全属性魔法の無力、あるいは唯一の逃げ道
お読みいただきありがとうございます。
第3話は、世界そのものと化したストーカーに包囲されたライトが、最強のチート魔法を解放します。
異次元の魔力と、底なしの執着。二つの「最強」が激突する絶望の戦いをどうぞ。
「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなァァァ!!」
俺の絶叫が荒野に響き渡る。
城壁を埋め尽くす数千人の群衆――そのすべてが、前世で俺を刺し殺したあの女の目で俺を見つめ、全く同じ料理ナイフを月光に煌めかせている。
「「「どうしてそんなに怒るの、ライトくん。私たちはただ、今度こそ永遠に一緒になりたいだけなのに」」」
数千人の声が重なり、鼓膜を震わせる。おぞましい重低音のハーモニー。
恐怖で狂いそうになる脳を、神から与えられた圧倒的なチート魔力で無理やり覚醒させた。
これだけの魔力があれば、たとえ一国が相手だろうと、すべてを灰にできる。世界が敵なら、世界ごと焼き尽くしてやればいい!
「死ね! 全員まとめて消え失せろ!!」
両手を天に掲げ、火属性の極致――『終末の業火』を発動した。
夜空が真っ赤に染まり、隕石のごとき巨大な火球が、王都の城壁ごと数千の群衆へ向かって降り注ぐ。凄まじい大爆発。大地が激しく揺れ、城壁は粉々に砕け散り、荒野一帯が地獄の炎で包まれた。
ハァ、ハァ、ハァ……と荒い息を吐きながら、俺は炎の海を見つめる。
いかに恐ろしい精神寄生魔法だろうと、肉体そのものを消滅させてしまえば終わりだ。勝った。俺のチート魔法の勝ちだ。
けれど、炎の向こうから、一人の男が足を引きずりながら歩いてきた。
衣服は焼け焦げ、皮膚はただれ、血を流している。それは、俺の『終末の業火』を喰らって、かろうじて生き残った一般の兵士だった。
いや、一人ではない。
二人、三人、十人、百人――。
全身を炎に包まれ、炭化しかけた肉体を引きずりながら、おぞましい数の人間たちが、ボロボロと肉を落としながらこちらへ歩いてくる。
彼らの肉体は限界を迎えている。けれど、その目は、まだ生きている。
「「「痛いよ、ライトくん。でも、このくらいじゃ私は死なないよ。この国の人間が全員死んでも、隣の国の人間に移るだけだもん」」」
喉が焼け焦げた彼らの口から、ヒューヒューという風鳴りのような声が漏れる。
その瞬間、俺は本当の絶望を理解した。
あいつの魔法は、人間を操っているのではない。
この世界に存在する全ての『魂』の隙間に、あの女の執念が、水のように染み込んでいるんだ。どれだけ肉体を破壊しようと、世界から人類が一人残らず消滅しない限り、あいつを殺すことはできない。
ず、じり、とゾンビのように距離を縮めてくる、かつて俺を慕ってくれたミーシャだったもの、セリアだったもの、ルナだったもの、そして街の住人たち。
「あ……ああ……」
腰が抜け、地面にへたり込む。
世界最強の魔力を持った俺。けれど、その力のすべてが、あいつの底なしの執着の前では、ただの無力な火遊びに過ぎなかった。
「「「さあ、おうちに帰ろう? ライトくん」」」
数千の焼け焦げた手が、一斉に俺の足元へと伸びてくる。
その冷たい指先が俺の足首に触れた瞬間、俺は絶叫しながら、腰の剣を自分の喉元へと突き立てた。
(死んでやる……! もう一度死んで、別の世界へ逃げてやる……!!)
ドクン、と凄まじい衝撃とともに、俺の視界は真っ赤に染まり、やがて完全な闇へと落ちていった。
第3話をお読みいただきありがとうございました。
どれだけ肉体を破壊しても終わらない、ストーカーの寄生魔法の真の恐ろしさはいかがでしたでしょうか。
次回の第4話は、最悪の結末を避けるために「自らの命を絶つ」という究極の選択をしたライトの、その後の物語です。
果たして彼は、あの女のいない世界へと逃げ切ることができたのか。
それでは、第4話でお会いしましょう。




