第35話 負け組
いつも読んでいただきありがとうございます。
5回戦終了後
ラウンジ。
師走はカウンター席で酒を飲んでいた。
グラスを傾ける横顔は険しい。
いつもの軽さが薄い。
百合
「どうなさいました?」
「そんなに怖い顔をしていては、女の子が逃げますわよ?」
師走が視線だけ向ける。
師走
「おっ、可愛子ちゃんや」
百合
「その偽関西弁、まだ辞めないのですか?」
師走
「えー、偽物ちゃうよ」
百合
「そうですか」
「残念ですわ」
百合が席を立とうとする。
師走
「いかんといてや」
百合
「辞めますか?」
師走が小さく息を吐く。
師走
「……わかったよ」
「今だけな」
百合が微笑み、再び席へ座る。
百合
「そうこなくては」
「では、少しお付き合いいたしましょう」
師走
「食えない人だな」
「俺に関わる理由は?」
百合がグラスを揺らす。
百合
「わたくし、裏がある方が気になってしまうのです」
師走
「男運悪そう」
百合
「そうですわね♪」
一方。
少し離れたテーブル席。
弥生が目を丸くしていた。
テーブルいっぱいに料理が並んでいる。
サンドイッチ。
シチュー。
パスタ。
ピザ。
その中心で鈴蘭が凄まじい勢いで食べ続けていた。
弥生
「……マジか」
鈴蘭
「ん?」
弥生
「それ、1人で食べるの?」
鈴蘭
「だって……」
鈴蘭が頬を膨らませる。
鈴蘭
「あんな怖い人達と戦ってたんですよ?」
「生きた心地しなかったし……」
「ご飯も全然食べられなかったし……」
弥生が思わず笑う。
弥生
「っていうか、喋ったな」
「無口な子かと思ってた」
鈴蘭
「失礼ですね……」
弥生
「いや、声可愛いなって」
鈴蘭
「っ……」
鈴蘭が少し視線を逸らす。
だが次の瞬間。
鈴蘭の目がカウンター席へ向く。
その先には師走と百合。
鈴蘭が小声になる。
鈴蘭
「あんな化物みたいな人達が居るんですよ……」
「いつ、ご飯食べられなくなるかわからないじゃないですか……」
だが。
百合には聞こえていた。
百合がゆっくり鈴蘭へ視線を向ける。
鈴蘭が固まる。
俯き、動かない。
師走が苦笑する。
師走
「そんなにいじめるなよ」
百合
「わたくしを化物呼ばわりとは失礼ですわね?」
「化物は、先程戦っていた方達でしょう?」
師走
「まぁな」
師走がグラスを空ける。
少しだけ沈黙。
そして低く呟く。
師走
「でも……試合以外での危険は、もう無くなった」
百合が目を細める。
百合
「……貴方が止めたのですか?」
師走は答えない。
ただ静かに空になったグラスを見つめている。
百合が小さく笑う。
百合
「裏があるのに――」
「表裏は無いんですわね」
師走が立ち上がる。
百合
「またここでお待ちしていますわね」
師走は何も答えず、ラウンジの出口へ向かった。
すると。
弥生と鈴蘭も同じタイミングで席を立つ。
偶然。
4人が出口付近で並んでしまう。
誰も喋らない。
妙な沈黙。
その空気を破ったのは師走だった。
師走
「辛気臭い顔やなぁ」
「試合負け組なんやから、楽しくいこうや」
鈴蘭
「……勝ってても怖いんですけど」
師走が吹き出す。
弥生も思わず笑ってしまう。
百合だけが優雅に微笑んでいた。
そして――
次の試合が始まる。
今後もよろしくお願い致します。




