第6話 答えのある問題
タワー暦1199年 11/17 | ミナト・閲覧所/住居
閲覧所の検索機は、タツオの入力を二度修正した。
古い用語だという注意が出た。新しい呼び方に置き換えると、求めていた論文が一度に二百件以上表示された。
最初の一件を開いた。
知っている式だった。
係数の記号と配列が違う。しかし、導出の途中に現れる変形まで同じだった。タツオは自分の記録を並べ、行を指で追った。
自分が三十七年生のとき、六か月かけて解いた問題。その解法が、生まれる前の日付で公開されていた。
次の課題も、次の課題も見つかった。
先生は発見したと言わなかった。よく到達しました、と言った。タツオは、その言葉を発見の祝福だと思っていた。
古い論文には、失敗した条件も記されていた。タツオはその頁を覚えていた。先生が追加課題として出した条件と同じだった。
当時、彼は夜まで考え、翌朝の食事を急いで済ませた。ミオに何か話しかけられたが、答えなかった。解けた日の嬉しさだけは、今も身体に残っている。胸が軽くなり、廊下を速く歩いた。先生は歩行速度を落とすよう注意してから、よく到達しましたと言った。
あの嬉しさまで、借り物だったのだろうか。
論文の著者名を見た。知らない名前だった。とっくに亡くなっているかもしれない。その人も同じ変形を見つけたとき、嬉しかったのだろうか。
タツオは自分の記録を消そうとして、指を止めた。記録を消しても、使った六か月は戻らない。何より、消したら自分が何を考えたかわからなくなる。
複製を作り、既知の解法と一致、と注記した。無価値、と書きそうになって、そこはやめた。今わかるのは、一致したという事実だけだった。
補正方法の検索結果には、似た着想の資料がいくつかあった。完全には同じでない。どこが違うかを確かめるには、読み込む必要がある。
以前なら、新しい課題だと思って始められた。今日は、また誰かの後を歩くだけだとわかるのが怖かった。
座席の利用延長を尋ねる表示が出た。三時間が過ぎていた。
彼は延長せず、窓口へ行った。
「教育用の資料が、一般公開資料に混じることはありますか」
係員は質問の意味を確かめたあと、当然あると答えた。
「原著から演習を作る場合もあります。元の資料が明示されていませんでしたか」
「参照情報は、先生の管理下でした」
「こちらでは、その運用はわかりません」
わからないと言われることが増えた。誰も、代わりの答えを持つ先生を呼んではくれなかった。
自分の補正方法も検索した。完全に一致するものは見つからない。だが、見つからないのは検索の仕方が悪いだけかもしれなかった。
閲覧所を出ると、応募先から返事が来ていた。
現段階では受け入れ困難。設備の利用目的と検証結果を具体化したうえで、改めて相談してほしい。
不採用という語はなかった。そのことが、いっそう惨めだった。
部屋で研究記録を閉じようとすると、最後の評価が見えた。
独自の工夫が認められる。
どこが独自なのかは書いていない。先生に尋ねることも、今はできない。
タツオは端末を伏せた。食材店で買ったパンが、棚の上で少し硬くなっていた。
食べながら、窓の向こうのタワーを数えた。層ごとの灯の幅は遠くからではわからない。自分の部屋も、先生が待つ廊下も見つからなかった。
レンへ連絡したのは夜になってからだった。
「この前、記録の整理を頼める人がいないと言っていたね」
「言った」
「僕でよければ」
返事まで、少し間があった。
「明日、九時。仕事だから、金は払う」
「手伝いでいい」
「金を払う。できる範囲を決めて、やってもらう」
タツオは、自分が施しを断られたのか、受け取ったのか、わからなかった。
それでも翌日の予定に、九時と書けた。




