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今宵月 月花大戦  作者: アル治
崩れる盤面

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27/55

第27話  二の舞を演じる

いつも読んでいただきありがとうございます。

ホテル中央会場。

宵うさぎの説明を受けながら、霜月は静かにグラスを傾けていた。

だが、その内容はほとんど耳に入っていない。

視線は泳がず、表情も変わらない。

ただ、淡々と周囲を観察していた。

月狼と宵うさぎがいる間は動かない。

いや――動けない。

この場で不自然な減速を仕掛ければ、確実に気付かれる。

だから待つ。

そして。

2人が退出した瞬間。

霜月は静かに能力を発動した。

会場全体に、ごく薄い時間減速。

気付かれないほど軽く。

さらに自分自身にも数秒の減速を重ねる。

違和感を消すため。

誰にも悟らせないため。

少しずつ。

ほんのわずかずつ。

会場全体の時間を重くしていく。

誰も気付かない。

霜月の口元が、わずかに緩んだ。

それは誰にもわからないほど、小さな笑み。

やがて。

1人の人影が会場を出る。

水無月。

霜月は静かにグラスを置いた。

予定通り。

数歩遅れて会場を出る。

その直後。

背後から師走が追う。

その瞬間だけ。

霜月は師走だけに減速をかけた。

そして、自分への減速を解除する。

世界が一気に軽くなる。

口元をわずかに歪めたまま、霜月は水無月を追った。

人気のない廊下。

水無月は足を止め、振り返る。

水無月

「何か用かな?」

霜月は無言。

静かに短刀を抜く。

それを見た瞬間、水無月の目が細まる。

水無月

「……やはりお前か」

「相手が悪かったな」

水無月の前に、水鏡が展開される。

透明な鏡面。

絶対防御。

だが。

霜月は構わず短刀を投げた。

キィン――

短刀は反射される。

しかし。

宙で減速。

軌道が鈍り、霜月の手へと戻る。

水無月の表情が僅かに変わる。

水無月

「……なるほど」

「だが、私の防御は完璧だ」

「崩せはしない」

霜月は冷たく笑う。

再び短刀。

さらに接近。

斬撃。

投擲。

連続する猛攻。

だが全て、水鏡に弾かれていく。

水無月が小さく息を吐く。

水無月

「理解したか?」

「私には勝てない」

言い切った、その瞬間。

霜月が短刀を放つ。

水無月は即座に水鏡を展開しようとする。

だが。

遅い。

水面が形を成す前に。

刃が腹部へ突き刺さった。

水無月

「……なっ」

霜月が目前に立つ。

冷たい目。

そして、静かに告げた。

霜月

「盾が良くても――」

短刀をさらに押し込む。

水無月の身体が震える。

霜月

「間に合わなければ意味はない」

水無月

「ぐっ……!」

血が滲む。

霜月はゆっくりと短刀を引き抜く。

思ったより出血は少ない。

だが、痛みだけがじわじわと広がる。

その瞬間。

霜月が減速を解除した。

ぶわっと鮮血が吹き出す。

水無月の身体が崩れ落ちる。

そこへ。

師走が飛び込んだ。

倒れる寸前の水無月を支える。

師走

「水無月っ!」

視線を上げる。

だが。

もう霜月の姿はない。

再び時間減速を使い、既に逃走していた。

師走の顔が怒りに歪む。

師走

「霜月ぃぃぃ!!」

「次はないからなぁぁぁ!!」

怒号が廊下に響く。

その叫びを聞きつけ、人々が駆け寄ってくる。

そして。

月花大戦の盤面は、さらに大きく崩れ始めていた――。

今後もよろしくお願い致します。

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