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星粒のリテラエⅡ からっぽの魔女は想いを注がれる  作者: はなちゃん
第一章 私はこの国に検証される
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第17話 アンリ、正式に魔女になる?——審理・判決

 澄み切った青い瞳が、私を待っていた。


 目元の皺をさらに深く刻んで、オタクサ主任審理官が微笑んだ。


「では、ひとつだけ」


 私はどこを見たらいいのかわからなくて、オタクサ主任審理官を真っ直ぐに見上げた。

 彼女は「なんでも聞きますよ」と穏やかな目で笑っている。


「私はこの機能について、今日みなさんが検証してくださった以上のことは知りません。危なくないとも断言できません。でも危ないかどうかも含めて、この機能を、私自身も知っていきたいです。あと……この国のことも」


 私は一度深呼吸をした。


「この国のことも知り始めたばかりです。でも、みなさんが、わからないことを、わからないからってそのまま怖がるんじゃなくて……ちゃんと考えようとしていることは、少しわかりました」


 わからないことも多いけど、この国が好きだ。

 この国が、私のことをどう思うのかはわからないけど。


「だから私も自分のことをちゃんと知りたいです。この国のことも、自分の目で見て回りたいと思っています。決められた制限は受け入れます。だけど許されるなら、この国を知る機会をもらえたら、私はとても嬉しいです」


「よくわかりました」


 オタクサ主任審理官は澄んだ青い瞳でしっかりと私を見た。


「審理員による協議後、判決をお伝えします」


 オタクサ主任審理官と二人の審理員はいったん席を外した。


 みんなはその場で待機だ。


 セアノサス様は顎をつまんだ姿勢で何かを考えている。


 傍聴席では無表情のハルジオンと笑顔のボリジさんが、私を見て頷いていた。


 しばらくして戻ってきた三人の審理員が静かに告げた。



 一、アンリによる情報消失は事実と認める。

 二、ただし、故意による破壊行為とは認定しない。

 三、消失範囲は接続条件に依存し、無差別な拡散性は確認されない。

 四、現時点で身柄拘束を継続する法的根拠はない。

 五、引受人の監督下で、アンリの自由移動を認める。

 六、ただし、重要記録・通信中枢・王統記録への接近は許可制とする。

 七、接続実験は瑠璃宮・琥珀宮・サファイア宮立ち会いのもとで行う。

 八、身体年齢に応じて各地の学校へ通う権利を認める。

 九、噂による私的拘束・排斥・接触妨害を禁じる。



 え?


 九番目の内容って……。


 私への制限じゃなくて、憶測で私を排除するなっていう、国中の人たちへの制限だ。


 ハルジオンが狙っていたのは、これ……?


 思わずハルジオンを見た。


 その口元がわずかに笑っている。


 これは、勝ったのか……?



 あまり実感が湧かずにキョロキョロしていると、低く滑らかな声が響いた。


「ところで彼女が暫定的に名乗っている“魔女”ですが」


 セアノサス様がふと思い出したかのように、手を挙げた。


「現在では使われなくなった呼称ですが、古くは、特定の宮に属さず各地を巡り、さまざまな知識と見聞を集め、それをもって王族に助言する者を指した言葉です」


 そう。


 ナナリエに以前、質問したことがある。物事の吉凶や未来の行末を判断するような怪しい職業はないのか、もしくはかつて存在しなかったのかと。


 それは古い街角で、通り過ぎる子どもに“マジョ”と呼びかけられたから。

 “マジョ”は森に住む肌が緑色の特殊な種族だということはわかったけど、私が知る“魔女”はなんていう言葉なのか知りたくなって質問したんだ。


 そして、たしかに“魔女”を表す言葉があった。


 だからハルジオンとエンジュに尋問された時、思わずその名前を名乗ってしまった。


『外からこの国を観察する不審人物の称号、ということにしましょう。私は暫定的に、魔女です』


 あのとき、そう名乗ってしまった——


「今の彼女にぴったりではないでしょうか」


 セアノサス様は穏やかに微笑んでいる。

 オタクサ主任審理官が意表を突かれたように質問を投げかけた。


「役職として復活させ、その職名を正式な姓として付与する、ということでしょうか」


「ええ。私に姓を与える権限はありませんので、あくまで推薦するにとどまりますが」


 姓?


 急に何の話が始まったんだ?


 慌てて傍聴席を見た。


 最前列ではスヴェロギ・ハルジオンが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしており、その隣でシジマ・ボリジが手元の端末で何やら調べ「あ、あった!」みたいな顔でハルジオンに何かを見せていた。


「古称とはいえ、法令上廃止された役職ではありません。本人が望むのであれば、異論はありません」


 シジマ・オタクサ主任審理官は、ユニワ・セアノサス瑠璃宮当主に静かに同意し、私の正面の席ではいかつい顔のミクマリ・サフルール局長が重く頷き、ライラ・ペリラ統括官も「へえ」と言いたげな顔で私を見ていた。


 なんか、みんな納得している。


 でも、姓にするのはちょっと。


 たしかに“魔女”を自称したのは私だけど。


 でも……。


「ビンボー・アンリ」


 オタクサ主任審理官が高らかに告げた。


 ああ。


 この国で“魔女”を表す発音は“ビンボー”なんだよな。


「国家の正式な役職任命および姓の付与は議会の承認を経て、双王陛下から賜るものです」


 ビンボー・アンリ。


 名前と並べると急に嫌な気持ちになる言葉だ。


「本審理の調書には瑠璃宮当主様より推薦があったこと、議会での審議にかけることを記録します」


 議会で審議するの?


 ビンボー・アンリを?


「あ、あの……そんな私のためにわざわざ議会で話し合いなんて……」


「慎み深いのは良いことですが、心配はいりません。通らない時は通りませんから」


 法廷の中はゆるやかな空気に包まれ、みんな和やかに談笑していた。


 けれど、私の心の中は今まさに、混沌としたものが渦巻いていた。


 お願い!通りませんように!

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