第18話 三十一人
タワー暦1199年 11/30 | ミナト〔ハルカと通話〕
通常輸送の停止通知は、翌朝九時に届いた。
内陸側の認可経路が、連続して警戒基準を超えた。解除時刻は未定。公共便は欠航し、地上経路も人員輸送を見合わせる。
タツオはまず、合理的な判断だと思った。
危険があるなら止める。それは航行の基本だった。
サナとの通話で、その判断の先を知った。
「診療所の患者だけじゃない。付き添い、保守の人、家族。今、残っているのは私も含め三十一人」
すでに多くの住民が先行便で退避していた。残った人々の事情は同じではない。医療受け入れの調整が終わらなかった人、家族と別の便になり乗れなかった人、直前まで保守を続けた人。
トマは、道具を置いていく決心がつかず、申込みを遅らせた一人だった。
「あの人も、今は移ると言ってる」
「待機施設は」
「ここ。診療所と隣の共同区画に集まってる」
タツオは設備の持続見込みを求めた。公式の予測では、数日から十日程度の安全維持が可能とされている。支援物資も無人便で届く見込みだった。
「では、すぐには」
「今すぐ全員が倒れるとは言ってない」
サナの声が鋭くなった。
「悪くなる前に運びたいと言ってる」
サナは、移転の説明を受けた日のことを話した。行き先の候補はあった。だが診療所の患者をまとめて引き受ける場所はなく、個別に調整する必要があった。住民には、医療が整うのを待つよう説明していた。
その間にも、施設の更新は縮小された。移転予定の場所へ大きく投資しない判断には理由がある。しかし移転が遅れたとき、古い設備を使い続ける人が残った。
「私も、もう少し調整すれば一緒に移せると思っていた」
サナは言った。
自分の判断への後悔も、その声にはあった。タツオは初めて、彼女が管理側を責めるだけではないとわかった。
「今から全員を同じ場所へ、という条件は外す。治療と家族の連絡が続くことを優先する」
決めることで何かを失うのは、タツオだけではなかった。
通話の途中、サナは席を外した。戻ってきたとき、声が少しかすれていた。共同区画の扉を何度も開け閉めするため、空調の負荷が上がっている。人を集めるための移動自体にも、手間と負担がある。
タツオは一覧の備考欄を広げた。そこには、医療調整待ち、とだけ書かれていた。短い文字に押し込められた過程を、今ようやく聞いていた。
レンが間に入り、必要な物資を具体的に尋ねた。
濾過材の一部は届いても、設備本体の損耗は補えない。患者の負担も積み重なる。待てる日数は、同じ建物の中でも人によって違う。
通話の奥で、エマが箱を畳んでいた。模型の駅は置いていくという。母親が薬の袋に名前を書いている。
タツオは、三十一という数字を新しい表に入れた。
「一便で何人?」
「通常なら十二人。医療の配置をすれば減る」
レンが答えた。
ユノは既存の救援計画も調べていた。大型機は別地域の輸送に配分されており、ハルカの着陸場と設備にそのまま対応できる機体は限られる。他社の小型機にも照会したが、現在地と稼働条件から、短期の確約は得られなかった。
「俺たちだけで決める話じゃない。個別の運航申請を出せるか、調べる」
レンは言った。
タツオは停止基準の技術資料を開いた。
使用モデルの一覧に、T50-Dという番号があった。
自分の最終研究の番号だった。




