第46話 失地回復
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彼岸花が部屋で1人うつむいていると、
「コン、コン」
扉を叩く音がする。
彼岸花は深く息を吐き、気持ちを落ち着かせた。
そして扉を開くと――
「……何かご用どすか?」
目の前にいたのは薔薇だった。
一瞬、彼岸花の表情が驚きに変わる。
(驚いたわね、この子)
薔薇は内心で微笑みながら、
「私の執事がお話があるようなので、連れて参りました」
彼岸花は首を傾げる。
(私の執事?)
(なんでうちに?)
「どちら様どす?うちには覚えがありませんが……」
薔薇が勝ち誇ったように横にずれる。
その後ろに立っていた人物を見た瞬間――
「ッ!」
「神無月!?」
「って、執事!?」
薔薇は満足そうに胸を張る。
「失礼するわよ」
「ちょっ……!」
彼岸花の制止も聞かず、薔薇は部屋に入っていく。
当然のように神無月も続いた。
「はぁ……」
「もう……入っとくれやす」
神無月は黙っている。
彼岸花もお茶を出す気はなかった。
「お茶は出しませんよ」
「勝手に入ってきたんどすから」
「お構いなく」
そう言って薔薇は平然としている。
しばしの沈黙。
そして、
「何の用どす?」
「うちは2日後、試合なんどすが!」
彼岸花の機嫌は最悪だった。
「私の執事がどうしても彼岸花と話をしたいと申しまして」
「……なんどす?」
神無月を睨み付ける。
ようやく神無月が口を開いた。
「彼岸花……すまなかった」
「何がどす?」
「水華のこと」
「彼岸花に何もしなかったこと」
「今さら何!?」
彼岸花の口調が変わる。
「ずっと放っておいて!」
「今さらなのは判ってる」
「でも……やり直したい」
(えっ?)
(復縁の話なの?)
薔薇は1人勘違いしていた。
「やり直す?」
「お姉ちゃんの言葉を忘れて!」
「私も置いて勝手にやってきたくせに!」
神無月はうつむいた。
「判っている」
「悲しみから、水華の言葉を聞けなかった」
「自分勝手にここまで来てしまった」
「どう償っても償いきれない」
「当たり前でしょ!」
「お姉ちゃんを1人にして!」
「私も1人にして!」
「今さら何がしたいの!」
神無月は静かに答える。
「間違いは消せない」
「水華も帰ってこない」
「彼岸花が苦しんだ時間も戻らない」
「それでも……」
「今度こそ、水華の願いを忘れずに生きていきたい!」
「これからを……彼岸花に見ていて欲しい」
「そんなの……」
「また勝手じゃない!」
「私は、お兄ちゃんの物じゃない!」
(お兄ちゃん!?)
(復縁の話じゃないわね)
薔薇の勘違いがようやく解ける。
「判っている」
「それでも……」
「やり直すチャンスをくれないか?」
「無理!」
「お姉ちゃんの気持ちを踏みにじって!」
「今さらふざけないで!」
そう叫んだ瞬間ーーー
薔薇が彼岸花を正面から抱き締めた。
「……えっ?」
「許さなくていい」
「貴女はずっと1人で頑張ってきたのね」
「偉いわ」
「ずっと寂しかったんでしょう?」
「誰にも頼れずに」
「違う!」
「私は……私は……!」
彼岸花の瞳から涙が零れ落ちる。
一滴流れた涙は、もう止まらなかった。
「いいのよ」
「泣きなさい」
「貴女は頑張ってきた」
「今も頑張っている」
「頼ることも、助けてもらえず」
「1人で苦しんで」
「辛かったわね」
「もういいのよ」
張り詰めていた糸が切れた。
彼岸花は薔薇の胸の中で泣き続けた。
そして――
しばらくして落ち着きを取り戻した彼岸花が、静かに口を開く。
「許すことはできません!」
神無月は頷く。
「判った」
「ただ……」
「もう神無月を恨むのはやめます」
神無月の目が大きく開く。
「貴方も、貴方の思うようにすればいい」
「でも」
「次、間違えたら」
「今度こそ確実に殺します!」
神無月は小さく笑った。
「判った」
「その時は殺してくれて構わない」
「それと!」
彼岸花が顔を赤くする。
「もう、お兄ちゃんとは呼びませんから!」
神無月は少し寂しそうに、でも嬉しそうに笑った。
「……判ったよ」
なんとなく話がまとまりかけた時。
薔薇が割って入る。
「私の執事が殺されては困るんですが!」
「薔薇の執事なんですか!?」
「わたくしの執事です!」
彼岸花が神無月を睨み付ける。
「お姉ちゃんを忘れて、この人の所に行くと?」
「いい度胸ですね!!」
「誤解だ!」
「その……試合を棄権した罰ゲームみたいなもので……」
「……はぁぁぁぁ!?」
薔薇の顔が引きつる。
「罰ゲームぃぃぃ!?」
「どの口がおっしゃっているのかしら!?」
「わたくしが罰だと!?」
「今すぐ殺します!!」
彼岸花が刀に手を掛ける。
「許します!しかし!」
薔薇が両手を広げて神無月の前に立つ。
「わたくしの執事です!」
「勝手に殺させません!」
「わたくしが殺ります!」
神無月の顔が真っ青になる。
彼岸花の部屋に、怒鳴り声が響き渡った。
その光景を見ながら。
神無月は心の奥で、静かに呟く。
(ありがとう……水華)
(今度こそ……間違えない!!)
今後もよろしくお願い致します。




