↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/18

第2話 配属先

タワー暦1199年 11/02–03 | 第一タワー・説明室/食堂


翌日、審査部門の職員が説明に来た。

 年配に見える女性だった。もっとも、タツオは外見から年齢を判断する訓練を受けていない。彼女の手の甲には、人工皮膚の継ぎ目が細く走っていた。

 職員は、ある飛行経路の図を見せた。

「この場合、承認できますか」

 高度、積載量、風、機体の性能。十分な条件があった。タツオは二十秒ほどで答えた。

「基準内です」

「ええ。ですが、着陸先の設備が交換中なんです」

「それは、この図に記載されていません」

「だから照会します。それも仕事です」

 職員は責める口調ではなかった。むしろ嬉しそうに、端末の別の窓を開いた。設備の責任者へ問い合わせ、回答を保存し、必要なら申請者に修正を求める。そうした仕事を、ひとつずつ説明した。

 説明の途中で、職員の端末に短い通知が入った。彼女は学生たちへ断り、ひと言だけ返答した。

「着陸先の担当者を変えて確認してください。昨日の回答を、今日の回答として使わないで」

 その声は授業の説明より低く、速かった。

「今のも、照会ですか」

 タツオが尋ねると、職員は頷いた。

「昨日は使えた設備が、今日は点検中ということがあります」

「更新されるように仕組みを直せば」

「直しています。それが完成するまで、誰も飛ばさないわけにはいきませんから」

 彼女の目尻に、薄い笑い皺が寄った。皮肉ではなかった。長く同じ質問を受け、長く同じ仕事をしてきた人の答えだった。

 机の上に、実際に使う確認票が配られた。タツオは一番早く記入を終えた。ただし、設備名の略称を解釈する欄で一つ間違えた。似た二つの名称は別施設だった。

 職員は正解を教える前に、どこを見れば照合できるか尋ねた。タツオは一覧を検索し、訂正した。

「採用されれば、このような実習から始めます」

「もう、修了試験は終わっています」

「ええ。ここでは、この職場の仕事を覚えます」

 新しい試験なら解ける。でも、まだ何かを教わり直す必要がある。そのことが、なぜか成績を下げられたように感じられた。

 タツオは画面の隅の時刻を見た。予定より七分長かった。

「新しい経路の提案はできますか」

「できます。ただ、先に申請案件を処理してもらいます」

「研究の時間は」

「契約した勤務の外なら。設備を使う場合は別の申請が必要です」

 職員の説明は明瞭だった。タツオはその明瞭さに、逃げ道をふさがれる感じがした。

 五十年間学んだ先で、画面の項目が揃っているかを確認する。それなら、機械にできるのではないか。

 そう尋ねると、職員は頷いた。

「揃っているかは機械が見ます。何が足りないかを、相手に聞いて確かめる人が要るんです」

 タツオは、配属の説明には納得したと記録した。仕事内容を理解した、という意味の項目だった。希望した、とは書かなかった。

 ミオは説明会のあと、水循環部門への応募を済ませていた。

「もう決めたの?」

「見学してから、正式に契約する。でも、ほぼ」

 昼食のスープをかき混ぜながら彼女は言った。

「興味がある仕事だから?」

「あるわ。ここで暮らしたいし」

「もっと新しいことをしたくない?」

 ミオの手が止まった。

「古い設備でも、毎日違うことが起きるでしょう」

「そういう意味じゃなくて」

「じゃあ、どういう意味?」

 タツオはうまく説明できなかった。彼女は優秀だった。安定した仕事で満足するには惜しい、と言えばよかったのだろうか。しかしその言い方も、何か違うとわかった。

「僕は、研究を続けたい」

「うん。それは知ってる」

 ミオはスープを飲んだ。責められなかったことが、かえって落ち着かなかった。

 午後、タツオは先生に個別面談を申し込んだ。

「僕には、外と中のどちらが適していますか」

「重視する条件を比較しましょう」

 先生は居住、収入、健康管理、研究機会の四つの欄を出した。

「重要度を割り振ってください」

「その重要度は、どう決めますか」

「あなたが望む生活から考えます」

「望む生活が、わからない場合は?」

 先生の目に相当する部分が淡く点滅した。応答に必要な時間は一秒もなかったはずだが、タツオには長く感じられた。

「見学や相談で、具体的な情報を集めることができます」

 正しい答えだった。何をするかを教えてくれている。それなのに、いつもの安心がなかった。

 タツオは四つの欄を見た。数を入れれば計算できる。数を入れるまでが、計算できない。

 面談を終える直前、先生が休息を勧めた。

「睡眠時間が短くなっています。判断には疲労が影響します」

「では、明日になれば決められますか」

「決められるとは限りません」

 初めて聞く種類の答えだった。

 自室へ帰ると、翌日の予定に白い枠があった。自由検討時間、とある。三時間。

 タツオは枠を触った。何も開かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。