第7話 ニワトリ
タワー暦1199年 11/18 | ミナト・レンの事業所
事業所は、看板がなければ倉庫だった。
入口に積まれた箱には、部品、薬品、衣服、返送という文字があった。荷物の種類と移動の方向が、同じ棚で分類されている。タツオには、まずそこを整理したくなった。
「触る前に聞けよ」
レンが言った。後ろにも目があるようだった。
契約は二時間単位の記録整理。まず三日試し、作業量を見て続けるか決める。報酬額を示され、タツオは必要な時間を尋ねた。
「君が二時間と言ったんじゃないか」
「二時間で、どこまでできるかを見るんだ」
奥の机に、灰色の上着の人が座っていた。
「ユノです。輸送調整を担当しています」
立ち上がった動作が滑らかだった。人間らしいと思った直後、そう判断した自分に気づいた。
「アンドロイドですか」
「はい。必要な仕様情報は共有できます」
「いえ、別に」
先生なら、もっと穏やかに言い換えただろう。ユノは回答のあとで、すぐ仕事の説明に戻った。
記録は汚くはなかった。ただ、同じ依頼人が複数の呼称で保存され、同じ荷物に違う単位が使われていた。タツオは修正案を出した。
「統合前に元の記録を保存してください」
「もちろん」
「同名の別人がいます。住所だけでも統合しないでください」
「それも、わかっています」
言ったあとで、同じ住所に二人の同名者がいる記録を見つけた。親子でもなく、住居の共同利用者だった。
タツオは候補一覧を作り、確認待ちにした。
途中で、荷物を引き取りに来た女性がレンに苦情を言った。前日の到着連絡が、登録した二つの番号の片方にしか届かなかったという。
タツオは端末を調べた。送信記録は正常だった。指定された第一連絡先へ送っている。
「記録上は、送れています」
彼が言うと、女性はますます不機嫌になった。
「だから、もう一つにも送ってと言ったんです」
レンは前回の備考を探した。自由記入欄に、その依頼が残っていた。定型の設定には反映されていない。
「こちらの確認不足です。次から二つへ送ります」
女性は箱を受け取り、去った。
タツオは備考を一覧に反映する案を出した。ユノは賛成したが、自動で全員の第二連絡先へ送るのはやめてほしいと言った。相手が望んでいない連絡も増えるからだ。
「効率よく直せないんだね」
「何を効率と呼ぶかによります」
先生のような答えだと思った。けれどユノは続けて、実際の依頼を三件並べた。片方は仕事用、片方は家族用、連絡してよい時間帯も違う。
タツオは修正する前に確認が必要な理由を、初めて面倒だという感想以外で理解した。
レンが戻り、女性は毎月同じ部品を取りに来ると教えた。怒ったから終わる関係ではない。来月も、間違えずに渡す仕事がある。
昼前、レンが格納区画へ案内した。
機体の胴体には正式な型式より大きく、ニワトリと書かれていた。電動の双発転換式回転翼機。客室の座席は取り外し可能で、床に固定用の溝が走っている。
「どうして、ニワトリ?」
「前の持ち主がつけた。名前を変える金で、部品を替えた」
「遠くまで飛べないからか」
「よく飛ぶぞ」
レンは言って、胴体を軽く叩いた。
タツオには、古い機体だった。レンには、交換した部品の順番で見えるらしい。一つずつ、ここは去年、ここは来月と指した。
試運転で床が振動した。タツオが足を動かすと、レンが首を振った。
「今のは正常。こっち」
数秒あと、微かな横揺れがあった。
「そこは整備の記録を増やしてる。まだ交換基準内だが、同じ振れでも重さで変わる」
数値を求めると、レンは測定記録を出した。勘だけではなかった。
作業終了時、ユノは報酬の確認を求めた。
「本日の成果は、重複候補の抽出と、単位の照合です。未確定分は未確定のまま引き継ぎます」
「それでは、終わっていない」
「二時間の仕事は終わりました」
タツオは承認した。振り込まれた金額は小さかった。最高評価の印より、ずっと具体的だった。
帰りに食料を買った。今日は、一番上ではない献立を選んだ。




