33、再遭遇
昨日謎の魔物が出た広間に到着した。
適当にランタンを置いていく。特に何もなく設置完了した。
余りにもあっけなく終わったので、ついでにもう少し深部を探索することにした。魔物の脅威はあるがもっと情報が欲しい。深部の探索はクラウスがいない方が捗るだろう。
カリーナが地図を確認する。この広間からは三方に坑道が伸びている。右の坑道は通行ができないのかバツ印がされていた。左の坑道はこの先幾つもの分岐があり細かく枝分かれしていた。真ん中の坑道は少し進むとまた広めの分岐になっているようだった。
とりあえず、目的地が設定し易い中央の坑道を進むことで意見は一致した。分岐点を目標にして進んで行く。
ここから先はより視界を確保したいというカリーナの希望で、イーリスにも光を灯してもらった。
イーリスが光を創り出す時、反射的にソルとカリーナが目を閉じていた。昨日の出来事を警戒してのことだったが、イーリスはすんなりと杖の先に光を灯した。二人は胸を撫で下ろす。
ここの坑道もあちこちに穴が空いていた。この穴はあの白い蛇のような魔物が作ったのだろう。よくもまあこんなに穴だらけにしたものだ。
しばらく歩くと壁面に白い結晶がちらほら顔を出していた。灯りを浴びて僅かに輝く結晶はよく視るとほんのり赤みを帯びていた。
「岩塩か」
岩塩はガルドラントでもよく見かけた。携帯に便利なので遠征の時は重宝した。ここの岩塩はガルドラント産のものに比べて色が薄いようだ。
進むにつれ壁面の岩塩が増えていった。それに伴って穴が減っていく。
分岐点に出た時、穴は完全になくなっていた。
「何でここには穴がないんでしょうね」
この分岐点にも広めの空間が広がっていたが、どこにも穴はない。それを魔力探知で把握したイーリスは首を傾げる。
灯りで辺りを照らすと、壁面は一面岩塩に覆われていた。足元にもゴツゴツとした岩塩の感触がある。
「塩が嫌いなんじゃないかい?あの白いのは鉱石を食ってたろ。同じ石でもしょっぱいのは嫌いなのさ」
「そうかもな」
魔物に好き嫌いがあるのかは分からないが、蛇のような魔物がここを避けているのは事実だ。
この分岐点では二つの道に分かれていた。目的地には到達した。まだこの先に進むか思案していると、遥か後方から何かが壊れる甲高い音が聞こえた。
思い当たるのは穴だらけの広間に置いたランタンだ。早速何か動きがあったようだ。
「例の魔物でしょうか」
「その可能性がある。戻って確認するぞ」
三人は来た時と同じ隊列で引き返す。先頭のソルは灯りの届かぬ坑道の先にまで見通し、カリーナが後方に気を配る。イーリスは探知範囲を広げ索敵を図っていた。
広間が目視できる距離まで戻ってきた。念の為イーリスとカリーナはその場で待機させ、ソルが一人で一旦様子を窺いに行く。
足音を殺し広間内部に入る。そこにランタンの光はなかった。目を凝らすと破壊されたランタンの残骸が散らばっているのが見えた。
生物の気配はない。
二人の元へ戻り状況を伝える。
「わざわざランタン壊しに来たのか。変な魔物たね」
「獲物と間違えたんでしょうか」
「どうだろうな。一旦出てクラウスに伝えるか」
イーリスとカリーナも同意し、外へ向かう。
広間を通過しようとするが、中ほどまで来てイーリスの足が止まった。
「この空間、さっき来た時と形が違うような気がするんですが…何か見えませんか?」
「いや、変わったようにはみえないね」
カリーナの目には変化は捉えきれなかった。
一方、ソルの目には壁面上部の穴から伸び出た木の根のようなものが見えた。其々の穴から四方に伸びている。太い根はソルの胴回り程もある。もしやと思い地面の穴を見ると内部に同じ根が這っていた。
明らかな変化にソルの頭の中で警戒音が鳴り響く。静かに抜刀する。
「上と下を見ろ」
カリーナが腰のランタンを手に取り掲げる。彼女もまた根の存在に気づく。
「何だいありゃ」
「木の根に見えるが、違うんだろうな」
普通の木の根はこんな短時間で伸びたりしない。十中八九魔物関連だろう。
カリーナはランタンを腰に戻し背部の両手剣の柄を握る。
「木の根、ですか」
イーリスは探知に集中するが、植物は無機物と同じように探知される為、壁面の形が変わったとしか認識できなかった。
三人は警戒しながらゆっくりと広間を進んだ。するとイーリスがまた変化を感じ取った。
「私たちの背後の方の壁面が動きました。恐らく、その根が動いてます」
後方のカリーナが振り返った時、足元から一斉に何かが襲いかかって来た。
ソルは即座にイーリスの身体に腕を回し横に跳ぶ。イーリスが今し方いた場所には、穴がら這い出た触手が蠢いていた。飛んだ先にも触手は追いかけてくる。
イーリスを片手に抱えたまま迫る触手を剣で切り落とす。
カリーナも回避していたが、執拗な追撃により腰のランタンを破壊されていまった。
光源が一つになり、途端に暗闇の範囲が広がる。視界を失ったカリーナは両手剣を振るいながら唯一の光源であるイーリスの方へ走った。
ソルは四方八方から迫る触手を避け、斬り払う。触手は全て木の根だと思っていたものだった。張り巡らされた根は素早く襲ってくる。
「イーリス!防御結界は張れそうか!?」
「はい!いつでもいけます!」
「俺が合図したら直ぐ張るんだ!」
ソルは脚に力を込め、高速で一回転する。迫っていた周囲の根が一瞬で切断された。ソルはその場にイーリスを下ろし
「今だ!」
前方に跳躍した。イーリスはすぐに結界を展開する。ソルが離脱するのと結界が完成するのはほぼ同時だった。
イーリスに根が襲いかかるが結界に阻まれ、表面をのたうつしかできない。
ソルは闇の中、根との戦闘に苦戦しているカリーナの元へ向かう。
カリーナは視界が悪いのにも関わらず、襲い来る根をどうにか斬り払っていた。
だが、次第に対応できなくなり腕に太い根が巻き付いた。万力のような力で締め付けられ握力が低下する。片手で両手剣を握り締め、腕を戒めている根を斬り落とす。
安堵する間も無く、今度は地面の穴から伸びた根が脚を固定する。僅かにバランスを崩したカリーナに頭上から、人を軽く潰せそうな太さの根が降ってきた。 彼女は足元に気を取られ頭上の根には気づいていない。
根がカリーナを押し潰そうとした瞬間、疾風となったソルが体当たりするように彼女を抱えて回避した。 背後では地響きを立てた根が地面を抉っている。
二人は回避した勢いのまま壁面にぶつかった。
「げほっ…あんた強烈なのかましてくれるね」
「あれに潰されるよりマシだろ」
顔を歪めるカリーナに地面に鎮座している根を指すが、彼女には暗くて見えていない。
だが、ソルが危機から救ってくれたことは理解していた。脚に残った根を払い両手剣を構える。さっきの衝撃でも剣を離さなかったのは流石というべきか。
「んで、どうすんのさ、この状況」
「どうもこうも逃げるしかないだろう」
話している間も根は二人を狙ってくる。
「出口はイーリスの近くだ。俺に続け、行くぞ!」
双剣を両手剣が振るわれ、切断された根が地面に落ちた。光を目指して走る。
低い地響きが耳に入る。嫌な予感。ソルは直感で上に跳んだ。その直後、彼がいた場所に大きな根が横から一直線に伸びてくる。カリーナは目の前を大きな根に塞がれ、たたらを踏んだ。
空中にいるソルに天井から伸びた根が迫る。足場のない空中で迎撃するのは通常困難である。
しかしソルはその高い身体能力で、脚と体幹を使い体を回転させ迫る根を全て斬り払った。
カリーナは両手剣を振りかぶり目の前の根を両断した。斬られた根は動かなくなった。
その傍にソルが着地する。
その時、感じる光が弱くなった。イーリスの方を見ると結界を根が覆い尽くしていた。結界が破壊される恐れはないだろうが、光が少なくなりカリーナの動きが鈍る。
ソルはカリーナが穴に落ちないよう誘導しつつ根を斬り捨てた。今、カリーナの目には近くにいるソルの背中がギリギリ見える程度だった。攻撃してくる根を避けるのが精一杯のようで、明らかに移動速度が落ちた。
これは先にカリーナの視界を確保する必要がある。
「イーリス!もっと光をくれ!」
ソルの叫び声に反応してイーリスが空いた腕を横に払う仕草をした。すると結界を覆っていた根に幾つもの線が走り、バラバラになり地面に落ちた。
光の勢いが戻る。ついでにイーリスは光の出力を上げた。煌々と光り広間の闇を追いやった。
眩しいがこれでカリーナも着いて来れる。二人は走って結界の元へ寄った。
ソルは根が逃げるように穴に隠れ始めていることに気づく。大きな根のみ、少ない闇の中で蠢いていた。
もしかするとこの根は光に弱いのかもしれない。
「イーリス!光の強さを最大に!」
イーリスは頷き、カリーナは慌てて目を閉じる。直ぐに光の爆発が起こった。全てを白に塗り潰す。広間の闇は完全に消し去られた。這いずる音が遠ざかっていく。
数秒後、広間の形が元に戻ったことを探知したイーリスが光量を下げる。
目を開けると、あれ程いた根がいなくなっていた。地面にはカラカラに乾燥した根の残骸が、一面に散らばっていた。カリーナが両断した背丈程の太さの根も乾燥して半分の体積になっている。
「逃げましたね」
「あぁ、助かった。強い光が弱点のようだな」
イーリスは結界を解除する。盾二人は剣をしまう。
カリーナは足元に落ちている根の残骸を拾った。
「これをあいつに見せたら何か分かるかもしれない」
腰のベルトに引っ掛け持ち帰る。
静けさを取り戻した広間。さっきの戦闘が嘘のようだ。
こうして三人は危機を乗り越え、坑道から脱出した。




