第4話 謁見
城へ続く長い階段を前にして、俺は車いすの上で小さく息を吐いた。目の前にあるのは、王が住む城。その入口まで行くには、この階段を上らなければならない。
以前の俺なら、こんなものはどうってことなかった。両足で立って、普通に歩いて上ればいいだけだ。でも、今の俺にはそれができない。
両手はない。片足もない。残った足だって自由に動かせない。車いすから降りることすら難しい俺にとって、この階段は厳しすぎる。
「……これ、どうする?」
俺が階段を見上げていると、エレナ、フィリー、セシリアの3人が俺の横に並んだ。
「どうするって、決まってるでしょ」
エレナが当然のように言う。
「ルークはそのまま座っていてください」
「いや、でも……」
「大丈夫、ぼくが魔法で軽くするから」
3人が車いすの周りに立つ。
そして次の瞬間、車いすごと俺の体を持ち上げた。
「うおっ!?」
3人は息を合わせながら、1段ずつ階段を上っていく。車いすが揺れるたびに俺の体も揺れた。
「……申し訳ねえな」
思わず口からこぼれた。
3人は俺を城の中へ運び入れた。
そして国王のいる部屋へと赴く。
国王が国民から無能と呼ばれていることは知っている。
それだけじゃない。わがままで、ケチな王だという話も聞いたことがある。
「どうなることやら」
俺たちは元々そんなに期待されていたパーティーじゃない。周りからはタンクパーティーとバカにされてたくらいだ。
俺たちが魔王を倒すなんて、国王も思っていなかったはず。
「よくぞやってくれた! そなたたちはこの国だけではなく、世界そのものを救ったのだ!」
国王は俺たちの功績を何度も口にした。
魔王を倒したこと。魔王軍との戦いで多くの人々の命を救ったこと。
そして、その中心にいたのが俺だということ。
「いやいや、俺じゃないっす。ただのタンクなんで」
ていうかこの国王、めっちゃいい人なんだけど。
「ルークよ。そなたに勇者の称号を与える!」
「……は?」
思わず間の抜けた声が出た。
勇者? いらんいらん。
だから俺、タンクやぞ。勇者っていうのは大抵、剣士様がなるもんだろうよ。
俺は盾を持って、仲間の代わりに攻撃を受けてただけ。しかも今は、その盾を持つ両手すらない。
俺は隣にいるエレナを見た。エレナなら、このギャグのような展開に笑ってくれると思った。
「……え?」
エレナは泣いていた。目から大粒の涙がこぼれている。
「お、おい……エレナ?」
「ルークがいなければ、私たちは死んでました」
声が震えている。
「世界だって滅んでました。ルークが全部の攻撃を受けてくれたから、私たちは最後まで戦えたんです」
「いや……」
「ルークは真の英雄です」
エレナはまっすぐ俺を見る。
「世界でただ1人の勇者だと、私は思います」
「えぇ……」
やめてくれよ、そういうの。
重い。めちゃくちゃ重い。俺にはもう荷物を持つことすらできないっていうのに、今度は勇者という肩書きまで背負わせる気か。
荷が重すぎる。
勇者なのに自分で歩くこともできない。このままだと、お飾り勇者まっしぐらじゃねえか。
そんな俺の横から、魔法使いフィリーが1歩前へ出た。
「国王様」
「うむ」
「1つ、進言させていただきます」
「申してみよ」
「ルークの偉業を、本にすべきだと思います」
「は?」
何を言ってるんだ、こいつ。
「<身代わりの盾>。そんなスキルを発現しても、誰も自分からダメージを引き受けようとはしないでしょう。ですがルークは、いつもぼくたちを守ってくれました」
「いや、それは、丈夫さだけが俺の」
「彼ほどパーティーに献身的な冒険者はいません」
「待て待て」
俺は止めようとした。
「それしか取り柄がなかったんだよ」
剣を振って敵を倒せるわけでもない。魔法が使えるわけでもない。だったら盾を持って、みんなの前に立つしかなかった。俺はただ、それをやっていただけだ。
「うむ。実に素晴らしい話だ。ルークの献身性を教科書にのせ、義務教育に取り入れよう」
了承するな、バカたれ。国王に内心でバカと言ってしまった。
そしてヒーラーのセシリアも、ここぞとばかりに口を開く。
「国王様。もう1つお願いがございます」
おい、やめろ。何を言うつもりだ。
「何でも申してみよ」
「ルークは現在、教会で過ごしています。しかし、教会ではこれ以上の回復は見込めません」
「……」
嫌な予感しかしなかった。
「よろしければ、空気のきれいな土地で療養させていただきたく存じます」
「おい、セシリア。俺は今まで通りワンルームでいいんだけど」
セシリアは俺の言葉を聞かなかったことにした。聞きなさい。
「もしそれが叶うのであれば、必ずや私がルークを元の体に回復させてみせます。ルークの体は、国より重いのです」
「なわけあるかい」
思わず突っ込んでしまった。国より重いって何だよ。
「良いだろう」
よくねぇ! よくねぇよ絶対。
しかも国王は俺の療養のために、ある土地を丸ごと与えると言い出した。
「我が使っていた別荘も、ルークに授けるとしよう」
いらんいらん。俺は首を振った。
「い、いえ。私のような一介の冒険者に、それはあまりにも」
デカい家なんていらねえよ。もらうとしても、もっと小さい家でいい。むしろその方がいい。
しかし国王は聞く耳を持たなかった。
「もちろん金貨も渡す。とりあえず、1千万ゴールドでよいか」
さらに俺は、一生遊んで暮らせるだけの金まで手に入れた。いや、人生何回遊べんだよ。
「そんなにいらんって……」
正直、使い道がない。この体じゃろくに遊べないし。そもそも俺は元々、金を使わないタイプだった。
高い装備や盾を買うことはあった。でも、それだって冒険者として必要だったからだ。もう盾を買う必要もない。
なら、貯金しておけばいいか。
俺が死んだあと、どこかに寄付するなり、3人に財産として残すなりすればいい。
ひとまず、一生働かなくてもいいだけの金と、住む場所が手に入った。
あとは俺が、こいつらから自立すればいいだけの話。
そう考えていた。そのときだった。
城の外から、大きな歓声が聞こえてきた。
「……何だ?」




