神様の部屋、あるいは鳥籠の底
お読みいただきありがとうございます。
『異世界ハーレム無双をしていたら、前世のストーカーも付いてきていた』、いよいよ最終回です。
もう一度死んで別の世界へ逃げようとしたライト。
彼が目を覚ました先で待ち受ける、あまりにも残酷な「答え合わせ」をどうぞ最後まで見届けてください。
――ハッと息を吹き返した。
冷たい感覚。喉を貫いたはずの剣の痛みはない。
視界を開けると、そこは荒野でも王都でもなかった。一面が果てしなく白い、幾何学的な模様が浮かぶ奇妙な空間。
「ここは……。俺は、死んで別の世界へ転生できたのか……?」
周囲を見渡すと、見覚えのある巨大な机と、そこに腰掛ける白髪の老人がいた。
間違いない。前世の日本で死んだ俺に、『全属性魔法チート』とイケメンの肉体を与えて異世界へと送り出してくれた、あの神様だ。
「神様! 助けてくれ! あの世界はバグってる! 俺のハーレムも、街の人間の魂も、全部前世のストーカーに乗っ取られて――」
俺はすがるように机に駆け寄った。
しかし、神様は書類に目を落としたまま、ピクリとも動かない。まるで精巧に作られた人形のように、ただそこに佇んでいる。
「神様……?」
不穏な沈黙。その時、老人の白い衣服の隙間から、ぷんとあの匂いが漂った。
安っぽい、薔薇の香水の匂い。
嘘だろ。神様まで。
俺が凍りついたように立ち尽くす中、神様がギギギ、と不自然な動きで首を持ち上げた。その瞳には一切の生気がなく、濁ったガラス玉のようだった。
老人の唇が歪に吊り上がり、あの女の声が響く。
「「「残念。神様なら、あなたがルミナスに旅立った直後に、私が美味しくいただいちゃったよ」」」
老人の背中から、無数の黒い触手のような影が噴き出し、空間の白を塗りつぶしていく。
「「「あなたが死んだあと、私もすぐに後を追って自殺したの。そしたらこの部屋にたどり着いてね。神様が『どんな能力が欲しい?』って口を開きかけた瞬間に――私のあなたへの愛が呪いになって、神様の体を内側からドロドロに溶かして乗っ取っちゃった。神様のシステムを奪って、自分で自分に最高のチート能力を授けたの」」」
神様の肉体が泥のように崩れ落ち、その中から、前世のあの女の影がゆっくりと立ち上がる。
「「「私が自分で自分に与えたチートはね、この『転生システムそのものを操る力』。あなたがどんなに死んで逃げようとしても、魂の行き着く先は全部、私の手のひらの上なんだよ」」」
背後の闇が広がり、そこに無数の「異世界」の光球が浮かび上がる。
剣と魔法の世界、SFの世界、モンスターの世界。どれも、ライトが次の転生先として選ぶはずだった、無限の可能性。
けれど、そのすべての光球の内側から、ミーシャの、セリアの、ルナの、そしてあの女の顔が、にちゃあと歪んだ笑みを浮かべてこちらを覗き込んでいた。
「「「さあ、次はどんな世界がいい? ライトくん。何回死んでも、何回生まれ変わっても、そこには私がいるよ。だって、全部私が作った世界(鳥籠)なんだから」」」
無限に続く転生の輪廻。そのすべてが、あいつの愛という名の監獄。
俺は最強の魔法を持ったまま、永遠に出口のない絶望の底へと、ゆっくりと沈んでいくのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
神様から授かった最強のチート能力。しかし、ストーカーの女が手に入れたのは「神の転生システムそのものを乗っ取る」という最悪のチートでした。何回死んで生まれ変わっても、行き着く先はすべて彼女の鳥籠の中という、出口のない無限輪廻の結末でした。
王道ファンタジーの皮を被った、世界そのものに愛される(?)絶望のホラー、楽しんでいただけたなら幸いです。
また別の作品、あるいはライトの終わらない次の世界でお会いしましょう。




