第61話 女神の怒り
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女神が血の滴る細剣を静かに構える。
「私の力になりたい者から来なさい」
その声に応えたのは3人だった。
薔薇。
椿。
芍薬。
3人が並んで前へ出る。
薔薇が優雅に細剣を構える。
「剣術には自信がありますのよ」
椿は大剣を肩へ担ぎ、不敵に笑う。
「真っ二つにしてやるよ」
芍薬は静かに剣を構えた。
「簡単に斬れると思わないことね」
その3人へ向け、後方の睦月と文月が同時に力を解放する。
重ね掛けされたバフと言霊。
回復役が不在の今、女神の呪いは致命傷となる。
それでも3人は前を向いた。
薔薇が小さく息を吐く。
「力が上がっているのは判りますが……結構きついですわね」
椿は楽しそうに笑う。
「いいね!何でも斬れそうだ!」
芍薬は苦しそうに歯を食いしばる。
「っ……!」
意識は限界だった。
それでも負けるわけにはいかない。
女神が面倒そうにため息をつく。
「動くのが面倒だわ。」
「掛かってきなさい」
椿が一歩踏み込む。
大剣を横一文字に振り抜いた。
巨大な斬撃が女神へ飛ぶ。
しかし、その前へ無数の水鏡が現れる。
斬撃は鏡へ吸い込まれ――
そのまま椿へ返ってきた。
椿は咄嗟に大剣を振り下ろし、自らの斬撃を叩き斬る。
「やっぱり返すか」
薔薇が水鏡を見つめる。
「攻撃力が上がっても、あれを攻略しませんと」
今度は芍薬が飛び出す。
真正面から女神へ迫る。
だが、水鏡。
さらに、その奥では赤く染まった細剣が待っていた。
芍薬は無理に踏み込まず後退する。
「近付いても斬れない……」
女神の周囲を囲む無数の水鏡。
水無月以上の数。
まさに鉄壁だった。
「早くしなさい。」
「時間の無駄なのよ」
その言葉を合図に、3人が同時に駆け出す。
薔薇は正面。
椿は左。
芍薬は右。
3方向から剣が突き出される。
しかし。
全てが水鏡へ吸い込まれた。
返された威力で薔薇と椿が吹き飛ぶ。
だが。
芍薬だけが蜃気楼のように姿を消した。
女神が眉をひそめる。
「……なんなの?」
その瞬間。
女神の足へ1本の剣が触れた。
小さな切り傷。
芍薬は素早く剣を引き抜き、二人の元へ戻る。
薔薇が驚く。
「何ですの? 隠していましたの?」
椿が笑う。
「いいね!勝てるだろ!」
しかし芍薬は首を振る。
「私じゃない!」
その頃。
会場入口では卯月と撫子が能力を発動していた。
「何とか間に合ったな」
卯月が息を吐く。
撫子は笑顔で頷いた。
「助けに来たよー!」
2人が作り出していたのは、芍薬の完璧な分身だった。
薔薇が振り返る。
「なぜ芍薬なのです?」
卯月は即座に答えた。
「芍薬の剣が一番細くて長かったからだ」
女神が自らの足を見る。
血が流れていた。
「わ、私に……」
「人間が傷を付けた?」
傷口へ指を添える。
震える指先。
「私の……この綺麗な体に……」
その美しい顔が怒りで歪む。
もはや女神の面影はなかった。
卯月が叫ぶ。
「来るぞ!」
「撫子、準備!」
「はーい!」
女神が絶叫する。
「バラバラに切り刻んでやる!!」
一方その頃。
会場へ戻った梅と神無月は負傷者の回復に専念していた。
如月は神を氷漬けにしようと能力を放つ。
そして彼岸花。
23人の花達の血に、自らの血を混ぜ合わせる。
小瓶を強く握り締め、静かに力を溜めていた。
その彼岸花を守るように、
向日葵。
月狼。
宵うさぎ。
牡丹。
4人が壁となる。
怒り狂った女神は、水鏡を纏ったまま薔薇へ斬り掛かった。
薔薇は細剣で何とか受け止める。
鬼のような形相の女神を見つめ、微笑んだ。
「不細工ですわよ」
その一言。
次の瞬間。
女神の蹴りが薔薇の腹へめり込んだ。
「ぐはぁっ!」
薔薇が吹き飛ぶ。
女神は冷たく笑った。
「不細工な声だこと」
芍薬が援護へ飛び込む。
先ほど見つけた、水鏡のわずかな隙間を狙う。
剣が走る。
しかし女神は即座に水鏡を動かした。
剣は鏡へ触れる。
返された威力が、そのまま芍薬へ襲い掛かったが、また芍薬が消える。
女神の後ろ本物の芍薬が女神を狙うが、水鏡がまた動く。
「くっ!」
芍薬が吹き飛ばされる。
女神は剣を構え直す。
「二度も同じ手が通用すると思わないことね」
「楽に死ねると思うな」
その頃。
彼岸花は静かに目を閉じたまま、小瓶を握り締めていた。
決戦の時は、もう間もなく訪れる。
今後もよろしくお願いいたします。




