第8話 静かに侵すもの
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主催側ホテル。
試合の余韻は、もう消えていた。
残っているのは――
静けさだけ。
部屋。
秋桜は、ベッドに腰を下ろしていた。
「……ねむい」
軽く伸びをする。
体が、重い。
「疲れたなぁ……」
テーブルの上。
手を伸ばしかけて、止まる。
「……あれ?」
違和感。
喉が、少しだけ渇く。
指先が、わずかに震える。
「……変、だな」
その時。
別の部屋。
文月が、足を止めていた。
「……やられたか」
壁に手をつく。
視界が、わずかに揺れる。
「遅効性……」
小さく息を吐く。
「食事……か」
思い出す。
ほんの僅かな違和感。
「……気付くのが遅れたな」
舌打ち。
「秋桜の方が……深い」
体勢を立て直す。
「……行くか」
足取りは重い。
だが、止まらない。
秋桜の部屋。
「……ねむい……」
ベッドに倒れ込む。
その瞬間。
気配。
「……っ」
遅い。
動かない。
影が、揺れる。
音もなく。
近づく。
「……やっぱりか」
ドアが開く。
文月。
「……毒だ」
その一言。
影が止まる。
「……へぇ」
低い声。
「気付くか、普通」
姿は見えない。
だが、そこにいる。
文月は、視線を動かさない。
「2人同時に仕込むとはな」
「……仕事なんでね」
わずかな殺気。
秋桜の呼吸が浅い。
「解毒は出来るか?」
「無理だな」
即答。
「だが、抑えることは出来る」
文月が手を上げる。
「――止まれ」
言葉が落ちる。
秋桜の震えが、止まる。
同時に。
文月の膝が、わずかに崩れる。
「っ……」
「……無茶するねぇ」
影の声。
「今なら、まとめて殺せるのに」
沈黙。
文月は笑う。
「出来るなら、やっているだろう」
その言葉。
わずかな間。
「……確かに」
気配が、薄れる。
「今回は引く」
「でもな――」
「次は、仕留める」
完全に消える。
静寂。
文月が、息を吐く。
「……面倒な連中だ」
ベッドに近づく。
秋桜の顔を見る。
「……生きてるな」
小さく頷く。
「運がいいのか……悪いのか」
その時。
秋桜の手が、わずかに動く。
空間が、歪む。
重力が乱れる。
「……不安定か」
文月が呟く。
「毒の影響……か、それとも――」
目を細める。
「……両方だな」
秋桜が小さく呟く。
「……なんか……変……」
その声は、かすれていた。
文月は何も言わない。
ただ、窓の外を見る。
静かな夜。
だが――
確実に。
何かが、動いている。
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