第30話 もうひとつの月花大戦
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卯月襲撃編
試合が終わる。
蒲公英は疲労でふらつきながらホテルへ戻っていく。
神の祝福で身体の傷は癒えた。
だが、倦怠感と精神の消耗までは消えない。
足取りは重かった。
霜月もまた、いつもより歩みが遅い。
しかし部屋へ戻ることも、名家の集う会場へ向かうこともなかった。
ラウンジの片隅。
1人、酒を煽る。
その姿を遠くから見つめる影があった。
師走。
視線は鋭く、殺気を隠しきれていない。
霜月はグラスを置くと、静かに立ち上がった。
そしてゆっくりと病院棟へ向かう。
そこには、水無月、葉月、そして卯月がいる。
誰を狙うのか。
師走には分からない。
追うしかなかった。
霜月はわざとらしく進路を変える。
エレベーター。
階段。
またエレベーター。
何度も経路を変えながら進む。
尾行を撒くように。
いい加減、痺れを切らした師走が前へ出た。
師走
「誰を狙ってる?」
霜月が足を止める。
ゆっくりと振り返り、口元を歪めた。
霜月
「待っていたよ」
その瞬間。
目が細まる。
減速。
師走の身体が鈍る。
師走
「しまっ――」
霜月
「若いな」
霜月はそのままエレベーターへ乗り込み、卯月の病室へ向かった。
静かな病室。
ベッドで眠る卯月。
霜月は迷いなく減速をかける。
目を細める。
そして短刀を振り下ろした。
――すり抜けた。
霜月の目が見開く。
卯月
「幻覚だよ」
背後。
師走
「もう逃がさない!」
振り返る。
そこには短剣を構えた師走。
霜月は即座に減速を発動した。
だが。
師走は普通に歩み寄る。
霜月
「……なに?」
師走
「皐月の時、違和感があった」
一歩。
師走
「水無月の時、確信に変わった」
さらに一歩。
師走
「お前、能力を使う瞬間――目が細くなる」
霜月の表情が揺れる。
師走
「何度逃げられても、見続けた」
「ようやく掴んだぞ」
「霜月」
卯月が壁際から姿を現した。
卯月
「借りを返したくてね」
「まさか本当に来るとは思わなかったけど」
師走
「病室移すだけで済んだ話だったのに」
葉月と水無月は既に別室へ移されている。
もしそちらを狙っていれば。
師走と霜月の一対一だった。
霜月の顔に怒りが満ちる。
霜月
「師走ぅぅぅ!!」
霜月が短刀を抜き、襲いかかる。
一閃。
師走はかわす。
二閃。
三閃。
四閃。
全て空を切る。
師走
「大分鈍ってるな」
「精神が削れてる」
霜月はさらに短刀を投げる。
師走は身をひねり、全て避けた。
そして一気に懐へ。
師走
「悪いな」
「これでも合気道、師範クラスなんでね」
拳が腹にめり込む。
霜月
「がはっ……!」
続けざまに拳。
蹴り。
肘。
容赦ない連撃。
腹。
太腿。
ふくらはぎ。
顔面。
霜月の身体が揺れ、膝をつく。
それでもなお。
目を細める。
一度。
二度。
三度。
減速。
だが何も起こらない。
能力は、すでに封じられていた。
そのたびに絶望が濃くなる。
やがて。
霜月の肩から力が抜けた。
静かに顔を上げる。
そして、小さく笑った。
霜月
「……そうか」
師走が短剣を構える。
霜月
「止められたか」
師走
「終わりだな」
一閃。
鮮血が弧を描く。
崩れ落ちる霜月。
倒れる寸前。
その口元が、わずかに緩んだ。
霜月
「……見事だ」
静かに絶命。
病室に沈黙が落ちる。
卯月が幻覚を解き、霜月を見つめた。
師走は荒く息を吐きながら、その亡骸を見下ろす。
師走
「これで……ようやく終わった」
皐月。
水無月。
積み重なった血と執念。
その全てに、ようやく決着がついた。
長く続いた裏の月花大戦。
その幕が、静かに閉じた。
今後もよろしくお願い致します。




