第40話 逃げて、藤
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文月の前には椿。
彼岸花の前には藤。
2人がすれ違った瞬間だった。
文月が叫ぶ。
「敵は藤!」
言霊が椿に届く。
藤は耳を蔓で塞いでいる。
状況を把握できるのは視界だけだった。
椿の身体が一瞬強張る。
「敵は……藤?」
すぐに違和感に気付く。
「違う!」
だが、身体は言うことを聞かない。
動きが鈍る。
その頃、藤と彼岸花は激しく剣を交えていた。
攻守が何度も入れ替わる。
その最中。
文月と彼岸花の視線が交わった。
彼岸花が素早く距離を取り、文月の方へ下がる。
結果として。
藤と椿が向かい合う形になった。
藤は困惑した表情で椿を見る。
「何をされたの?」
椿の額に汗が浮かぶ。
「藤は敵だ!」
言葉と同時に大剣を構える。
巨大な刃が藤へ向く。
藤の背筋に冷たいものが走った。
「っ!」
反射的に蔓を伸ばし、その場から飛び退く。
直後。
椿の斬撃が空を裂いた。
轟音と共に地面が抉れる。
「藤……逃げて……」
苦しそうな声。
椿自身も抗っているのだ。
藤は唇を噛み締める。
そして椿の周囲に蔓を張り巡らせた。
巨大な円を描くように。
その中心に椿が立つ。
さらに文月と彼岸花の前へ移動した。
椿の姿を隠すように。
藤が振り返る。
視線の先には椿。
椿も藤を見ていた。
藤は静かに微笑む。
次の瞬間。
藤は全身に蔓を巻き付けた。
まるで鎧のように。
そして彼岸花へ向かって突進する。
彼岸花も迎え撃つ構えを取った。
剣の間合いに入る寸前。
藤が大きく跳躍する。
蔓の反発力を利用した高速移動。
その時だった。
「地に伏せろ!!」
文月の叫び。
彼岸花は即座に地面へ身を投げ出す。
一瞬遅れて。
ズガァァァン!!
巨大な斬撃が頭上を通り抜けた。
椿の一撃。
彼岸花のすぐ上を掠めていく。
大木を両断し、ビルの壁を深々と切り裂いた。
椿は悔しそうに歯を食いしばる。
「外したか……」
藤が視界を塞いだことで、狙いが僅かに狂ったのだ。
文月は状況を理解する。
「言霊は効いている……だが逆手に取られたか」
彼岸花も納得する。
「なるほど。タイミングが良すぎると思ったら……蔓か」
文月は椿へ向かって走る。
椿は大剣を横に構えた。
同時に。
地面の蔓が浮かび上がる。
藤の援護だ。
そして藤自身は地上へ降り立ち、彼岸花の前へ立ちはだかる。
「いつ来るか分からないだろ?」
藤が笑う。
「私が避けた後じゃ間に合わないよ」
彼岸花も笑った。
「話しても聞こえないでしょ?」
そして。
思い切り中指を立てる。
藤の額に青筋が浮いた。
「このっ!」
怒りのまま拳を振るう。
だが彼岸花の方が速い。
剣筋も鋭い。
藤には荷が重い。
しかし。
椿の斬撃がいつ飛んでくるか分からない。
それが最大の脅威だった。
「高く跳べ」
文月の言霊。
彼岸花の身体が軽くなる。
斬撃を避けながら文月の元へ合流した。
文月は息を荒くしている。
「速く」
さらに言霊を重ねる。
「力強く」
彼岸花の身体能力が上がる。
しかし文月の顔色も悪い。
「身体が……もたないかもしれない」
彼岸花は小さく笑った。
「勝てば治ります」
彼岸花が駆け出す。
藤も迎撃態勢を取る。
だが彼岸花は藤を無視した。
一直線に椿へ向かう。
藤が慌てて蔓を放つ。
彼岸花は跳躍して回避する。
その瞬間。
矢が飛んだ。
彼岸花の腕を貫く。
鮮血が舞う。
その血が椿へ降りかかった。
椿の表情が変わる。
「しまった……!」
彼岸花が微笑む。
椿が苦しみながら
「ここで使うか……」
椿の身体から。
鮮やかな彼岸花が咲き始めた。
力を奪う呪いの花。
椿は膝をつく。
その隙に文月の矢が藤の背へ突き刺さる。
だが蔓が身体を守り、致命傷にはならない。
藤は焦る。
「このままでは時間がない!」
大量の蔓で文月を拘束する。
椿が完全に落ちる前に決着をつけるつもりだった。
だが。
文月が笑う。
「1人だけ格好つけさせないよ」
そして。
「燃えろ」
自らの腕が炎に包まれる。
蔓を焼き切る。
それでも。
藤へ繋がる蔓だけは離さない。
炎が蔓を伝い、藤へ迫る。
藤は慌てて蔓を切り捨てた。
その瞬間。
首筋に冷たい感触。
彼岸花の細い剣が当てられていた。
いつの間にか。
すぐ目の前に立っている。
彼岸花は静かに笑った。
「終わりどす」
藤は目を閉じる。
そして小さく息を吐いた。
「……降参よ」
月狼が静かに告げる。
「それまで」
宵うさぎが手を挙げる。
「勝者~!」
満面の笑みで叫んだ。
「文月・彼岸花~!」
今後もよろしくお願い致します。




