第14話 知らないという答え
タワー暦1199年 11/25 | 第一タワー・面会室
面会室は、教育区の外にあった。
受付で訪問目的を伝え、許可された資料だけを持ち込む。タツオは見慣れた壁の色を見て、胸が緩むのを感じた。
戻りたいと思っている。
研究のためではない。ただ、この廊下を歩くと次に何があるかわかるからだ。
ミオは制服ではなく、作業用の上着を着ていた。袖口に点検番号が表示されている。
「忙しかった?」
「仕事は終わった。今日は私も聞きたいことがある」
タツオが送った資料を、彼女も確認していた。自分の課題にも、現実の設備試験に対応するものがあったという。
「成果が使われることは、嫌じゃない」
ミオは言った。
「でも、知らせてほしかった」
「先生は知っていたはずだ」
「何を、どこまで?」
その問いにタツオはいら立ちかけた。だがユノと調べたときも、範囲を分けたからこそ確かめられた。
教育窓口へ質問を出すと、担当者から文書回答が来た。
課題の実務由来性は教育システムに登録されている。個別の委託先、受益者、利用の経過は教師機体の閲覧範囲外の場合がある。生徒への提示情報は、課程ごとの規定に従う。
「先生は、僕が実際の問題を解いているとは知っていた。でも、誰を助けたかは知らなかったかもしれない」
「そう読める」
「レンのことも、同じなのかな」
別課程の移行先については、個人情報として回答できないとされた。一般の運用規則では、通常課程の担当教師は移行後の記録にアクセスできない。
知らない、という答えは嘘とは限らない。
だが、外へ移った可能性があると説明することまで、できなかったのだろうか。
「知らないことと、私たちが誤解したままでいいことは、違うわね」
ミオが言った。
タツオは初めて、彼女も怒っていると気づいた。
タツオは教育窓口へ、本人が成果の利用結果を照会する手続きも尋ねた。
手続きは存在した。ただし、在籍中に誰でも目にする案内には載っていない。個別に用途を知った人が、成果番号を指定して申し出る形式だった。
「知っている人だけが、もっと知れる仕組みだ」
タツオが言うと、ミオは紙に控えた。
「案内に載せることは、求められるわね」
「それだけ?」
「それだけでも、具体的に求めたい。それと、もっと大きい問題も」
彼女は、小さな変更では怒りを晴らせないというタツオの気持ちを見抜いているようだった。
タツオは窓口の返答を読み直した。面会の申請は別にできる。先生と話せたとして、何を聞くのか。知らないと言われたら、どこまで尋ねるのか。
「僕は先生に、怒ってほしいのかもしれない」
「どうして?」
「間違った選択をした、と言われたら、言い返せる」
ミオはしばらく考えた。
「先生は、あなたに怒らないかもしれない。困るわね」
その言い方がおかしくて、二人は少し笑った。自分の怒りを、相手が理解しやすい形で返してくれるとは限らない。そこでも、期待した答えを待っていた。
帰り際、彼女は自分の仕事の話をした。浄化設備の表示上の余力と、実際の稼働余力が一致しない場合がある。保守履歴と負荷を見ないとわからない。
「数字があるなら、そのまま使えばいいわけじゃないの」
「大変だね」
「面白いところもある」
タツオは、最上階で彼女に言った言葉を思い出した。まだ謝れなかった。ただ、今日は面白いという言葉を疑わずに聞いた。
外へ出たところで、知らない差出人から連絡が届いた。
第一タワー圏、居住・資源配分責任者、イサク。
研究成果について面談を希望する、とあった。




