ep.8「スペースウェポン『カインドネス』」
「ここは……?」
「ここは、『スペースウェポン』の保管場所です。金富 正義、あなたの『スペースウェポン』はこの『グリード』です」
牛飼は、ガラス張りに閉じ込められた大きな白い球体を指差す。
これが俺の『スペースウェポン』……。
名前は『グリード』……。
ていうか、
「『スペースウェポン』ってなんですか?」
「説明がまだでしたか。
スペースウェポンとはその名の通り、宇宙のエネルギーを宿した武器です」
「宇宙のエネルギー?」
「まぁ、説明しても分からないと思うので、端的に言うとエイリアンに対抗できる唯一の武器です」
「もっと、銃とか剣とかじゃ無いんですか?」
「そんな、『アーティファクト』はエイリアンには効きません。いいから、大人しくそこに手を置きなさい」
「は、はい」
牛飼が指差したのは、ガラスに閉じ込められた『グリード』の前にある手形の認証機。
ここに手を置けば良いのか……。
俺は恐る恐る手をその認証機にかざす。
指先から掌底まで、一本の線がスキャンしている。
ピピ……使用者 金富 正義、認証完了
プシュー……
認証完了と同時に目の前のガラス張りが開き、『グリード』が解放される。
「金富 正義、これがあなたの『スペースウェポン』、『グリード』です。これを手にすればあなたは正式に32です」
「てことは、32の人たちはみんな『スペースウェポン』を?
てことは、お姉さんも?」
「そうだよ!私の『スペースウェポン』は——」
パチンッ!
お姉さんが指を鳴らすと突如、お姉さんじゃなくなった。
いや、説明不足だな。
お姉さんたらしめる艶やかに伸びていたピンクの髪や盛り上がった二つの山は消え、肩まで伸びていてる緑髪に山の標高はかなり下がった女性へと変化する。
「この、『カインドネス』だよ!」
女性が指差すのは、顔面を覆っている黒い仮面。
口元だけは見えており、プルプルの口から女性であることは分かる。
「変身できるってことですか……」
「そうだよ、例えば——」
パチンッ!
「これとかね!」
お姉さんが指パッチンをするや否や、濁った灰色の肌に、目は拳ほどに大きく黒目の、人では無い物体へと形を変える。
「う、うわぁ!!エイリアンだ!!」
そう、俺が目覚めたカプセルの部屋にいたエイリアン。
「まぁ、正式には『グレイグ』ね!それと——」
パチンッ
「こんなのも!」
「と、トカゲ野郎‼︎」
今度は、俺のトラウマでもある隣人の男を喰った、蛇のようなトカゲのような爬虫類人間へと変身する。
「正式には、『レティアン』‼︎」
パチンッ!
そして、指パッチンで艶やかなピンク髪のお姉さんが帰って来る。
化け物経由のお姉さんは、より俺の目に妖艶に映った。
「こんな感じで変装しながら、私は『アニコン』で潜入任務をしているの」
「『アニコン』……ってなんですか?」
「『アニマコンバーター』あなたが目覚めた場所の名前だよ!
長ったらしいから、私たちは『アニコン』って呼んでるの」
「へぇー……」
「大蛇 海、雑談は事務所でしてください。金富 正義、早く『グリード』を。私は忙しいのです」
「は、はい、すみません……」
なんか怒られたんだけど……
牛飼さん怖ぁ……
俺は目の前の白い物体『グリード』に手を伸ばす。
とてもエイリアンに対抗できる武器とは思えない大きな白い球体。
俺の手が触れるや否や光り輝き姿を変える。
「バ、バッグ……?」
大きな袋にショルダーベルトがついた、まさしくショルダーバッグが目の前で出来上がる。
「な、なんなんですか?ショルダーバッグでエイリアンと戦えと?」
「『スペースウェポン』は所有者によって形を変えます。あなたには、その形が相応しいと『スペースウェポン』が判断したのでしょう」
「私の『スペースウェポン』も変身できる仮面だからね」
「エイリアンを倒せるような、強い武器じゃ無いんですね……」
「そうとは限らないよ、32の中には、自由に飛び回れる翼だったりとか爆発するグローブの『スペースウェポン』だっているからね……」
飛び回れる翼、爆発するグローブ……かっこいい。
俺なんてショルダーバッグだよ?
「そうなんですね……」
「正義くんの『グリード』は、どんな能力なのかな?」
「見た目は普通のショルダーバッグにしか見えないんですけどね……」
「繰り返しになりますが、雑談は事務所でしてください。検査は終わりですので私はこれで失礼します。私は忙しいのです。」
牛飼は、適性検査が終わるとスタスタと部屋を後にした。
おそらくあの感じ、ここのお偉いさんなのだろうな。
「あ、ありがとうございました……」
「さすが麦ちゃん、せっかちだなぁ」
「麦ちゃん……?」
「あぁ、さっきの牛飼さんだよ。
牛飼 麦。一見怖そうだけどおっちょこちょいなところもあってかわいいんだよ?
だからみんなは裏で麦ちゃんって呼んでるの」
「へぇー、あの人がおっちょこちょい……」
どうやら、アットホームな場所なのかもしれない。
『適性有り』ってことはもう、32に入隊したってことだよな。
エイリアンと戦うのか……このバッグで?
はぁ……つくづく家に帰りたい。
「それより、正義くんだっけ?
32に入隊おめでとう!自己紹介は事務所でするね!こっちについてきて!」
無事入隊した俺は、お姉さんに連れられ事務所へと向かった。
本部内の移動は基本的にエレベーターを使って行われるらしい。
適性検査や『スペースウェポン』やなんやらで忘れていたが、お姉さんの口調、『アニコン』で出会った時と変わっているんだけど。
て言うか、今のピンク髪のお姉さんって『スペースウェポン』で変身した姿だよね?
本当の姿はさっき見えた黒仮面で緑髪のボブの女性なのか……?
なかなか掴みづらい人だなぁ。
ピロン……2階、32事務所です。
俺とお姉さんを乗せたエレベーターは事務所の階へと到着する。
この先が地球解放軍32の事務所。
軍って言うぐらいだから、お姉さんの他に複数人いるのだろう。
怖い人とかゴツい人とか居たら嫌だなぁ。
エレベーターの扉が開く。
そこには、デスクチェアとパソコンらしき物のセットが7つ。
手前から6つは向かい合って並んでおり、1つは誕生日席のように内側を向いている。
まるで、会社のオフィスだ。
「ここが、私たちの事務所だよ!ささ、こっちこっち!」
お姉さんが手招きする方へ歩み寄る。
手前から数えて2列目の右側の席に何やら人影が。
初めて会うお姉さん以外の隊員。
緊張とワクワクが身体中をくすぐる。
「羊姉さん!お疲れ様です!」
「あら、海ちゃん。お疲れ様ぁ。
もう任務は終わったのぉ」
「え……もしかして、双子ですか……?」
俺の視界には、お姉さんと全く同じ容姿の女性が写っていた。




