第37話 守れたもの
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第六回戦 後半
神無月の前に、巨大なブラックホールが現れる。
先ほどまでとは比べものにならない大きさだった。
秋桜は冷たい目で神無月を見下ろす。
「掃除だな」
「借り物の力しかないゴミが――」
金木犀が息を呑む。
「秋桜様!」
月狼は静かに宵うさぎを見る。
「宵うさぎ」
「はい、月狼さん~」
「任せる」
宵うさぎの口元が歪む。
「本気でいいんですよね~?」
月狼は答えない。
その沈黙が答えだった。
一方、ラウンジから師走も走り出していた。
「効くのか……?」
自分に問いかけながら会場へ向かう。
月狼は神無月たちの前へ立った。
「下がれ」
神無月は動かない。
だが月狼がもう1度視線を向ける。
「下がれ」
その瞬間、神無月の額に汗が浮かんだ。
ゆっくりと頷き、後ろへ下がる。
薔薇は呆れたように見ていた。
(心の声 だっさ……)
月狼と宵うさぎの目が変わる。
宵うさぎは笑った。
だがその笑顔に温かさはない。
獣の笑みだった。
「久しぶりだな。本気でやるのは」
「楽しませろよ」
宵うさぎが秋桜へ突っ込む。
だが途中で止まった。
重力の壁。
見えない障壁が進行を阻む。
宵うさぎは軽く息を吐く。
その瞬間。
秋桜の身体がわずかに仰け反った。
「少しは出来るのか」
秋桜が目を細める。
その頃。
月狼の前ではブラックホールが崩壊を始めていた。
だが完全に消滅する前に――
閃光。
そして。
ドォォォォォン!!
凄まじい爆発。
先ほどとは比較にならない規模だった。
収縮した重力が、一気に解放される。
だが月狼は動かない。
腰を落とし、正拳を放つ。
その瞬間。
前方の衝撃波と爆風が消し飛んだ。
まるで存在しなかったかのように。
「さすが月狼さん」
宵うさぎが笑う。
「遅いぞ」
月狼はそれだけ答えた。
宵うさぎが再び目を閉じる。
重力の壁を蹴る。
その瞬間。
空間が軋んだ。
秋桜の目が見開かれる。
「私の壁を壊すか……」
「さっきとは重みが違うからな」
宵うさぎが笑う。
先ほど秋桜を仰け反らせたのは蹴りだった。
速すぎて誰にも見えなかっただけだ。
速度で重力を貫通していた。
「始めようか。本気の戦いを」
「来い、三下」
「殺す!!」
宵うさぎのハイキック。
重力の壁に阻まれる。
秋桜の拳が顔面へ飛ぶ。
避けられない。
拳が直撃する。
宵うさぎの口が切れた。
「ペッ」
血を吐き捨てる。
「そう来るよな」
「どうした三下。終わりか?」
秋桜が煽る。
宵うさぎは笑う。
再びハイキック。
「またか。芸がないな――」
吹き飛んだのは秋桜だった。
「なっ!?」
「どうした三下。口から血が出てるぞ」
今度は宵うさぎが煽る。
秋桜の表情が歪む。
無数の小型ブラックホールを生み出し、自らも突撃する。
だが。
宵うさぎの蹴りが全てを粉砕する。
ブラックホールすらも。
破壊しながら前へ進む。
「この三下が!!」
「死ねや!!」
蹴りが直撃。
秋桜が吹き飛ぶ。
「終わりか」
宵うさぎが息を吐いた、その時だった。
秋桜の前に飛び出した影。
金木犀だった。
涙を浮かべながら叫ぶ。
「もう止めてください!」
だが。
もう遅かった。
宵うさぎの蹴りは止まらない。
その瞬間。
横から師走が飛び込んだ。
両手のトンファーで受け止める。
「無理……だ……!」
トンファーが砕ける。
師走と金木犀が吹き飛ばされた。
宵うさぎの顔が青ざめる。
視線の先。
月狼。
だが月狼は何も言わない。
怒りもない。
失望もない。
それを見て宵うさぎは安堵する。
「いきなり入るなよ……」
「止められなかった」
そう呟く。
師走が立ち上がる。
「待て……俺の無効で……」
「効かなかったら?」
「なんとかする」
宵うさぎは月狼を見る。
月狼は静かに頷いた。
「フンッ」
鼻を鳴らし、宵うさぎは下がる。
金木犀が震える声で言う。
「ありがとうございます……」
「礼はいらん」
師走は秋桜へ歩く。
「始めるぞ」
能力無効。
しかし反応はない。
「ダメか……」
師走が諦めかけた時だった。
「秋桜様!!」
金木犀の声が響く。
秋桜の指がわずかに動いた。
「呼び続けろ!」
「はい!」
金木犀は何度も呼ぶ。
何度も。
何度も。
やがて。
秋桜の目が開く。
最初に映ったのは。
額から血を流す金木犀だった。
「ご、ごめんなさい~……」
「私のせいだね~……」
秋桜の口調が戻る。
金木犀は泣きながら抱き締めた。
それを師走は静かに見守る。
どこか優しい目だった。
宵うさぎは月狼へ頭を下げる。
「月狼さん……すみません」
「問題ない」
そして少しだけ口元を緩めた。
「よくやった」
宵うさぎの顔が、一瞬で笑顔になる。
満面の笑みだった。
会場の空気が緩む。
誰もが安堵していた。
だが。
神無月だけは違う。
その瞳には悔しさと憎しみが滲んでいた。
薔薇が横目で見る。
(心の声 プライドずたずたね……)
(でも少し可愛いじゃない)
月狼は静かに前へ出る。
そして全員を見渡した。
「この試合は――」
これからもよろしくお願い致します。




