第38話 ラウンジの修羅場
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第六回戦終了後
月狼は静かに告げる。
「この試合は――再戦とする」
両チームに神の祝福が与えられる。
そして月狼は続けた。
「第七回戦終了後に再戦を行う」
秋桜の身体の傷は癒えていた。
だが精神的な疲労は大きい。
その時だった。
神無月が振り返り、静かに名を呼ぶ。
「大国主命」
淡い光が秋桜を包む。
本来なら意味は薄い。
身体は既に回復しているのだから。
それでも――。
「ありがとう~」
「ありがとうございます」
秋桜と金木犀の声が重なった。
神無月は何も答えない。
冷たい視線だけを向け、その場を去っていく。
精神的疲労にどこまで効果があったのかは分からない。
だが、その気持ちは確かに伝わっていた。
秋桜と金木犀も自室へ戻る。
再戦に備え、休息を取るためだ。
その頃。
ラウンジでは――。
「ねぇ、師走。少し付き合いなさい」
薔薇が師走を呼び止めた。
「俺ですか?」
「そうよ」
「嫌な予感しかしないんやけど……」
「付き合いなさい」
「はい」
師走は観念した。
2人はラウンジへ向かう。
薔薇は席に着くなりバーテンダーへ告げた。
「マッカラン、ダブルで」
師走が思わず声を上げる。
「ホンマに!? この後試合ですやん!」
薔薇はジロリと睨む。
「普通に話しなさいよ。その喋り方イライラするのよ」
「はいはい……」
完全に言いなりだった。
その様子を見ている者がいる。
百合だった。
さらに別のテーブルでは、
朝顔、月見草、カトレア、南天の4人が様子を窺っていた。
朝顔が小声で呟く。
「修羅場ですね」
月見草が楽しそうに笑う。
「楽しんでる?」
カトレアがため息をつく。
「趣味がよろしくありませんわ」
南天は肩を震わせた。
「マジ? 私は楽しいんだけど」
完全に他人事だった。
薔薇がグラスを回しながら口を開く。
「神無月をどう思う?」
師走は少し考えた。
「自信家ですね。あとプライドの塊」
「そうよね」
薔薇は頷く。
「そんな男が月狼に下がれと言われて引いたのよ」
師走の目が少し細くなる。
「……神無月、演じてる?」
薔薇は黙る。
師走は続けた。
「目的はあるんでしょうけどね」
「無理してるのかもしれません」
「わたくしもそう思うわ」
「まぁ、可能性の話ですけど」
薔薇はグラスを一気に空けた。
「また付き合ってもらうから」
「また?」
「何か問題でも?」
「何で俺なんですか……」
薔薇は答えない。
そのまま立ち上がりラウンジを後にした。
そして。
入れ替わるように師走へ近づく影。
百合だった。
「楽しそうでしたわね」
笑顔。
だが目は笑っていない。
師走は軽く後ずさる。
「いや……別に楽しくは」
百合の視線が突き刺さる。
野次馬4人組は盛り上がっていた。
「始まりましたね」
「始まったね」
「止めた方がよろしいのでは?」
「いやいや、もっと見ようよ」
百合が静かに口を開く。
「浮気……ですか?」
「いやいやいや!」
師走が慌てる。
「付き合ってませんから!」
4人組がさらに盛り上がる。
「付き合ってないの?」
「どういうことですの?」
「マジで?」
「面白くなってきたね」
師走が振り返る。
「お前ら静かにしろ!」
その声で百合も4人に気付く。
4人は一斉に目を逸らした。
百合は再び師走へ向き直る。
「わたくしと薔薇様」
「どちらをお選びになりますの?」
師走は固まった。
数秒固まった。
本気で固まった。
「え?」
「2択なんですか?」
百合は即答する。
「はい」
師走は頭を抱えた。
「ちょっと待ってください」
「次の試合が終わるまで待ってくれません?」
「ちゃんと考えますから」
百合は少しだけ表情を和らげる。
「分かりました」
「待ちますわ」
そう言い残し、百合もラウンジを後にした。
残された師走は即座に4人のテーブルへ向かう。
「なぁ!」
「どういうこと!?」
「俺どうしたらいいの!?」
朝顔。
「百合さんですね」
カトレア。
「知りませんわ」
月見草。
「フれば?」
南天。
「2人と付き合えば?」
全くまとまらなかった。
師走は頭を抱えながらラウンジを後にする。
4人には新たな楽しみが増えた。
そして――。
月狼が立ち上がる。
「第七回戦を始める」
先程までの賑やかな空気が消える。
会場に再び緊張が走った。
今後もよろしくお願い致します。




