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今宵月 月花大戦  作者: アル治
崩れる盤面

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29/57

第29話  減速化でも

いつも読んでいただきありがとうございます。

第2回戦。

霜月、蒲公英

VS

卯月、菖蒲

月狼の視線が静かに両者を見据える。

フィールド選択。

霜月は――軟風。

卯月は――水辺。

2つが融合し、会場は姿を変える。

すねまで水に浸かる浅瀬。

絶えず吹き続ける柔らかな風。

水面が絶えず揺れ、細かな波紋を刻んでいる。

静かだが、不気味な戦場。

月狼

「始めろ」

開始と同時。

蒲公英が両手を広げ、大量の綿毛を生み出す。

同時に。

霜月の瞳が細まる。

卯月と菖蒲へ、時間減速。

対する卯月は即座に幻覚を展開。

菖蒲は水刃を握り、その周囲に無数の小さな水刃を浮かべた。

誰1人、様子見はしない。

全開。

最初から本気。

蒲公英は風に乗り、高速で移動する。

常に風上へ。

綿毛をばら撒きながら、卯月たちを包囲しようとする。

菖蒲が水刃を放つ。

だが遅い。

減速の影響。

蒲公英は容易く回避する。

綿毛が卯月たちを覆う。

――だが、すり抜けた。

蒲公英

「幻覚か」

卯月の姿は偽り。

その直後。

水面から水槍が突き上がる。

蒲公英は風に乗って回避。

さらに綿毛を展開する。

蒲公英

「場所が分からないなら――」

「全部、綿毛で埋める!」

菖蒲が静かに笑う。

菖蒲

「水の上で、何を言ってるの?」

次の瞬間。

水面のあらゆる場所から、水刃と水槍が噴き上がった。

減速の影響で遅い。

だが、数が多い。

蒲公英は綿毛を盾にし、爆発で相殺する。

連続する爆音。

視界が白く染まる。

その時。

霜月が笑った。

冷たく。

会場全体の時間が、さらに沈む。

フィールド全域の減速。

空気すら重くなる。

だが。

霜月は動かない。

菖蒲の口元がわずかに緩んだ。

菖蒲

「かかった」

試合開始直後から。

水面の下。

1本の水槍が、静かに霜月の足元へ伸び続けていた。

減速が強まった瞬間。

それは一気に加速する。

ズンッ――!

水槍が霜月の足を貫いた。

鮮血が水面を赤く染める。

蒲公英

「霜月!」

菖蒲

「動かないなら、減速も怖くない」

卯月

「作戦が甘いな」

幻覚で本体を捉えられないなら。

不用意に動かず、減速で制圧する。

霜月の選択を、逆手に取った。

激痛。

霜月の顔が歪む。

それでも。

減速は解かない。

霜月は綿毛だけの減速を解除した。

次の瞬間。

綿毛が加速する。

静止していた白い死が、一斉に卯月たちへ襲いかかった。

菖蒲が迎撃しようとする。

だが遅い。

減速下では、水刃の生成すら間に合わない。

その時。

霜月の視線が、水面の一点を捉えた。

何もないはずの場所。

だが。

わずかな波紋。

霜月の口元が歪む。

霜月

「そこか」

短刀が飛ぶ。

1投。

2投。

3投。

4投。

減速されていない短刀が、水面の一点へ突き刺さる。

鈍い衝撃音。卯月に全て当たる。

そして。

幻覚が砕けた。

卯月と菖蒲の姿が露わになる。

短刀は急所を外されていた。

だが。

2人の動きは止まる。

霜月は蒲公英の減速を解除した。

霜月

「あれが本物だ」

「集中させろ」

蒲公英

「任せて」

今までで最大の綿毛。

暴風に乗って2人を包み込む。

菖蒲が水槍を生もうとする。

だが。

限界だった。

足を貫かれながらも維持された減速が、菖蒲の動きを完全に奪う。

卯月も幻覚を維持できない。

逃げられない。

その瞬間。

月狼と宵うさぎが動いた。

全ての綿毛が、一斉に叩き落とされる。

轟音。

ドォォォン!!

爆煙。

月狼

「終わりだ」

静寂。

宵うさぎ

「勝者~、霜月、蒲公英~」

蒲公英が息を呑む。

蒲公英

「僕の綿毛を……一瞬で」

月狼が静かに手を掲げた。

月狼

「神の祝福だ」

白い光が、霜月と蒲公英を包む。

砕けた骨が繋がる。

裂けた肉が戻る。

流れた血が逆巻き、身体へ還っていく。

時間が巻き戻るように。

やがて。

2人の身体は、試合開始前の状態へ戻った。

完全な無傷。

だが。

蒲公英はその場にへたり込む。

蒲公英

「だるいよ……」

「これ、治らないの?」

宵うさぎが酒を揺らしながら笑う。

宵うさぎ

「体は戻したよ~」

一拍。

「体は、ね~」

霜月は無言。

無傷の足で立ちながらも、その目には濃い疲労が滲んでいた。

神の祝福。

それは肉体を試合前へ戻す。

だが。

疲労も、倦怠も、精神の消耗も。

決して戻りはしない。

そして霜月は、静かに次の獲物を思い描いていた――

今後もよろしくお願い致します。

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