


 いつも通りのゆったりした手つきで、エンジュがみんなに食後のお茶を配った。

 透明なカップの中で、鮮やかな青のお茶が湯気を立てている。


 この色、知ってる。

 以前、染色家のニゲラさんが居酒屋で作ってくれたカクテルと同じ色だ。私のはアルコール抜きだったけど。柑橘類を絞ると色が変わって、一緒に眺めていたナナリエが「酸性化で色が変わったのね」と解説してくれた。今日は柑橘類ではなくて、シロップが添えられている。


 それにしても、サファイア宮だから青いお茶なんだろうか。これまで飲んだお茶は、地域ごとに色が違っていた。


 ……などと考えながらお茶を眺めていると、ロタラが真面目な顔で戦況報告のように告げた。


「そういえば、モナルダがハルジオンを殴りに行こうとしていたぞ」


 食卓に沈黙が落ちた。

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