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今宵月 月花大戦  作者: アル治
神の謀略

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第60話  愛する者の為に

最終章 神の謀略

第五話 愛する者のために

トリカブトの前に百合が立ち塞がる。

トリカブトは首を傾げた。

「毒が効かないのですか?」

百合は微笑む。

「わたくしの能力ですわ」

「そうですか」

トリカブトは静かに両手を持ち上げる。

いつの間にか、両手には鋭い爪の付いた手袋が装着されていた。

「爪にも毒がありますが、効かないのなら――」

「切り刻まれなさい」

百合の瞳が冷たく細められる。

「わたくしの旦那様に手を出して、生きて帰れると思ってらっしゃるのかしら?」

そして振り返る。

「薔薇さん、貴女の血で棒を作っていただけませんか?」

薔薇は小さくため息を吐き、自らの指先を切る。

滴り落ちた血が1本の棒へと変化した。

「私を使うなんて許せません!」

「ですが、そいつを倒したら許して差し上げますわ」

そう言って棒を投げる。

百合は受け取ると微笑んだ。

「なら許して貰えますわね」

トリカブトが鼻で笑う。

「戯れ言を」

「神の前にひれ伏せ」

瞬間。

トリカブトが地面を蹴った。

一気に距離を詰める。

右手の爪が百合へ振り下ろされる。

百合は紙一重で回避。

続く左手の斬撃を血の棒で受け止める。

ギィン――!

互いの顔が至近距離でぶつかり合う。

睨み合い。

先に動いたのはトリカブトだった。

右手を突き出す。

百合は棒の反対側で爪を打ち上げる。

トリカブトの体勢が崩れる。

その隙を逃さない。

百合のミドルキックが腹部へ突き刺さった。

「くっ!」

トリカブトが顔を歪める。

百合は不敵に笑った。

「大したことありませんわね」

「ほざけ!」

トリカブトは踏みとどまる。

そして低く沈み込むように右手を振り降ろした。

鋭い爪が百合の脚を切り裂く。

「っ……!」

鮮血が飛び散る。

「綺麗な服を赤く変えてあげましょう」

「やってご覧なさいよ!」

百合は棒で顔面を狙う。

しかしトリカブトは距離を取り回避した。

百合の脚からは血が流れ続ける。

毒も受けている。

だが毒は効かない。

トリカブトが冷笑する。

「さっきみたいには動けないですね」

「試してご覧なさいよ」

「口の減らない人ですね」

トリカブトが構える。

「赤く染まって死になさい」

「そして神様の力になりなさい」

百合も棒を構えた。

真正面から激突する。

トリカブトの両手が百合へ襲い掛かる。

百合は棒で両方を受け止めた。

だが傷付いた脚に力が掛かる。

血がさらに流れ出した。

その時だった。

「ゆりーー!!」

師走の声が響く。

百合は微笑んだ。

「旦那様、ちょっと待っててくださいね」

トリカブトが蹴りを放とうとする。

だが、その瞬間。

百合の蹴りが先に決まった。

「カハッ!」

トリカブトの体が吹き飛ぶ。

百合は追撃に移る。

棒を振り上げ、頭部を狙う。

しかしトリカブトは両手の爪で受け止めた。

「甘くみないで貰おうか」

百合は静かに答える。

「みてませんわ」

「貴女は最初からみてませんわ」

その瞬間。

百合の体の周りに結界が出現する。

上下から挟み込まれる。

「なっ……!」

「こ、こんな――」

結界と地面に押し潰される。

「がっ……!」

限界まで圧縮されたところで百合は結界を解除した。

倒れ込むトリカブト。

その頭上へ。

百合は全力で棒を振り下ろした。

ドゴッ!!

トリカブトは完全に沈黙する。

百合は肩で息をしながら見下ろした。

「貴女ごとき、わたくし一人で充分ですわ」

勝負は決した。

しかし百合も限界だった。

体が傾く。

そこへ師走が駆け寄る。

「百合!」

「百合!死ぬなよ!」

百合は薄く微笑んだ。

「旦那様……」

「旦那様を置いて、どこにも行きませんわよ……」

そう言い残し、百合は意識を失った。

師走は百合を抱き止める。

神無月はまだ戻っていない。

師走は応急処置を施し、その場から離れた。

その様子を見ていた女神がため息を吐く。

「トリカブト……」

「結局、私がやるんですね」

面倒そうに肩を落とす。

その周囲に無数の水鏡が展開された。

女神は太腿に隠していた細剣を抜く。

そして。

自らの指を切り、その血を刃へ流した。

冷たい笑みを浮かべる。

「私に殺されることを光栄に思いなさい」

細剣が赤く染まる。

女神は静かに前へ歩き出した。

そして不敵に笑う。

「彼岸花の能力は――」

「判ってますよね?」

会場の空気が凍り付いた。

彼岸花の能力を知る者。

それを恐れる者。

全ての視線が女神へ向けられる。

決戦の時は、すぐそこまで迫っていた。

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