第19話 満点の条件
タワー暦1199年 12/01 | ミナト・事業所
最終研究では、安全を示せない区間を候補から外した。
観測の更新が遅れた場合、直前の値と変動幅から上限を推定する。確かめられない危険を、確かめられないまま小さく見積もらないための方法だった。
それ自体は、今も間違っていない。
タツオは自分の式を三度検算した。
「このモデルだけで、停止を決めたわけではない」
ユノが言った。資料には、機体性能、地上設備、複数の観測情報と運用上の判断が併記されていた。
「でも、僕の方法は正しい」
「適用条件の範囲では、検証されています」
「なら、僕が止めたわけじゃない」
レンが顔を上げた。
「今、それを証明しなきゃいけないのか」
タツオは黙り、それから声を上げた。
「僕が解いたせいで人が困っているみたいに見えるだろう」
「誰がそんなこと言った」
「資料に僕の番号がある」
「だから、お前にしかわからないところがあるか聞いてる」
タツオは椅子から立ち、また座った。自分が役立つとわかった途端に、その成果が悪い場面にも使われている。何も解かずにいたほうがよかったのかという考えが、一瞬浮かんだ。
ユノが、同じ方法で回避された運航の記録を示した。現地の機体が基準を超える前に、経路を変更できた例だった。
「利用結果は一種類ではありません」
タツオは、救われた気持ちと、逃げ道を与えられた気持ちを同時に覚えた。
「良いことにも使われたから、いいという話じゃない」
「そのとおりです。利用結果を知る機会がなかったことは、別の問題です」
ユノの言葉は、慰めではなかった。違う問題を混ぜて、どれか一つの答えで全部を終わらせないための整理だった。
タツオは、誰か一人を責めれば次に進めると思っていた。先生か、イサクか、自分か。だが、責める相手を決めても、海側の観測は増えない。
必要なのは何か。レンはその答えを待っていた。タツオの潔白も、罪の告白も求めていなかった。
彼は研究資料の表紙を閉じ、式の部分だけを開いた。自分の名前を見るのをやめると、どの条件が足りないかを考えられた。
レンは画面を指した。
「通れるか。通れないなら、何を確かめればいいか」
作業場が静かになった。
タツオは、研究の正しさを自分の正しさと一緒に守ろうとしていた。誰もその二つを同じにはしていないのに。
資料を閉じかけ、開き直した。
「観測の間隔を短くできれば、上限の幅を狭められる可能性はある」
「どこを測る?」
「海側。内陸経路を無理に通れることにはできない。でも、沖合はデータが粗い」
ユノが観測機の運用窓口を表示した。既存の機体で追加測定が可能か、依頼を出せる。
「回答には時間がかかります」
「出そう」
タツオは言ってから、レンを見た。費用を伴う依頼だった。
レンは金額を確認し、上限を決めて承認した。
先生なら必要な資料を用意してくれた。ここでは、何を知るためにどれだけ使うかも、誰かが決めなければならない。
依頼を送ると、待機中の表示が出た。
タツオは最終研究の評価を開いた。満点という言葉はない。最高評価の印があるだけだった。
その横に、適用条件を、自分の言葉で追記した。




