切り札
いつも読んでいただきありがとうございます。
向日葵の言葉に、その場にいた全員が戸惑う。
だが、そんな事、神には関係ない。
神は大きく息を吸い込み、全身を炎で包んだ。
「死ね!!」
そのまま突進しようとした瞬間――
如月が叫ぶ。
「やらせるか!」
神の足元から一気に氷が広がり、地面ごと神の両足を凍り付かせた。
神は鼻で笑う。
「また同じか。お前ごときの攻撃など――」
炎をさらに強め、一気に氷を溶かそうとする。
しかし、思うように溶けない。
「……この程度の氷が、何故だ?」
神無月が静かに神の名を呼んだ。
「闘鶏稲置大山主命。」
「氷を使えるのは、如月だけじゃない!」
神無月の力が如月の氷をさらに強固なものへと変えていく。
2人がかりで神を拘束する。
だが、それも長くはもたない。
向日葵が睦月と文月を見つめた。
「私に、睦月のバフと文月の言霊を……全部掛けて。」
睦月は即座に首を振る。
「無茶だ! 意識を失って暴れるだけじゃないか!」
「死ぬぞ!」
向日葵は少しだけ笑った。
「大丈夫だよ……多分。」
文月も珍しく強く反対する。
「無理だ! 体がもつわけない!」
「崩壊する……!」
向日葵は静かに空を見上げた。
「みんな、太陽が出てることに気付いてた?」
「私は『陽歌』から『太陽』に変えてたんだよ。」
睦月は驚きながらも首を振る。
「なら尚更ダメだ!」
「陽歌なら耐えられたかもしれない……でも!」
向日葵は微笑んだ。
「逆だよ。」
「陽歌は一定の力。でも太陽は時間が経つほど強くなる。」
「意識は保てないかもしれない。でも、その分だけ体も強くなる。」
文月は拳を握り締める。
「それでも……。」
「2つ同時に、しかも最大なんて……。」
その時、月狼が1歩前へ出た。
「なら、私がやろう。」
すぐに宵うさぎが叫ぶ。
「月狼さん! ダメ!」
「私がやる!」
向日葵は首を横に振った。
「2人ともダメだよ。」
「2人はバフで意識を失ったことないでしょ?」
「私はある。」
「あの時、意識はなかった。でも全部分かってた。」
「敵が誰かも。」
「ただ……力の加減が出来なかっただけ。」
睦月は苦しそうに言う。
「それは俺のバフだけだった!」
「今回は言霊まで入る!」
「本当に暴走するかもしれない!」
「死ぬかもしれないんだぞ!」
向日葵は真っ直ぐ睦月を見つめた。
「睦月。」
「最初は敵だったかもしれない。」
「でも今は、みんな仲間だよ。」
「誰かが止めなきゃ……全部なくなっちゃう。」
睦月は声を荒げる。
「それを……!」
「向日葵がやらなきゃいけないのか?!」
誰も答えられなかった。
神は拘束されたまま怒りを爆発させる。
「またくだらない小細工か!」
「忌々しい人間どもが!!」
炎はさらに勢いを増し、氷が音を立てて溶け始める。
如月が叫ぶ。
「早くしてくれ!」
「もう……もたない!」
神無月も歯を食いしばる。
「こちらも限界が近い!」
向日葵が叫ぶ。
「早くして!」
「みんな殺されちゃう!」
その時だった。
師走が静かに口を開く。
「賭けてみよう。」
睦月が振り返る。
「師走!」
師走は真っ直ぐ向日葵を見た。
「神を倒した瞬間。」
「俺が全力で能力無効を発動する。」
睦月は俯いた。
「それでも……。」
「それでも向日葵の体が……。」
その言葉を遮るように、向日葵が睦月へ抱き付いた。
「……え?」
睦月の動きが止まる。
向日葵は優しく笑った。
「帰ってくるよ。」
「必ず睦月の所……ここに。」
「だからお願い。」
「みんなを守らせて。」
「私にしか出来ないことなの。」
睦月は目を閉じる。
そして、向日葵を強く抱き締め返した。
「……っ!」
「ちょ、ちょっと痛いよ、睦月。」
向日葵が苦笑すると、睦月は震える声で言った。
「約束は……絶対守れ。」
「必ず俺の所へ帰ってきてくれ。」
向日葵は力強く頷く。
「……うん!」
向日葵が離れた瞬間。
睦月は最大のバフを。
文月は最大の言霊を。
一切の迷いなく向日葵へ重ねた。
同時に、神を拘束していた氷が砕け散る。
神が咆哮を上げながら突進する。
次の瞬間――
向日葵がゆっくりと目を見開いた。
神の巨体が、まるで見えない何かに弾き飛ばされたかのように後方へ吹き飛ぶ。
誰1人、何が起きたのか理解できなかった。
静まり返る戦場。
その中央には、ただ1人。
向日葵だけが静かに立っていた。
睦月はその背中を見つめ、小さく呟く。
「向日葵……。」
「絶対、帰ってこいよ……。」
今後もよろしくお願いいたします。




