ep.1「ジャンプをしなかっただけなのに……」
——20XXIX年12月31日
俺の名前は金富 正義。
年齢は19歳。
生まれつき髪は、父親譲りの金髪。
顔はイケメンと言えば、嘘になるが鼻筋が通っていて、少し吊り上がった目は自分の中では悪くないと思っている。
今は、小説家になる夢を抱きながら、アルバイトでアパレルの店員をしている。
そして、今は大晦日の22時34分。
あと、1時間半もすれば新たな年とご対面だ。
「やばいっ!はやく行かないとっ!」
なぜ、俺が焦っているかと言うと、今日は幼馴染の家で年越しジャンプの約束をしている。
生憎、俺は大晦日のシフトに入ってしまった。
サービス業は、国民の祝日や休日はお構いなしに出勤だ。
まぁ、お金を稼ぐにはいいのだが……。
「はぁ……はぁ……やっと……着いた!」
目の前には見窄らしい小さなアパート。
ここが20XXIX年の最後を迎える場所。
階段を登り207号室を目指す。
表札には「王豚」と書いている。
間違いない。
ここが今日の年越し現場だ。
扉の横についているインターホンのボタンを押す。
ブゥゥゥゥゥウ!
さすが、オンボロアパートだ。
チャイム音に時代の深みを感じる。
「はーい」
インターホンから聞こえる男の声。
「お待たせ!!」
「遅いよ、全く……。鍵開けてるから、そのまま入りな」
「おっけい!ありがとう!」
俺は扉を開けてお邪魔する。
ワンルームの小さなアパートのため、扉を開けるとすぐに住人とご対面だ。
「流石にバイト入りすぎじゃないか?お金を稼ぐのはいいが休息も大事だぞ……?」
赤縁のメガネをクイッとあげる男性。
この男性こそ、幼馴染の王豚 蝿。
身長は俺よりちょい高い175cmほど。
無造作に跳ねている、茶髪の髪からは外見のこだわりの無さが伺える。
いつも手には本を持っており、暇さえあれば本を読んでいる。
常に情報を脳に入れないと、気が済まないらしい。
携帯の方が使いやすいと思うが、紙の方が校正やら、校閲がなんたらかんたららしい。
「ごめんごめん、お金貯めないと来月キツくてさ……」
「遅すぎて今年は、年越しジャンプできないかと思ったよ……」
「1人だけ20XXIX年に取り残されるのは、イヤだなぁ」
俺は軽めのジョークで、その場をやり過ごし、ベッドに腰掛ける。
そして、テーブルに広がった大量のお菓子やジュースに手を伸ばした。
少しでも、大晦日のパーティー気分を味わいたいからだ。
「あれ?落兎は?まだ来てないの?」
俺は辺りを見渡す。
幼馴染は蝿ともう1人、落兎がいる。
「あぁ、その下にいるよ」
「下?」
蝿は俺の股下を指差している。
まさか……
俺は、座っていたベッドの下を覗き込む。
すると、そこには明るいフラッシュを放つ物体。
その明かりに照らされて、童顔な女の顔がよく見える。
「おーい、またそんなとこでゲームしてんの?」
「……。」
「なぁ、聞いてんのぉ?」
「だるい……」
このダルダルちゃんは堕馬 落兎。
王豚と同じ小学校からの幼馴染だ。
髪はボサボサな青髪で、地面につくんじゃないかって言うくらいに髪が伸びている。
極度のめんどくさがり屋で、自力で動いているところを滅多に見たことがない。
そのせいか、身体は小学生ぐらいに小柄で心配になるくらい痩せ細っている。
学校に行く時も、どこか遊びに行く時も、俺の愛車のチャイルドシートに乗っていたくらいだ。
今日も、王豚の原付におぶられて来たのだろう。
まさに、怠惰を忠実に体現している人間だ。
「お菓子いる?」
「食べるの……だるい……」
「はい、アーン」
俺はじゃがスティックを落兎の口の前まで運ぶ。
「……あー……ん……」
ゆっくり開く落兎の小さな口。
そこに、ゆっくりとじゃがスティックを導く。
俺はこうして、定期的に落兎へ餌付けをしている。
そうでもしないと、平気で餓死しそうだからだ。
「なぁ、落兎。
今日は何のゲームしてるんだ?」
「……ん」
落兎はゲーム画面をスッと見せる。
いつもは無視する場面だが、今日はじゃがスティックを貰えてご機嫌がよろしいようで。
「また、シューティングゲーム?
ずーーーーと、やってるな」
「……あっ……」
「ん?どうした?」
「……死んだ……」
ガタンッ
ゲーム機が落兎の手から離れ地面に横たわる。
その画面には「Death」と表示されている。
どうやら、ゲームで負けたようだ。
「ふむふむ、どうやら来年は世界滅亡の年らしい」
「滅亡!?どういうこと?」
不意に蝿から聞こえる不吉な言葉。
「ほら、これ」
蝿は本の見開きページを見せてきた。
どうやら、俺が落兎と戯れあっている間に毎度お馴染みの知識蓄えタイムを過ごしていたようだ。
「それ予言でしょ?どうせ当たらないよ」
「いや、前回の20XX年の世界的失踪事件を言い当てた人だよ。
これは信憑性が高いかもしれない……」
蝿は予言ですらも知識として蓄えるらしい。
20XX年の世界的失踪事件。
1月1日に世界で行方不明者が倍増した事件だ。
その日に父も失踪した……。
いや、父は死んだんだ。
失踪する人が遺書なんか残すはずがない。
ふと腕時計を見る。
時間は23時54分を示している。
「やばいよ!あと6分で年越し!!」
「もうそんな時間か……」
「ちょっと落兎。もうすぐで年越しだよ!
早く出てきてっ——」
俺はベットの下で引きこもる落兎を引っ張り出す。
「……え……だるい……」
1ミリも協力しない落兎は全体重を俺に預けている。
「1人だけ、新年に乗り遅れるよ!」
「……別に……いい……」
何とか落兎を引っ張り出すことに成功した。
腕時計を見ると23時59分。
5分も苦戦した。
「あと40秒だよ」
「よし!みんな構えて!!」
「……ダルい……」
俺は倒れようとする落兎の身体をなんとか支え、来年とのご対面を待機する。
蝿のやつはクラッカーなんか持ってノリノリだ。
「ちょっと、落兎!!ちゃんと立って!」
「……力……出ない……」
「もう!ジャンプしないと20XXIX年に取り残されるよ?いいの?
1人だけ12月32日になるかもしれないよ?」
「……別に……いい……」
「12月32日て面白い表現をするね?正義。
そんな幻の日があるなら実に行ってみたいよ」
「おい、蝿。揶揄うなよぉ」
咄嗟に出た俺の言葉、12月32日。
落兎に向けて言った脅しの言葉だが、何やら引っかかる。
なんなんだ、この違和感……。
「あと、10秒だ。9、8、7……」
この違和感の正体を突き止めるために、俺は脳をフル回転する。
全てがスッキリした状態で、新年を迎えたいからだ。
「4、3……」
取り残される……。
12月32日……。
X年前の世界的失踪事件……。
X年前の世界的失踪事件って年越しジャンプをしなかった人たちが12月32日に取り残されていたりして。
……まぁ、そんなことないか。
小説の書きすぎだな。
「2……」
不意に思い出す父の顔。
……父も12月32日にいるのかも。
だとすると、あの最後のメッセージは——
——20XXIX年12月31日から20XXX年1月1日の間は絶対に地に足をつけろ。絶対だ!
まさに今だ。
遺言にしては違和感ありまくりのメッセージだ。
1度たりとも忘れたことはない。
「1……」
……地に足をつけろ。
つまり、ジャンプするなってことだよな。
まぁ、これから何十年も年越しジャンプの機会はある。
今日くらい飛ばなくても別にいい。
なんなら、飛ばないほうが悔いが残るかもしれない。
「0、ハッp——」
プツンッ
……え、どういうこと?
突如、視界は真っ暗になり聞こえるはずだった蝿の「ハッピーニューイヤー」は、電源コードを無理やり引き抜かれた時のようにプツリと消えた。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます。
ほんの一言の感想や、ブックマーク、評価など、小さな応援でも次の一歩を動かす大きな原動力になります。もしよろしければ、応援ボタンをポチッと押していただけると嬉しいです……!
次話は明日22:30に公開いたします。
お待ちいただけると幸いです。




