第57話 神、動く
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神はゆっくりと笑みを浮かべた。
「さあ、来い」
女神は退屈そうに頬杖をつきながら、
「手伝わないわよ」
と言い放つ。
神は楽しそうに笑った。
「もちろんだ。楽しみを取るなよ」
その短い会話の間に、会場の者達はすでに距離を取っていた。
だが、
月狼と宵うさぎだけは、神のすぐ近くに立っている。
月狼が静かに問い掛けた。
「本気ですか?」
神は当然のように頷く。
「もちろん」
「他の神を殺して、俺達が真の神になるのだ」
月狼の目が鋭くなる。
「伝統を踏みにじるか」
神は鼻で笑った。
「知らん」
その瞬間。
神の顔がわずかに右を向く。
「まぁまぁの蹴りだな」
いつの間にか、宵うさぎの蹴りが神の顔を捉えていた。
宵うさぎが笑う。
「挨拶だよ~」
「本番はこれからだよ」
いつもの間延びした声ではない。
神は笑う。
「軽すぎて、そよ風かと思った」
宵うさぎの表情が変わる。
再び放たれた蹴り。
今度は神の顔が確かに右へ向いた。
宵うさぎは睨みつける。
神は不愉快そうに言った。
「虫が当たったか」
次の瞬間。
神がわずかに上を向いた。
そして、
宵うさぎの体が後方へ吹き飛ぶ。
「宵うさぎ!!」
月狼が叫ぶ。
しかし、
宵うさぎはすぐに立ち上がった。
「月狼さん~大丈夫~」
「ちょっと飛ばされただけ」
月狼は振り返ることなく神へ拳を繰り出す。
神は腕で受け止めた。
「速さはないが……重いな」
そのまま神の拳が月狼を襲う。
月狼も腕で防ぐが、
吹き飛ばされる。
「月狼さん!」
「大丈夫だ」
2人は再び立ち上がった。
神は笑う。
「いいね」
「遊べそうだ」
女神は呆れたようにため息をついた。
その頃には、
月狼の周囲に月花達が集まっていた。
最前列。
向日葵。
椿。
薔薇。
牡丹。
神無月。
その後ろには、
睦月。
弥生。
文月。
師走。
彼岸花。
秋桜。
蒲公英。
桜。
蓮。
金木犀。
鈴蘭。
藤。
芍薬。
南天。
百合。
さらにその後方には、
病室で眠る者。
戦意を失った者。
能力の条件が合わず戦えない者達。
誰の命令でもない。
指示もない。
しかし、
前衛。
後衛。
回復。
支援。
今までの戦いの中で培ってきたものが、
自然と全員を動かしていた。
誰もが自分の役割を理解していた。
神が月狼へ仕掛ける。
その背後から、
宵うさぎの蹴り。
神の体勢がわずかに崩れる。
しかし、そのまま拳を月狼へ放つ。
月狼が紙一重で避ける。
それだけで、
頬が切れていた。
「ッ!」
神の一撃。
純粋な力か。
それとも神の力か。
誰にも判らない。
その隙を逃さない。
向日葵と宵うさぎのミドルキックが、左右から神の脇腹へ突き刺さる。
だが、
神は平然と振り返り、
向日葵へ拳を振るう。
向日葵は辛うじて避ける。
しかし、
服の一部が裂けていた。
神は楽しそうに笑う。
「いいね」
「連携取れてるじゃないか」
その背後。
椿と薔薇が斬りかかる。
しかし、
神は指だけで刀身を掴んだ。
「なっ!?」
「くっ!」
2人の体が止まる。
神は笑った。
「判り易いな」
「まだですわ!」
薔薇は叫ぶ。
神の両腕が上がった。
腹部が完全に無防備になる。
その瞬間。
牡丹。
そして須佐之男命を纏う神無月。
2人の拳が神の腹へめり込んだ。
「うッ!」
初めて。
神が苦しそうな声を漏らした。
わずかだが、
確かにダメージが通った。
気が緩んだのか。
椿と薔薇は剣ごと投げ飛ばされる。
牡丹と神無月は、
まともに蹴りを受け吹き飛ばされた。
神は腹を押さえながら笑う。
「ちょっと痛かったな」
吹き飛ばされた四人。
しかし、
神は笑みを浮かべたまま言う。
「まだ死ぬなよ」
神無月はすぐに大国主大神を呼び出す。
須佐之男命が消え、
回復の力が戦場を包む。
前衛の傷が少しずつ癒えていく。
神無月は苦しそうに呟いた。
「回復が……足りない……」
薔薇が立ち上がる。
「下がりなさい」
「神無月は回復に専念しなさい」
その言葉に、
藤。
弥生。
蒲公英。
3人が前へ出る。
神無月への強化は解かれ、
睦月のバフ。
文月の言霊。
2人の力が3人を包み込んだ。
神は楽しそうに笑う。
「まだ来るのか?」
「いいぞ」
「楽しませてくれよ」
今後もよろしくお願いいたします。




